悪魔の箱
「クソ、ここから出たら絶対に人間どもに復讐してやる」
魔術師に騙されて小さく狭い箱に閉じ込められた悪魔はもう何度目になるか分からない悪態を吐いた。
魔術師の魔法によって外にいる人間があることをしてくれれば箱は開くのだが、残念ながらここに閉じ込められてからの数十年間の間それをしてくれた相手はいなかった。
「誰かがこの箱に感謝の言葉を言ったら蓋が開くようになっているぞ」
箱が閉まる直前にそう言い放った魔術師の勝ち誇ったような顔を思い出して悪魔はギリギリと歯ぎしりをする。
そうしていると箱の外に誰か人の気配を感じた悪魔はその人物に話しかけた。箱から出ることこそ出来ないが、箱の中から声を届かせたり、探し物が見つかりやすくなったり怪我の痛みがほんの少しだけ和らげるくらいのちょっとした魔法を使って願いを叶えることくらいは出来るのだ。
願いを叶えてる内になにかの拍子に誰かが感謝の言葉をかけてはくれないかと、悪魔はそう期待しているのだ。
箱に閉じ込められてどれだけの人の願いを叶えたのだろうか。最近はもう人に話しかけることもなく、ただただなにも考えずにやってくる人間の願いを叶え続けるだけの日々だった。
それにしても連日連夜、どうして人が絶えないのだろうか、機械的に魔法を使いながら悪魔はそんなことを考えていた。
だが、こんなにも人が来るのならばそのうち誰かがこの箱に感謝をしてくれるかもしれない。悪魔はそれを支えにして今日も願いを叶えている。
悪魔は知る由もないことだが、悪魔の入った箱はなにをどういう経路を辿ったのか日本へと流れ着き、そしてご利益のあるとされる神社に奉納されたのだ。
悪魔が魔法で叶えた願いは全て神社のおかげということになってしまっているのだ。
これではどれだけ願いを叶えようと、箱に感謝の言葉をかける人などいるはずもなかった。
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