フラれた僕に届いた恋愛システム
もし恋愛がゲームのように見えたら?
相手の好感度がバーで表示されたら?――そんな妄想からこの物語は生まれました。
『ロマンスレベリング』は、ドタバタでちょっと甘酸っぱい恋愛コメディです。
恋に不器用な人、告白で失敗したことがある人、もう一度だけチャンスが欲しいと思ったことがある人――そんなあなたに届けたい物語です。
読んでくださって、ありがとうございます!
放課後の校舎裏。夕日が赤く空を染め、古びた体育館の影が長く伸びていた。
自動販売機と部室倉庫の間、静かな場所で、少年がぎこちなく立っていた。
「……一ノ瀬さん。俺と付き合ってください」
レンの声はかすかに震えていた。
目の前の少女は、しばらく何も言わなかった。髪の毛をくるくると指で巻きながら、無表情のまま。目も合わせてくれない。
その少し離れた場所には、彼女の友達らしき数人が物陰からこっそり見ていた。笑いを堪えながら、スマホをポケットから半分出したまま。
ようやく少女――一ノ瀬カズハが口を開いた。冷たくて、無感情な声だった。
「……私のレベルに、あなたが届くと思ったの?」
驚きは一切なかった。まるで、こういう告白なんて何度も聞き飽きたかのような態度だった。
彼女は間違いなく、学校一の人気者。成績も運動も完璧、誰もが認める美少女。三年生の中でもひときわ輝いている存在。
レンは、同じ学年ではあったがクラスも違えば、接点もなかった。ただの地味な男子。
カズハは髪をひとふりして背を向け、振り返ることもなく歩き去った。
友人の一人が振り返って、にやりと笑う。
「ぷっ……マジでうちのカズハに告ったの? このモブ男が?」
クスクスと笑いながら、彼女たちはその場を離れていく。足音だけが、レンの耳にいつまでも響いていた。
彼はその場に立ち尽くしたまま、唇を噛みしめていた。
「……バカみたいだ」
帰り道、レンはうつむきながらトボトボと歩いた。
なぜ、いつもこうなんだろう。
他の人たちが普通に持っているもの――誰かに大切に思われること。誰かを大切に思えること――ただそれだけが、欲しかったのに。
カズハが廊下ですれ違いざまに笑ってくれた、あの瞬間をずっと覚えている。たった一度の、些細な笑顔。
それだけで、希望を抱いてしまった。
でも今は……もしかしたら、あれは自分に向けた笑顔ですらなかったのかもしれない。
「彼女なんてできたことないし。このままじゃ、高校卒業まで一度も恋愛できないままだな……」
今まで告白した女の子たちを思い出す。そのすべてが、優しくても、曖昧でも、どこか遠い拒絶だった。
今日のは、特に最悪だった。屈辱的で、笑われて、心がぐしゃぐしゃだ。
大抵、友達に煽られて勢いで告白してただけなのに。
「……俺なんかに、好きになってもらえるわけないか。特別な才能もないし、運動もダメ、成績も普通。顔だって……全然イケてない。昼休みに一人で漫画読んで、オタク話してるだけの陰キャだしな」
胸の奥がズンと重くなる。
「ただいま……」
家に帰ると、キッチンから顔を出したのは従妹のサユリだった。元気で可愛い女の子で、レンより一つ年下。進学のために一緒に暮らしている。
「おかえり、オニーちゃん。……ん? なんか、死にそうな顔してない?」
「ただの試験勉強のストレスだよ」
作り笑いでごまかすと、サユリは「ふーん」と小さく頷いた。
レンはそのまま自室に入り、ドアを閉めた。
そしてベッドに倒れ込み――ついに、涙が溢れた。
夜になり、下の階では皿の音が聞こえていた。
「レンー! ごはんできたわよー! あなたの好きなやつよー!」
「……いらない」
ドア越しに返事をした。
キッチンでは母がサユリに尋ねた。
「今日、学校で何かあったのかしら?」
「……わかんないけど、帰ってきた時すっごく落ち込んでた」
一方その頃、レンは天井を見つめていた。
カズハの冷たい声。振り返ることもなかった姿。彼女の友達の笑い声。
それが、何度も何度も頭の中を繰り返す。
そして、布団を頭までかぶった。
「……なんで俺だけ、こんなに恋が遠いんだろう」
