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婚約破棄されましたが、むしろ都合がいいので魔女になります~馬鹿な王太子は置いといて、私は本当の王子様を育てましょう~

「──この婚約を、破棄させてもらう!」


 パリーン、と音を立てて水晶のシャンデリアが心の中で砕け散る。その欠片一つ一つに、声の主の猿と似て似まくるアホ面が映った。


 宮廷舞踏会のまっただ中、煌びやかな会場の中央で、婚約者であるアルフレッド王太子が、堂々と私──公爵令嬢クラリス・エグレッタ──に向かって宣言したのだ。


 王族、貴族、商人、使用人、果ては楽団員までもが手を止めてこちらを凝視している。空気は凍りつき、音楽は止まり、馬鹿が一匹、神妙な顔をしている。


 ──これは、滑稽劇かしら。


「……ええ、いいですわ。むしろ助かります」


 私は口角を上げ、静かに答えた。


 王太子の顔が強張った。驚きと、ほんの少しの焦り。可笑しい。予想通りの反応。


「な、なに? もっと取り乱すと思ったのだが……泣き崩れるとか、私にすがりつくとか……」


「あら、私にそんな趣味があるように見えました? 失礼ですこと。私、みっともないことが嫌いでしてよ」


 私は涼やかに微笑んでみせる。


「な、なんだと……!」


 王太子が憤る。ああ、見苦しい。まるで自分が被害者であるかのような顔をして。


「殿下。あなたにひとつ、忠告を差し上げますわ」


 私は扇子を広げ、彼の顔の前でパチンと閉じた。


「“婚約破棄”というものは、相手に打撃を与える意図があってこそ意味があるのですのよ。打撃にならない婚約破棄は──ただの滑稽劇ですわ」


「き、貴様……っ」


 怒りで顔を紅潮させるアルフレッド王太子。その背後に立つのは、男爵家出身の令嬢、リディア・マイヤーズ。今回の茶番の元凶、つまりは彼の“新しい女”である。


「クラリス様、お願いです、殿下と喧嘩は……!」


 リディアが取り成そうと一歩前に出た。


 私は冷ややかに彼女を見下ろす。


「どうぞご安心なさいな。私は喧嘩などしておりませんわ。喧嘩とは対等な者同士がするもの。王子と犬は喧嘩しませんものね?」


 リディアの顔が青ざめ、周囲の貴族たちが小さくどよめいた。誰も声を出さない。誰も笑わない。だが、その目は全員、私に向いている。熱を帯びて。


「あなたには、お似合いですわよ。殿下のようなお方が。きっとお幸せになれると思いますわ」


 私は深々と、完璧な礼を一礼した。


 形式を外さず、誇りを傷つけず、しかし芯から軽蔑を込めて。


 それが私、クラリス・エグレッタの流儀。


「……く、くっそぉ!」


 王太子は忌々しげに吐き捨て、リディアを連れて会場をあとにした。拍手も見送りもない。あるのは沈黙と、冷ややかな空気だけ。


 私はスカートの裾を軽く揺らし、くるりと背を向ける。


 次の瞬間、会場の端から拍手が一つ、静かに鳴り響いた。


 誰かと思えば、老伯爵だった。


 彼は静かに目を伏せ、「美しい」と小さく呟いた。


 その一言で、舞踏会の空気が少しだけ変わった。


 私は微笑む。


「さあ──これでようやく退屈が終わるわね」


 そう呟いて、ワイングラスをひとつ、空にした。


 婚約は破棄された。私の肩書きは少しばかり軽くなった。けれど。


 どうとでも出来るから大丈夫。


 ──でもそれは、また別の話。




◆純情王子の好みはSな女性




 僕の名はライナス・ヴェルデ──第一王太子アルフレッドの弟であり、この国で最も不憫な第二王子である。


 なぜ不憫かって? 説明は簡単だ。


 ──兄がバカだからである。


 その証拠が、昨夜の舞踏会だ。


 大勢の貴族が見守る中、兄は堂々とクラリス・エグレッタとの婚約を破棄した。


 しかも、よりにもよってあんな浮ついた男爵令嬢との駆け落ち宣言つきで。


 あの時、僕は思った。


 バカだ。兄上は、取り返しのつかないバカをやらかした。


 なにせ、彼が放り捨てたのは──この王都で最も気品と毒を併せ持った、美しき令嬢なのだから。






 翌朝、僕は気づけばクラリスの屋敷を訪れていた。


 いや、正確には“兄の無礼を詫びるため”という建前だった。だが本音は、自分でもうまく説明できなかった。


 ……ただ、もう一度あの人に会いたいと思ったんだ。


