第一話 アマゾンで楽しい昆虫採集……のはずが、なぜか異世界に転生していた⑩
自分を崑蟲族の主、『崑蟲王』だというおじいさんの大型崑蟲に出会ってから、三カ月が過ぎた。
オレは彼のおかげで、たくさんの崑蟲族と出会え、毎日を楽しく過ごしていた。
「アンリぃ! ココよぉ!」
ジュラの森で、そう叫んでいたのはベスパ族の娘、ローズである。ベスパ族はスズメバチを起源とした崑蟲族。キラービー族のハニーより大柄で、しかもダイナマイトボディだ(どういう意味かわからないお子ちゃまは、お父さんに聞いてみよう!)。
そして、擬人化が得意なところもキラービー族と同じである。ローズも擬人化して現れた。
やはり、人の姿でもスタイル抜群で、出るところは出て、締まっているところはキュッとしている。トラ縞のビキニという容姿もなぜかキラービーのハニーと同じである。崑蟲族で流行っているのだろうか?
「ローズ、今日は早いね!」
「そりゃあ、アンリに会えると思ったらうれしくて!」
そう言いながら、彼女はダイナマイトボディのカラダをオレに押し付けてきた。
いくら擬人化した偽りのカラダだとわかっていても、さすがに意識してしまう。
「こらぁ! ローズ! 抜け駆けするなぁ!」
そんな声が上空から聞こえた。見上げると、やはりトラ縞のビキニ姿が目に入る。キラービー族のハニーだ。
「はあ? なんでハニーがいるのよ! 私とアンリはこれからデートなのよ。邪魔しないで!」
デートの約束なんてした覚えはないが、まあイイか……
「そんなわけないでしょ! アナタみたいなイラらしいカラダはアンリさまの好みじゃないんですぅ!」
「あら、アンリだって男の子だもの。おっきなムネが好きよね? ハニーみたいなオコチャマ体形に用はないの。わかったら、おウチに帰って、ママのおっぱいでも吸ってなさい? これから、私たちはオ・ト・ナのお付き合いをするんだから」
そう言って、ローズはオレを抱きあげ、自慢のムネに押し当てる。
別に、大きなムネが特別好き――というわけではないが、まあ……悪くもない。
キラービー族長の娘であるハニーとベスパ族長の娘であるローズは会うたび、いつもこんなふうに言い合いをしている。
そもそも、自然界のミツバチとスズメバチも、ムチャクチャ仲が悪いのだ。同じハチの仲間なのに――である。
「だから、私のアンリさまから離れなさいよ!」とハニーもオレに抱き着いてきた。
うーん、女の子二人に取り合いされる身分になるとはなあ……まだ、六歳だけど。
一応、明確にしておく。相手は擬人化しているけど、崑蟲族という立派な魔物。なので、ノーカウント。二股でも、優柔不断でもない。断じて――
そもそもこんなことをしにきたわけじゃない。
もう少し、女の子にサンドイッチさていたい気持ちもあるが、ここは本来の目的を切り出す。
「ところでローズ、例のモノは持ってきた?」
「もちろん、持って来たわよ。はい、これ」
そう言って、ローズはガラスでできた小さな容器をオレに手渡した。
容器自体はオレが彼女に預けたモノだ。問題はその中身。
「おおっ、これか!」
容器のフタを開けると、生臭いニオイがした。
「なにそれ? ヘンなニオイなんだけど――」
ハニーが鼻をつまんで、質問してくる。
「これが、VAAMさ!」と自慢げに言う。
「――ばあむ?」
「アンリはそう言うんだけど、ベスパ族の幼虫が吐き出す体液よ。私たちべスパの成体は、これを飲んで生活しているの」
――とローズが説明したとおり、これはベスパの幼虫が作る栄養液である。
自然界のススメバチも同じように、幼虫が吐き出す栄養液を成虫のエネルギー源にしている。主にアミノ酸なのだが、体内ですぐにエネルギーへと変わるため、スズメバチは疲れ知らずに飛び回れるのである。
ローズたちベスパ族のそれは、エネルギーだけでなく魔力も含まれているようで、それで彼女たちは強力な魔法を有するのだ。
「――だけど、アンリは飲まないでね。これはとても濃縮にしたエネルギーと魔力が含まれているから、私たち以外の種族が口にすると劇薬になるの。最悪、死ぬかもしれないからね……って、アンリ! もしかして、飲んだのぉ!」
なんか、ローズが慌てているが、それこそがオレの目的だ。当然、すぐに飲んだ。
すると、カラダの中が燃えるように熱くなる。
「うわぁぁぁぁっ!」
オレはそう叫びながら、激しい痛みに耐えきれず、地べたを転がり回った。