目が腫れるまで泣いて、ようやく眠りに落ちた。
明日はきっと、ただのいつも通りの一日――
そう思っていた。
でも――その日から、世界が変わる。
翌朝。
レンはゆっくりと目を覚ました。目をこすりながら、ぼんやりとつぶやく。
「……久しぶりに、よく眠れたかも。泣き疲れて寝ると、ぐっすり眠れるもんなのか……?」
視界がまだぼやけていた。でも、その中に――違和感。
何かが、光っている。
窓からの光じゃない。スマホの通知でも、天井の照明でもない。
……視界の左下。ほんのりと輝く、小さなアイコン。
何度まばたきしても、目をこすっても、消えない。
「……顔洗えば、さすがに消えるだろ」
洗面所に向かい、水を勢いよく顔にかける。タオルで拭き、鏡を覗いた――
……そこにも、あった。
ゲームのメニューみたいな、小さなアイコン。
鏡の上でも、部屋の中でもない。確かに、自分の“視界”に浮かんでいる。
「……なんだよ、これ……」
おそるおそる手を伸ばしてみた。アイコンを触ろうとするが、指は空を切るだけ。
ただ、目線を動かすと、アイコンも一緒に動いた。
「まさか……これ、目の中に!? いや、どういうこと!?」
心臓がドクンと跳ねた。
「落ち着け……落ち着け、レン。これは……アニメとかでよく見る、“システム”ってやつか?」
“ステータス表示”とか“好感度バー”とか、そういうやつ?
何とか“選択”しようと意識してみるが、特に変化はなかった。
――その時。
「オニーちゃん、起きてー! おばさんが起こしてって言ってたよー!」
ドアの向こうからサユリの声。
「あっ、今行く!」
慌てて制服に着替えてリビングへ。
――が、歩きながらも何度か、空中をつつくような仕草をしてしまう。
サユリが怪訝そうにこちらを見ていた。
「なにその動き……虫でも見えてるの?」
「な、なんでもないって!」
レンは誤魔化すように笑った。
――その時。
彼女を見ると、表示が変わった。
彼女の隣に、新しいバーが浮かび上がった。半分ほど緑色に光る、横長のゲージ。
「え……?」
レンはそれに触れようとする。
「変なことしてないで、ごはん食べて! あたしが作ったんだからねっ!」
サユリがムスッとしながら、手を腰に当てて言った。
「あ、うん! すぐ食べる!」
レンは席につき、サユリも向かいに座る。
朝食を食べながら、レンはチラチラとそのバーを見ていた。すると、ふと気づく。
「……これ、めちゃくちゃ美味しいじゃん。サユリ、料理うまいな!」
「……ほんと? えへへ♪」
サユリは照れ笑いを浮かべ、頬がほんのりピンク色に。
――ピコーン。
バーがググッと上昇。半分から、ほぼ満タンまで跳ね上がった。
「動いた!? 今、バーが動いた!」
「もう! 食べながら見つめるのやめてよっ!」
――ピコーン。
バーが一気に下がり、元より低くなった。
「えっ!? 減った……?」
レンは固まった。
「これって……まるでゲームみたいだ。褒めたらゲージが上がって、変なことしたら下がる……?」
戸惑っていると、新たな表示が浮かんだ。
《ラブシステム 起動完了》
毎日の好感度ミッションを開始します。
レンの目が大きく見開かれる。
「ラブシステム……!? マジかよ」
「恋愛をサポートしてくれるシステム? 恋ゲーみたいに? でも……俺、そもそも恋愛経験ゼロなんだけど……」
ふっと、乾いた笑いが漏れる。
「でも……もしかしたら、これで変わるかもしれないな」
『ロマンスレベリング:恋愛システムを手に入れたら、全女子に好感度バーが見えるようになった』第1章を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
失恋から始まったレンの恋愛ストーリーですが、これからどんどん波乱万丈に、そしてドタバタに展開していきます!
好感度バーに、毎日の恋愛ミッション、そして空回り気味な主人公――果たしてうまくいくのか!?
次の章はもうすぐ公開予定ですので、ぜひ続きも読みに来てくださいね!
それでは、第2章でお会いしましょう!