 扉が開いたとき、彼女はもう応接間に座っていた。


 陽光を黒曜石色の髪糸に当て、薄紅のティーカップを指先で転がしながら、じっと僕を見た。少し目を見開いて、指の力をそっと抜いていた。


 彼女の紅い瞳の視線に、心臓がきゅっと締めつけられる。


「良かった。王太子様が来たと聞いてまたあなたの兄が何かしでかすかと思いました。正直、ティーカップを叩き投げる準備をしていたもの」


「い、いえっ!? 僕は兄の愚行を詫びに……っ!」


 僕は慌てて頭を下げた。情けないくらいの直角お辞儀だったと思う。


「謝罪の必要はないわ。王子の兄が愚かでも、弟は弟でしょ」


「……クラリス様は、お怒りでは?」


「いいえ? むしろ楽しかったわ。“女の涙”を期待していた男の前で、カウンターをお見舞いするのって、ちょっとした演劇みたいじゃない?」


 彼女は小さく笑った。その笑みが、あまりに綺麗で、僕は呼吸の仕方を忘れた。 


 彼女は僕より10センチも背が大きかった。


 座ったままで測ったけど。





 兄の言っていたクラリス像──「冷たい」「傲慢」「感情がない」──全部間違っている。

 目の前にいる彼女は、たしかに冷たさを纏っているけれど、それは決して心がないのではない。


 感情を、無闇に撒き散らさないだけだ。


「……兄上は、馬鹿です。いえ、正真正銘の救いようのない……」


「ふふ、ライナス様はあんなお兄様に似なくて良かったです。でも、そこまで言わなくて大丈夫ですよ?」


「でも……でも……クラリス様のような方を、見捨てるなんて……っ」


 僕の口から勝手に出た言葉に、彼女が目を細めた。


「“見捨てる”なんて言葉、嫌いです。まるで私が捨てられる側だったみたいじゃない」


「えっ……」


「私が、あの勘違い陽キャ頭を捨てたの。多分始めて会ったときから捨てる覚悟をしてたわ」


 雷に打たれたような衝撃が走る。こんなに強い女性はあまり見ない。


 強い。美しい。そして、誇り高い。


 ──どうして僕は、今までこの人に気づかなかったのだろう。







 応接間を辞す頃には、僕はすっかり呆けた顔になっていたと思う。


「では、兄の件、重ねてお詫び申し上げます」


「ええ。……でも、クラリス様」


「は、はいっ!」


「兄の穴埋めをしたいなら、兄を降ろす覚悟と、人を配下に置く覚悟が必要ですわよ?」


 にっこりと、薔薇の棘のような笑み。


 それが僕の胸に刺さった瞬間だった。


 僕は恋に落ちた。兄のせいで、クラリスを知ってしまったのだ。


 ──兄上がバカで、助かった。もしかしたら、僕にもチャンスがあるかも知れないから。




◆とある魔法好きが惚れた魔法みたいな魔法




 今日は魔塔主として、この学院に来ていた。

 学園長との会談を終え、私はすでに帰路に就いていた。


 いや、正確には「就こうとしていた」が正しい。

 学院の中庭に、人だかりができているのが目に入ったからだ。


「……喧騒か?」


 人の集まる場所には、騒動がある。

 魔術学院とて例外ではない。

 私は一歩踏み出し、足を止める。


 そこにいたのは、二人の若き貴族だった。


 一人は、眩くきらびやかな光をまとった男。

 もう一人は、紅く整った制服に黒い髪飾りを揺らす、妙に冷めた目をした令嬢。


「……アルフレッド・ヴェルデ王太子と、クラリス・エグレッタ公爵令嬢──か」


 名は知っていた。

 前者は十万を超える民を治める王家の長男。

 後者は、つい先日、まことしやかな噂で聞いた──アルフレッドに婚約破棄された公爵令嬢である。


 学院の公開試合。決闘まがいの見世物だ。

 学園長が“圧に負けて”企画したと察した私は、少しだけ興味を覚えた。


「では、観察させてもらおう。無論、魔法の精度について、だ」


 自分にそう言い訳しながら、私は木陰に身を置いた。





「光よ、我に従え──星光の雨レイン・オブ・ブレイズ!」


 アルフレッドが掲げた杖から、無数の光の矢が天空に放たれる。

 美しい弧を描き、虹のように降り注ぐ魔力。

 人々の歓声が湧く。


 だが、私の眼は冷静だった。


「無駄が多い。視覚効果を意識しすぎだな。あれは、ただ派手なだけだ」


 魔術は“構築”であり、“設計”であり、意味ある数式の美学だ。

