第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた⑧
テイムしたハエが地下にある部屋の前まで到着したとき、なにやら声が聞こえてきた。かろうじてハエが通り抜けられそうな隙間があったので、そこから中へ入る。
『は、はい。私の知っていることはそれだけです。ガイル様』
おびえた男性の声が聞こえる。回り込むと、見覚えのある顔だった。
――コイツ、オレのハチミツを買い占めた商人だ。
いつもの商人ではなかったので、気になっていたのだ。
あの時は確か、「いつもの人が別の仕事で忙しいので、代わりに来た――」そう、言っていたのだけど……なるほど、ニセモノだったのか。
『はあ? 巣箱でハチを飼っている――だと? 鳥じゃあるまいし』
『ですがガイル様、ミツバチは社会性がある生き物だと聞いたことがあります。その特性を理解していれば、できなくはないのでは――と思われます』
ずいぶんと座り心地の良さそうなソファにふんぞり返って座る金髪の若い男に向かって、背の高い男がそう意見した。
『ふん、まあイイ。アクバル、そのアンリとかいう昆虫テイマーのカギ、それと母親もさらってこい』
――えっ?
ガイルと呼ばれた若い男の口からオレの名前が出てきて面食らう。オレと母ちゃんをさらう? 誘拐するということか?
『いかがなさるおつもりで?』
アクバルという背の高い男が、ガイルに尋ねる。すると、ニヤリとしながら――
『母親を人質にして、そのガキにハチミツを作らせる。それでボロもうけだ。どうだ? オレって頭イイだろ?』
そんなことを言う。仕入れ値の百倍もの粗利を取っているにも飽き足らず、強制的に働かせてそのすべてを懐に入れようという魂胆か――
『――わかりました。さっそく、手の者を行かせましょう』
『さっさとやれ――アチッ!』
注がれたばかりのお茶を飲もうとカップに口を持っていったガイルは、よっぽど熱かったらしく、そう声にする。
『熱いだろ! オレ様にヤケドさせるつもりか!』
お茶を持ってきた娘にそう怒鳴る。彼女は『す、すみません!』とおびえながら頭を下げた。
『謝れば済むわけじゃないんだよ! この役立たず!』
そう言って、ガイルは持っていたカップを彼女に投げつける。熱湯を被った娘は『きゃあ!』と叫び、その場に倒れる。するとガイルは立ち上がり、その娘を何度も蹴った。
『お許しください! どうか、お許しください!』
そう泣きながら懇願する彼女を無慈悲に蹴りづけるのだが、アクバルという背の高い男が『それ以上蹴ったら死んでしまいます』と止めに入る。
『くそっ……次やったら、本当に殺すからな。おい! ぼーっとしてないで、片付けろ!』
ガイルの怒鳴り声で、周りにいた者たちが慌てて動いた。
『ああ、イライラする。オンナでも抱くか。おい、昨日さらってきたオンナを連れて来い』
『ですがガイル様、処女は高く売れます。どうかご遠慮を――』
高く売れる? オンナ、子供を誘拐して、売りさばいている――ということか?
『はあ? 何を言っている? 処女かどうか、オレが確認してやると言っているんだよ』
『それでは価値が下がってしまいます』
『うるせえ! そこを何とかするのがテメエの仕事だろうが! もうイイ! 自分で行く』
そう言って、部屋を出て行った。
ふーん。このガイルというヤツ、とんだクズだ。
それにしても、王都にこんなヤツらがはびこっているとはな……
さて、コイツらをどうしてやるか――




