第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた⑦
その羽蟲は、たくさんの脚でオレを抱きかかえ、空高く舞い上がった。
蟲のカラダにはトンボに似た羽が十枚生えている。その姿から、オレは伝説の生物、『スカイフィッシュ』と名付けた。
空中を超音速で飛び回り、人の目では捕らえることができない――そういった架空の生物を『スカイフィッシュ』と呼ぶのだが、この巨大な羽蟲も音速を超えて飛び回る。
この蟲を移動手段として使えないかと考えテイムしたのだ。ソイツに抱きかかえられた状態で飛ぶように命令すると、さすがに速い。超人的なオレのカラダでも最初は気を失ってしまったほどである。しかし、慣れるとなかなか便利だ。
今回、初めての長距離移動を試してみたのだが、十五分ほどで王都まで到着した。馬車では五日ほどかかる距離である。
「よし、この辺りで離せ」
王都のはるか上空でオレはそう命令する。
言われたとおりに、スカイフィッシュはオレを抱きかかえていた脚をパっと開いた。
当然、オレは落下する。その間、着地に適した場所を探した。
「――やっぱり、アレがイイな」
王都で一番高い建物の屋根――つまり、王宮の上を目指し、落下を続ける。
王宮に激突するというところで、念動力により急減速。ほとんど、音を立てずに着地した。
「さて、ハチミツを売っていた店の場所は――あっちだな」
今度は幻像で、自分の姿を隠し、屋根伝いに移動。人目のない場所で幻像を解除した。何食わぬ顔で、街中を歩く。
途中、古着屋で《《あやしい》》黒ローブに目を奪われ、衝動買いしてしまう。さっそく身につけると、いかにも《《あやしい》》人物――という様相になり、なかなか気に入った。
――って、そんなことをするために王都へ来たわけじゃない。オオカバマダラの記憶にあった店を探さなければ……
「この店だな。黒薔薇商店? なんちゅうネーミングだよ」
店内をのぞくと、ハチミツを売っていた棚に、『売り切れ』の文字が――
「なにをお探しですかな?」
そう言った声が聞こえたので、振り向くと愛想のよさそうなちょび髭の男性が――
「ここでハチミツが売っていると聞いて来たんだけど、売り切れなんですね」
そう尋ねると、その男性は、「ええ、そうなんですよ」と愛想笑いをする。
「貴族の方がお買い上げになりまして、完売しました。申し訳ありません」
なるほど、カネに糸目をつけない貴族へ売りつけたのだな。
つまり、この店は貴族ともつながりがあるということか――オレは、他の商品をチェックする。
高級そうなワインが並んでいた。どうやら酒屋のようだが、そのわりには不自然なところが多い。なにより、店の入口にいる二人の男。その身なりは、この洒落た店の雰囲気に合わない。防具や剣を携帯している――冒険者風の容姿は、ココのガードマン……というところだろう。
決して大きな店ではない。それなのに、ガードマンを二人も雇っている。
ということは、『カネをかけてでも守らなければならないほどの品物を扱っている――』ということだ。
高級なお酒を売る店――だけではなさそうだな。
オレは、ちょび髭の店員に挨拶したあとそのまま狭い路地に入った。
「ちょっと、探りを入れてみるか」
近くに飛んでいたハエをテイムすると、その店の奥へと侵入させる。ハエの視界を共有すると、案の定、地下へとつながる階段が見えた。こんな施設、ふつうの店にあるわけがない。
そのまま、地下へ移動する。