 王太子のそれは、単なる演出。舞台照明のような見せかけにすぎない。


 対するクラリスは──静かだった。

 杖も持たず、詠唱すらない。

 まるで魔法戦にすら、興味がないような顔。


「反撃しないのか? それとも怖いのか?」


 アルフレッドが皮肉交じりに笑う。


「怖くなんてないわ。ただ──あなたが終わるのを待っていただけ」


「この強がりめ……」


 ほう……。私の胸に、小さな震えが走る。


 それは、彼女の瞳が、氷よりも冷たかったからだ。




「では……掃除を始めましょうか」


 その瞬間だった。


 クラリスの足元から、空気が震えた。


 温度が上がった? いや違う。魔力が膨張している。


 詠唱は、無い。

 だが魔力が彼女の手のひらから、確かな意志を持って世界を形作る。


 次の瞬間──


「──焔界魔術えんかいまじゅつあけ色の華」


 炎が、咲いた。


 花のように、舞い上がる炎。


 赤でもない、橙でもない。

 まるで魔力そのものが発光しているような“朱の光”だった。


 それは爆発ではなかった。整った構造の、円環だった。


 アルフレッドが光の盾を張る──しかし間に合わない。

 緋色の炎が、見事にその中心を撃ち抜いた。


「うぎゃぁぁぁ!!」


 爆音は、なかった。王太子の哀れな叫びが広間一杯に広がるだけ。

 だがその一撃には、絶対的な“差”があった。


 光と音に頼ったアルフレッドの魔法が、

 本質的な“構築”をもって叩き潰された瞬間だった。


 古代魔術の再構築をしているのか?通常最上級魔法典にはあれは載っていない。“オリジナル”であることが、私に大きな衝撃を与えた。




 観客が息を呑む中、私はただ立ち尽くしていた。


 あの魔法は──あまりに、美しかった。


 炎という概念の再定義とでも言うべきか。

 戦闘魔法でありながら、制御と緻密な演算で支えられた幾何学的芸術。


 まるで……詩だ。


 詩的構造を持つ、論理と感情の融合。


「……あれは、“魔法”ではない。“存在表現”だ」


 私の口が勝手に動いた。


 クラリス・エグレッタ公爵令嬢。

 この名を、私はただの貴族令嬢として認識していた。


 だがいま、彼女は“魔術”そのものだった。




 ふと、彼女と目が合った。


 その眼差しに、挑発も自負もない。


 ただ静かに、「当然の結果を出しただけ」という無言の視線。


 私も本当ならばこの学園に入って友を作っていただろう。運命が重なれば、想い人も。


 理性が崩れたのではない。

 理性で認めたからこそ、心が揺れたのだ。




 その日以来、私は幾度となく夢に見ることになる。

 あの炎の魔法の曲線を。


 そして、彼女の名を、胸の奥に刻みつけた。


 クラリス・エグレッタ。

 “紅蓮の舞踏”。

 そして──私の、何と言うのだろうか。


 だが今は忘れなければならない。仕事がまだ残っているからな。




◆父同士の苦難




「まるで、牛の小便を無理やり飲まされた気分だ」


 いくら俺が我慢強いったって、第一王子──アルフレッドはやり過ぎた。行き過ぎた。絶対にしてはいけないことをしてしまった。

 よりによって、この俺の娘にそんなバカげた婚約破棄をするなど。


 俺は王国唯一の公爵として、王家に鱈腹金貨落としてきた。12歳にして王国の剣となり、キングと二人三脚でこの国を回してきた。


 だが──不甲斐ない。ただその一言に尽きた。


 コン──コン。


 その時、木製の音が二回鳴る。


「クラリス。入れ」


 扉がゆっくりと開いた。先ほど使用人に呼びに行かせた娘が、まっすぐに立っていた。


 凛としていて、冷えていて、それでいてどこか人間味がある、妙な紅眼だ。俺が若い頃に散々見てきた“戦場帰りの騎士”と、ほとんど同じ目をしている。


「お呼びですか、父上。怒鳴りつけるとしたら、少し静かな御前の前ですけど」


 その言葉で、俺は自身の顔がまだ血管で浮き上がっていることに気づいた。


「お前には何一つ罪はない。怒鳴る気力があったら、とっくに王宮に火を放ってる」


「フフ。辞めてくださいね。父上が暴れると、書類仕事が私に回ってくるのですから」


「………はぁ」


 やれやれ、と俺は椅子にもたれかかった。口は嫁寄りになってしまったが、まあ元気そうで何よりだ。怒るどころか、少しだけ安心してしまった自分に驚く。


