第二話 ハチミツの儲けを取り返す……はずが、なぜか組織ごと乗っ取っていた①
「フ、フ、フ……、今年の『土』もイイデキだぜ。これもオマエらのおかげだ。ありがとな」
こんもりと盛り上がった腐葉土の前で、オレはニヤけていた。
いかにも村人という容姿の少年――それがオレ。名前をアンリ・ファーブルという。今年で十五歳になった。
「アンリ? なにしているの?」
赤毛の少女がやってきて、そんなふうに声をかけてくる。彼女の名前はセリーネ・ハリア。オレの幼馴染で、村長の娘。想像通り、美少女に育ってくれた。特に《《ムネ》》辺りの成長には目を見張るモノがある。
セリーネはオレが手にしていたモノをのぞき込むと、「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
「もう! なんで《《そんなの》》を手にしているのよぉ!」
そう彼女が怒るので、オレはムッとした顔になる。
「《《そんなの》》とはヒドイ言い方だな? ダンゴムシにヤスデ、それにカブトムシの幼虫じゃないか?」
そう言って、彼女の前に虫を乗せた手を突き出した。
「きゃあ! だから、そんなモノを見せなくてイイから!」
赤毛の少女はササッと三メートルほど離れた。
一応、誤解がないように言っておく。女の子にそういった虫を見せて、反応を楽しむ――という、ガキみたいなことをしているわけではいない。オレはもう十五歳。すでに、分別つく年ごろである。本気でダンゴムシやヤスデ、カブトムシの幼虫が大スキなのだ。
「オマエたちはこんなにカワイイというのに――セリーネはわかってないよな?」
そんなふうに、虫たちに向かって話しかけた。
「アンリが虫と話ができるのはわかるけど、そうやって人前で虫と話をするのはやめて」
また、気持ち悪いヤツだと言われるよ――そう、セリーネは忠告してくる。
「ふん。そんなヤツ、言わせておけばイイさ。だいいち、コイツらのおかげでオレたちは美味しい野菜が食べられるんだぞ。コイツらが枯れ葉や朽ち木を食べて腐葉土にしてくれなければ、立派な野菜なんてできないんだ。みんな、コイツらに感謝すべきなんだよ」
オレは力説するのだが、セリーネはため息をつく。
「わかった、わかった。アンリったら、いくら『昆虫テイマー』だからって虫のことになると、どうしてそんなに熱くなれるのかなぁ」
そう、オレは転生前の約束通り、神様から『昆虫テイム』のスキルを授かった。
この世界でも『昆虫テイマー』という職業はかなり珍しいようだ。なので、オレが自分のスキルを説明すると、誰もが笑いを堪えた表情をする。
まあ、「虫なんか使役して何の役に立つのか?」そう思われて当然だ。なにせ、『虫』だもんな。
ちなみに、いくらそのスキルを使っても、ダンゴムシやカブトムシと会話はできない。さっきのは、あくまでもオレのひとりごとである。
「どうでもイイけど、早く行かないと遅れるよ?」
「――遅れる?」
なんのことだ?
そんな顔をオレがしたので、赤毛の少女は呆れた表情になった。
「もう、やっぱり忘れているんだから! 今日はお祈りの日でしょ?」
セリーネに言われて、「あ……」とつぶやく。
「も、もちろん、覚えていたよ」と応えたのだが、目は泳いでしまう。
セリーネにはバレバレだったようで、再びため息をつかれ――
「ハイハイ、それじゃ急いで準備をして」と言われた。
先に行ってくれと頼んだのだが、「そう言って、ひとりにすると、いつも来ないじゃない」と言われる。さすがに十年も付き合いがあると、オレの行動パターンは読まれてしまっていた。
別にお祈りをサボりたいわけではない。いろいろやっているうちに、忘れてしまうんだよ。
身支度をすませると、セリーネに引っ張られオレは教会へと向かった。




