第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた⑤
「そうそう、まだハチミツはある? 今日もいっぱい収穫できたぞ」
そんなことを言ってみる。女の子が落ち込んでいる時には、甘い食べ物の話をするのがいちばんだ。
男性諸君は覚えておくとイイぞ。
「えっ? うん、まだあるよ。本当に美味しいよね? アンリのハチミツ! もう、村の名物だものね!」
彼女の表情がパッと明るくなったので、ちょっとホッとする。
彼女が言うとおり、ハチミツをこの村の名物にしようと、オレは養蜂を始めた。
この世界に養蜂、つまり、巣箱を作ってそこにミツバチを飼い、ハチミツを取るという技術はまだ存在してなかった。ハチミツを食してはいたが、ミツバチの巣を探し出し、採取する以外にハチミツを手に入れる方法はない。だから、ハチミツはとても貴重なのだ。
最初は「ハチを育てるなんて――」と怖がられ、村の人たちから反対された。
ミツバチはそもそも大人しい昆虫で、人を滅多に刺さない――そう説得して、なんとか村外れの土地を借り養蜂を始める。すると、あっという間に養蜂のすばらしさをみんながわかってくれた。今では、「自分もやりたい」と、畑仕事の合間に手伝ってくれる人も現れている。
おかげで、村の分だけでなく、商人に売れるほどのハチミツが取れるようになった。
商人は、喜んでハチミツを買ってくれる。村の主要産物である小麦でなく、わざわざハチミツだけを仕入れにくる商人もいるほどだ。
「それじゃ、ハチミツ入りのシフォンを焼いて、あとで持っていくよ」
そう付け加えると、「ありがとう!」と嬉しそうだった。
「やっぱり女の子だな。甘いモノですぐに機嫌が良くなる」
そんなふうにからかうと、セリーネは頬をぷうっと膨らませる。
「そ、そういうわけじゃないんだからね! アンリが『どうしても――』って言うから、食べてあげるんだからね!」
どうしても――なんて、言った覚えはないが、まあ、イイか。
「セリーネ、ありがとうな。オレが学校へ行けるように、教授へはたらきかけてくれたんだろ? 一緒に王都へ行けなくて、ゴメンな」
そう言うと、「べ、別に一緒に行きたいから、教授にお願いしたわけじゃないから! 本当に、アンリのスキルはスゴいと思って――」と、セリーネはムキになって言い訳する。
「はいはい、そうだね」とオレは素っ気なく応えた。
「本当だからね! 勘違いにしないでよね!」
そう言う彼女だが、お風呂や寝る前など、ひとりでいるとき、「アンリと一緒に王都へ行けますように」と祈ってくれていたのをオレは知っている。そういうところは実にカワイイ。
なぜ、そんなことを知っているのか?
もちろん、セリーネに何かあったらすぐ助けられるようにと、いつも、虫たちを彼女の近くで見守らせているからだ。
オレのスキルは、昆虫たちの五感や記憶を共有できる。だから、彼女のひとりごとも知っているのである。
それって、ストーカーじゃね?
――だって?
いやいや、あくまでも見守りである。けっして、彼女のプライベートをのぞき見《《したい》》わけではない。結果的に、そうなって《《しまっている》》だけだ。
ん? あれは蝶だな。
えっ? のぞき見を追及されたくないから話題を変えようとしてる――だって?
違うからな。そうではないぞ。
今、見つけた蝶は、『オオカバマダラ』という。数世代をかけて、何千キロも旅することが知られている、渡り蝶の種類だ。
この時期のオオカバマダラは、王都方面からやってくる。ちょうど、王都の様子を知りたかったのだ。
オレはオオカバマダラを呼び寄せ、その記憶にアクセスする。やはり、王都から来たようだ。
さて、オレのハチミツの人気は――ん? この店で販売している小ビンに見覚えがあるぞ。黄金色の中身はまさしく、ハチミツだ!
……えっ?