「……泣いたか?」


「泣く理由が見当たらないわ」


「怒ったか?」


「ちょっとだけね」


「復讐するか?」


 ほんの一瞬、間が開く。だが──


「とことん徹底的に」


 即答だった。


 それがこの娘だ。俺がこの世で嫁の次に、心の底から恐ろしく感じ、そして一番扱いにくいと思っている──我が娘、クラリス・エグレッタ。


「まあ、お前のことだ。もう王子なんざ、過去の下水にでも流してるんだろうが……それでも聞いときたい」


「なにを?」


「苦しかったか?」


 その瞬間だけ、クラリスの睫毛が一度だけ震えた。けれど、声は変わらなかった。


「父上。私はね、誰かに傷つけられたことより、誰かに私の価値を測れなかったことのほうが、よほど苦痛です」


「……いい女になったな、お前」


「最初からですわ」


 思わず吹き出しそうになったが、ぐっと堪えた。


 クラリスは少しだけ目を細め、それから口元を緩めた。ほとんど笑っていた。


「では、私はこれで。夜の読書がありますので」


「寝る前に本を読むのは、老化の始まりだってどこかの研究会が議題してたな」


「へぇ。では父上はもう……あら、失礼。ごきげんよう」


 そう言って、娘は静かに出ていった。扉の閉まる音が、妙に優しく響いた。どこか、少しだけ大人になった娘の気配が残る。


 ──さて、と。


 俺は酒を取り一杯だけ自分に注ぐ。やれやれ、心配していたほど崩れてもいなかった。




 その時だった。


 また、コツ、コツ、コツ──扉の向こうから、妙にリズムの取れた足音が響く。


「……クラリスか?」


 返事はない。だが次の瞬間、扉がスッと開いた。


 入ってきたのは、見覚えのある老人の使用人だった。歳は六十手前といったところか。黒と白のきちっとした給仕服、年季の入った手の皺、丁寧すぎる背筋。だが、決定的に違和感があった。


 目だ。

 あの目は──


「……その顔、仮面か? 幻術か?」


「どちらでもねぇ。“役”だ」


 その声で、すべてが確定した。


「おいおい、まさか──」


「エンブレム公爵。久しぶりに、こっそり酒でも飲みたい気分でね」


 まるで劇場の幕が上がるかのように、使用人の顔がぐにゃりと歪み、本来の姿を現した。


 ──この国の王。キング・フォ・ヴェルデである。


「なぜ貴様が、わざわざここ(俺の陣地)まで?」


「“貴様”呼ばわりは酷くないか?俺とお前の仲だろう。剣と盾、血と泥で肩を並べた戦友だ」


「貴様がアホ王子を野放しにしたおかげで、こちとら胃に穴が開きそうなんだ。何をしに来た?」


「まあまあ……今日の俺は、酒飲み役だ。説教はまたする」


 キングは、俺の注いだ酒を見て勝手に座った。


「これ、エグレッタ領で作ってるやつだな。香りが良い」


「無断で座るな。てめえは今、“王”じゃなくてただの酔いどれだぞ」


「だったら安心だ。王子の件についても、いくらでも無責任な本音を語れるからな」


 俺は無言で自分のグラスを傾けた。喉が焼ける。その痛みが、少しだけ冷静さをくれる。


「で? まさかあれは本気じゃないだろうな」


「……あれ?」


「お前の息子、アルフレッドだよ。よりにもよってクラリスとの縁を、自分から断つとはどういう了見だ」


「はは、いやあ……正直なところを言おう。俺にも、わからんのだ」


「は?」


「最近のアルフレッド、どうも俺の目をまともに見ようとしない。お前の娘の話を振ると、話題を逸らす。しかも、婚約破棄の理由が──“愛のため”だとさ」


「……クソガキが」


 俺は拳を握った。

 キングは、グラスをゆっくりと傾けながら言う。


「安心しろ。いざとなったら俺の手で殺してやる」


 戦で何度も見た本気マジの目。


「了解……じゃないが、状況は飲み込んだ」


 そして俺は、酒を一口で呑み干した。


 ──クラリス、お前のが意外ととんでもないことをしようとしているようで、父としては気が気じゃねぇ。


 でも一つだけはっきりしている。


 この国で、俺ほど不憫な父はいない。




◆小さな社交場 メイドin公爵




「──あれは絶対、恋よ」


 厨房脇の掃除用具入れの裏。そんなところに隠し通路があるのは公爵家の使用人なら常識だ。けれど、その通路に椅子とクッションと茶器まで常備しているのは、さすがにどうかと思う。


 とはいえ、ロレッタに言わせれば、ここは“社交場”なのだという。

「ここだけがね、あたしたちの正直が通じる場所なのよ、バルちゃん」

「それ、職務怠慢の言い換えですよね、ロレッタさん……」


 そう口では言いながら、バルも腰を下ろしているのだから同罪だ。


 二人は小声でひそひそと噂話を交わしていた。お茶請けに小さな焼き菓子、そして話題はもちろん


「最近またいらしたわよ、ライナス様」

「えっ、第二王太子殿下……ですか?」

「そうよ。例の第二王太子さま」


 ロレッタは、お茶をひとすすりしてため息をついた。


「最初はね、何かの使者かと思ったの。だって公爵邸に来るたび、従者も護衛も連れてないんだもの。あれじゃあただのうっかり貴族よ」

「でもご本人は堂々としてるっていうか……妙に馴染んでますよね、うちの邸に」

「それが怖いのよ。でも殿下様、迷わずにクラリス様の部屋の前にたどり着いたかと思えば、部屋の前で何分もそわそわするものだから、それが凄い可愛くてね──」


 バルがごくりと喉を鳴らす。


「……で、クラリス様とは何を? その、まさか──」

「さあねえ。でもそういう色恋とかは薄いと思うわ。だって、5歳も年が離れていらっしゃるんだもの」

「え、それ本当ですか!?もっと年がしたかと……」


 二人は声を抑えながら、しかし目を輝かせて身を寄せ合った。


「でもライナス様だけじゃありませんよね。最近、妙に来客多い気が……」

「それよ! まったくもう、どうなってるの? クラリス様モテ過ぎよ!でも、ライナス様が来てくださっているおかげで、抑えられてる方だと思うわ」

「でも年の差結婚も珍しくないし……」


 二人の頭の中には、炎の魔力で照らされる冷たい美貌と、過去に隠れ場がバレて異動になった同僚の顔がよぎった。


「そういえば、第一王子殿下とは……もう」

「うん、終わったわね。炎魔法で一発だったって噂よ。華麗に、静かに、そして完全に……。神官集めて全治一週間だったものね」


 ロレッタはどこか達観したように言いながら、最後の一口の焼き菓子を口に放り込んだ。


 ふたりの会話に、扉の隙間から風が吹き抜けた。午後の日差しの中、公爵邸の片隅で、誰にも気づかれない噂の火が、また小さくくすぶり始める。




◆残念王子の結婚式




 あれから三ヶ月が経った。


 クラリスが兄に婚約破棄を突きつけ、社交界を一時ざわつかせたあの事件から、季節はひとつ進み、王宮は初冬の空気に包まれている。


 そして今日、第一王子アルフレッドとリディア嬢の結婚式が、国王陛下ご臨席のもと、盛大に執り行われた。


 式は荘厳で、絢爛だった。銀糸の刺繍が施されたリディア嬢の純白のドレスが、陽光を受けて美しくきらめき、その隣には、いつも以上に胸を張った兄の姿があった。


 まるで勝者のような顔だった。誇らしげで、自信に満ちていて、少しの疑念も抱いていない。クラリスのことなど、まるで思い出しもしないかのように。


「では、お前たちに問おう」


 玉座の間に響いたのは、父上──国王の声だった。


 結婚式の余韻がまだ残る中、国政の問題に話題が移ったことに、場の空気が一瞬で引き締まる。


「冬が来る。鉱物の輸入も滞りがちになっておる。民の暖をどう確保する? ふたりの王子としての見解を聞かせてもらおう」


 兄が一歩前に出た。


「任せてください、父上!」


 胸を張り、歯を見せて笑う兄に、僕はほんの少しだけ、心の準備をした。


「まず、冬を乗り越えるには、精神力が重要です。気持ちが負けては体も負けます。寒いと感じた瞬間に寒くなる。ですから私はまず、民の士気を高めることが大事だと考えました」


 僕はこめかみを押さえたくなった。


 兄は続ける。


「たとえば、冬祭りを各地で盛んに行うのです! 酒と踊りで民は元気になる。寒さなど忘れてしまうでしょう!」


 会場のあちこちで、控えの大臣たちが顔を見合わせていた。言葉にはしないが、「またか」とでも言いたげな沈黙が満ちていた。


「……鉱物資源の不足については?」


 父上が問うと、兄は笑った。


「それも簡単です。買えなければ掘ればいい!」


「掘る……とは?」


「我が王国にも山はあります。宝が眠っているに違いありません。民に呼びかけ、大規模な採掘隊を結成しましょう。国民総出で、夢のあるプロジェクトを!」


 僕は目を伏せた。もはや、何も言うまいと思った。


「……よかろう。では、ライナス。お前はどう考える?」


 名を呼ばれ、僕は静かに一歩前へ進んだ。


「はい、父上」


 玉座の間の空気が、明らかに変わった。兄が撒き散らした軽薄さが、今、洗い流されることを皆が無意識に予感していた。


「越冬対策として、我が国は毎年、南部からの石炭輸入に依存しております。しかし、今年は南部諸国での豪雪により、輸送路がすでに一部寸断されています。そのため、緊急措置として、国内備蓄の分散配給を行い、あわせて各街に熱気式温室の設置を推進すべきと考えます」


 大臣の一人が、感嘆の声を漏らした。


「熱気式温室は、民の生活だけでなく、冬季の農作物栽培にも有効です。温室内部の熱源には、既存の木炭・油脂の併用、あるいは焼却炉の再利用を推進します」


「……ふむ。鉱物資源の不足はどうだ?」


 父の声に、僕は頷いた。


「新たな採掘は危険が多く、即効性に欠けます。現状の不足分については、西方同盟国との物資交換交渉を進めております。穀物と引き換えに鉄鉱石を得る予定です」


 そこまで述べて、僕は一瞬、目を伏せた。


 クラリスの横顔が脳裏に浮かんだ。


 彼女が古い地誌と外交記録を持ち出し、今も交流の残る小国の資源事情まで調べあげ、僕に教えてくれたときがあった。


 西方諸国は塩と金属資源が豊富だが、食料が乏しい。冬を迎える今、交渉のカードはこちらにある。──その一言が、僕の決断を支えていた。


「民の命を守ることが、王子としての務めです。希望や夢を語るのは結構ですが、それは責任を果たしたあとで」


 その言葉の刃先が、兄に向けられていることは明白だった。


 だが兄は気づかず、むしろ笑っていた。


「ふむ、ふむ! なるほどな! しかし、なぁ、父上!」


 急に父へ振り返り、兄は声を張り上げた。


「難しい顔をしていたら、民も不安になります。私はね、この国に、笑顔を増やしたいんですよ!」


 父は無言だった。


 だがその沈黙には、深い意味があった。


 やがて、重々しく玉座から立ち上がった父は、壇の中央に歩を進め、二人の息子を見比べるようにして言った。


「王とは、夢を見る者ではない。夢を“見せられる者”だ」


 静かな口調だった。だが、その重みは空間を支配した。


「どちらが夢を見せ、どちらが夢を語ったか。そなたら自身で考えるがよい」


 兄はきょとんとしていた。リディア嬢はその隣で、目を伏せていた。


 そのとき、僕は確信した。


 この場にクラリスがいれば、彼女は笑っていただろう。鋭く、冷たく、それでもどこか誇らしげに。


 なにしろこの舞台を、彼女こそが設計してくれたのだから。




◆『とある残念な王妃の日記』◆



冬魔の節十八日 晴れ


七月十八日 晴れ。

この国の空は今日も青く、無慈悲なほどに平和だった。

私の気分とだけ、見事に反比例している。


朝、殿下が寝ぼけた顔で「朝食はパンと蜜柑どっちがいいと思う?」と訊いてきた。

側近は凍りつき、女官たちはうつむき、私は笑ってしまった。

こういう人なのだ。

彼はいつだって、誰より馬鹿らしくて、誰より鈍い。


誰かの思惑も、誰かの悪意も、彼の目には映らない。 

そのくせ、王座の真上で笑っている。

私はその隣に座る“王妃”として、もう何度、冷たい現実を見せたかったことか。


でも、彼の無邪気さを憎めたことは、一度もない。


馬鹿にしていたけれど、嫌いにはなれなかった。


それが一番の地獄だったのかもしれない。




父と母の話をするのは、正直うんざりだ。

だが、日記に残すならやっておくべきだろう。


彼らは私を「王家に嫁ぐ器」としてしか育てなかった。

誕生日は政略の記念日。

勉学は“誰とでも会話できるための武器”。

感情を抑える訓練は、礼儀と称された。


そして私がなんとかアルフレッド様を奪ったとき、母は泣いて喜んだ。

父は祝杯を上げ、私にはただ一言、「よくやった」。


私は人間ではなく、貨幣だったのかも知れない。

王家に差し出されることで、価値を証明された“メダル”。




──それでも、あの人に愛されたことは、幸福だった。


殿下は私に「誰も君を責めたりしない」と言った。

笑っていた。何のことを言っているのかすら分かっていなかったのだと思う。

彼にとって私は“味方”だった。

私がどれほど家に縛られ、王宮に押し込められていたか、知らずに。


そして彼は今日も私を“王妃”と呼ぶ。

本当に、馬鹿みたいに、まっすぐに。




クラリス様と話した夜のことを思い出す。

あの夜、彼女はただ静かに言った。


「あなたは絶対に後悔するわ」

驚いた。慈しみの目を向けられたから。

その予感に、私自身すら気づいていなかったのだから。


「でも、あの男はもともと振る予定だったから、応援してあげる」

……熱々しい目をしていた。背筋もゾッと冷えた。


あのとき初めて、私は自分にか"逃げる"選択肢が浮かんだんだと思う。



もう、ここにはいられない。


王妃であることに飽きたわけではない。

目標が無くなって、後がもう無いような気がしたから。

私が“私であること”を許さない場所には、もう二度と戻らない。


殿下は、きっと明日も、何も知らずに笑っているだろう。

それでいい。

彼は、王になればいい。王国と、王国が望む妃とともに。

そして亡国すればいいんだ。そうなっても笑うでしょ。どうせ。


私は、王妃という名札を、寝室の机の上に置いていく。


帝国の馬車は今夜、北門を越える。

馬車を一つ用意して、亡命する。 

お父さんとお母さん、怒るだろうな。この日記を見て、アルフレッド様はなんて言うだろう?


出来れば、あの王子様とともに消えてしまいたかったけど、それだと、何処かの二流小説のお馬鹿な悪役みたいだから。




さようなら、王太子殿下。

あなたのやさしさは多分本物だった。

でも、それだけでは人を救えないのだと、きっといつか気づくでしょう。


そのときあなたが誰かを守れる人間になっていることを、

私は願わない。

あなたはそのままでいてほしい。

少なくとも、私が好きだったあなたは、そういう人だったから。


──王妃──リディア・エルマー・フォ・ヴェルデ、ここにて消失。




◆逆襲の王太子?!(未遂)




『王妃が消えた』


 僅か三日で王国中にその話が鳴り響く。そして、この学院にも──。


 学院の講堂に、鈍く重い音が響いた。


 剣が床を擦る音。練達の剣士であれば恥じて顔を伏せるような、雑な構えと踏み込みだった。


「クラリス・エグレッタァ!!」


 名を叫びながら、アルフレッド殿下は剣を振りかぶって突進してくる。

 その顔には、怒りと、焦りと、何よりも“正義のつもり”の激情が渦巻いていた。


 ……こういう時、人はなぜ名前を叫ぶのかしら。

 狩る気なら無言で来るべきでしょうに。


 私は一歩、半身をずらす。殿下の剣は、わずかに肩先をかすめて空を切った。


「なぜ……避ける!?」


「攻撃を受ける義務は、王家に忠誠を誓っていても──絶対ないです」


 答えながら、足を軽く捌く。次の斬撃も、踏み込みの角度で予測できた。

 避ける。背を向けない。ただ、相手の剣が届く範囲から淡々と外れてゆく。


 講堂の空気が張り詰める。けれど誰も止めない。教師も、生徒も、貴族の後継たちも。


 ──誰もが見ている。

 “この瞬間、王子が何をしているか”を。


「リディアを逃がしたのはお前だ!王妃を惑わし、振られた腹いせにリディアを貶めたな!」


 怒声が飛ぶ。だが、叫べば叫ぶほど、彼の刃は軽くなる。


「殿下。お願いですから、女に逃げられた理由を、他人の策略に帰すのはやめてください。みっともない」


 私の言葉に彼は顔を歪めた。理屈など通じない。ただ、感情をぶつけるためだけに剣を握っている。


 ……この場で剣を抜くことさえ、私はできない。

 この瞬間、私は“公爵家の娘”であり、“ただの学生”である。


 だから私は、ひたすらに避ける。

 一歩、また一歩。銀糸の魔法陣の縁をなぞるように、殿下の剣をすり抜ける。


「逃げるな!!!」


「そちらが追っているのでは?」


 私は平坦に返す。


 もう十分だった。

 彼が“自分の意志で”私に剣を向け、誰もそれを止められず、

 私が一切攻撃せず、ただ“避けていただけ”であること。

 この構図こそが、最も強い“証拠”となる。


 その時だった。

 講堂の扉が開いた。


「──止まれ。王子」


 入ってきたのは、蒼衣の長身。

 魔塔主。名前は不明、

 王都における魔術の最高権威。重工業への発展を進めた男。


 講堂がざわめいた。剣を振るっていたアルフレッド殿下も、動きを止める。


「……誰だ。お前は!」


「別に……干渉する意図はありません。ただ、持ってきたものがある」


 魔塔主は胸元から一冊の革装丁の本を取り出す。

 それは、見覚えのあるものだった。銀の留め具。柔らかい紙。王宮製本局の私製文具。


「王妃殿下の私的な記録だ。筆跡は確か。王宮詩人二名と、占筆士が立ち会い、証明済みです」


 その言葉に、講堂が再びざわめく。

 そして魔塔主は読み上げた。穏やかな、けれど人を斬るような声で。


  「『残念な王子様へ』だ」


 沈黙。

 誰も、言葉を出さなかった。


「その日付は、いつだ」


 アルフレッドの声が震えていた。


「貴方が、王妃に最後に会った翌日──。

 自分で読んでみろ」


 魔塔主はそう告げ、私に視線を送った。ちなみに私はその人に会ったことが無い。


 私は、ただ立っていただけだった。


 アルフレッドは剣を取り落とした。

 日記を奪い取った。

 ピラピラもページを捲った。

 言葉も、力も、もう何も持たないままに。


 その姿は、あまりにも静かで、逆に哀れだ。


 この場にいた誰もが理解していた。

 もはや第一王子は王位継承の器に値しないと。

 私の無罪が晴れれば、情勢は一気に第二王子ライナス殿下へと傾くだろう。


 ……ふと、思う。

 どれだけ魔力があっても、剣を振るっても、人は自分の内側の弱さからは逃れられないのだと。


 アルフレッド殿下は、きっとこれからも誰かのせいにし続けるのだろう。


 だが、それを止めるのは私の仕事ではない。

 リディア嬢は今頃帝都についただろうか?公爵家の看板護衛をつけたから問題ないと思うが。


 あぁ……。眠たいな。




◆SよりドSが好きなんです




 三年前、僕の兄──アルフレッド第一王子は、リディア嬢が行方不明になったときから、少し真面目になった。


 結局馬鹿だったんだ。最後に兄は、王位継承を放棄して、遠い田舎へと引っ込んでしまった。


 その時、クラリス様が最後のお見送りにと黒いダリアを送っていたのを、僕は未だに覚えている。


 花言葉は優雅、拒絶。そんな事も知らずに、毎年種を増やしながら育てているらしい。



 ──3度の冬を越えてしまった。



 僕は王都に戻り、正式に王子となり、いくつもの会議と隣国との外交に励んできた。

 そして今日、僕は気づいた。ようやく彼女の“背”を追い越したことに。


「……いつの間に王子になっちゃったのかしら」


 彼女はパンと本を片手に僕を王宮で出迎えた。

 風に揺れる黒色の髪。紺の上衣に、青銀の魔術徽章がひっそりと光っている。彼女は王宮直属の文官兼王──僕の補佐官になった。


 相変わらず、何もかも計算し尽くした目つきだった。優しさも敵意も見えない。

 でも、僕はわかってる。彼女はそうやって、いつも人を試す。


「昔から僕は王子だった」


「ふふ……期待外れね。王様キングになったとでも言わなきゃ」


「まだ気が早いよ。でも、今の僕なら君の背を超えられる」


 彼女はゆっくり立ち上がった。

 あれほど高く感じたその背に、今はほんの少しだけ、僕の目線が上にある。


「……たしかに。背伸びしなくても、私を見下ろせるようになったわね。すごいじゃない」


「三年掛かったんだ。ほんと苦労したよ」


「そうね……。あとは筋肉も付いたわ。結構腕太いじゃない!」


 小さく笑ったその顔は、なぜかちょっとだけ、怖い笑みを浮かべていた。


 僕は深呼吸をした。

 この一言を、ずっと言おうとして、三年間言えなかった。


「クラリス。僕と……婚約、いや、結婚を前提付き合ってほしい」


 一カ月隣国で考えた結果、こんな言葉しか出ないなんて、自分でも恥ずかしい。

 彼女のまつげが、一瞬だけピクリと動いた。


「はあ?」


「言い直す。君と、生涯を共にしたい」


「……へえ」


 彼女は腕を組んで、僕をじっと見上げた。

 その目はまるで“私にとってどんな利点があるのか”を計算しているようで、正直怖かった。


「私、今も恋愛には興味ないの」


「知ってる。でも、君とじゃないとダメだと思った。王妃は君しかいない。どう考えても」


「そう。つまり、私に国の運営を任せたいってこと?」


「そうじゃない。手伝ってくれれば百人力だ。でもそれ以外に、僕は、君が──クラリスを愛してるんだと思う」


 言ってしまってから、死にたくなった。

 足の裏まで熱くなって、心臓がどこかへ逃げ出しそうだった。


 けれど、クラリスは目を細めると、くすっと笑った。


「なるほど。そういうことは教えたつもりは無いんだけど、どうしようかしら」


「返してくれなくてもいい。ただ、考えてほしい。君がいつか誰かと組むなら、僕がいいって」


「条件は?」


「え?」


「付き合うにしても、結婚にしても。お互いが良い関係になれると思う?」


 いつもの強気な顔、言葉。


「幸せにしてやる。───これじゃあ……いや、僕にはこれしか出来ない」


「ふうん」


 彼女はほんの少しだけ近づいてきた。

 そして、僕の首元に指を伸ばして、服の襟を直した──と思ったら、強引に引っ張る。


「ちゃんと立派な王子様になったのね、ライナス。……背も伸びたし。もう見下される心配もないかしら」


「外では口調も直してるからね」


 彼女の吐息が当たる。


「じゃあ──仮に。仮にあなたが王になる覚悟と私を馬鹿な兄のように手放さない覚悟を、両方持ち続けるなら」


「……うん」


「そのときは、契約してあげてもいいわよ。婚約として」


 それはクラリスなりのイエスだと、わかった。


 でも彼女は、決して言葉で「好き」とは言わないと思う。

 ずるく、賢く、冷たく見えるその言葉に、僕はどうしようもなく、嬉しくなった。


「ありがとう……クラリス」


「別にいいわよ。気まぐれなだけ。もしあなたがダメ王子になったら、すぐ捨ててやるんだから」


「怖……」


「怯えなさい。それくらいがちょうどいいわ」


 彼女はくるりと踵を返した。


「王子様。次は、私を口説く前に、魔塔主の会議資料を片付けてね」


「……もう仕事か」


「当然でしょう。“組む”ってことは、半分はあなたの皿に乗せてあげるってことよ。光栄に思いなさい」


「……はい」


 彼女の背中を見送りながら、僕は思った。

 たぶん、僕の恋は一生勝てない。でも、それでいい。


 ──きっとそれは、僕が選んだ王道なんだ。














最後まで読んでいただきありがとうございます!


クラリスさん視点をもうちょっと描きたかったのですが...…書きたいもの結構いっぱい詰めこんだ結果最初の見立てとはちょっと結末が変わっちゃいました汗。


10000~20000字って案外足りないものなんですね笑(凄い疲れた)。


もし少しでも何か響いた部分があったなら、それだけで私にとっては満点です。


★おねがい★


下の☆☆☆☆☆から評価していただけると、自分の作品がどのように受け止められているのかがわかり、次に活かせるので大変助かります!(押してほしいだけなんですが...…)


よろしくお願いします(◠ᴥ◕ʋ)


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