結婚式当日1
今日はいよいよ結婚式だ。朝早くから何時間もかけてレイナと侍女数名で綺麗に着飾ってくれた。
「リリカ、準備はどう……」
レイリックはリリカの純白のドレス姿を見ると、思わずその場に立ち尽くした。リリカもレイリックの美しい白のタキシード姿に言葉を発することが出来なかった。
綺麗……。今日はいつも以上にレイが眩しいっ!!
「凄いな……。とても綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
レイリックの率直な感想に胸が熱くなった。
「レイ、凄く格好いいです」
ついぽろっと言葉が溢れた。
「良かった。色々な人が感想をくれたけど、リリカからの言葉が一番嬉しいよ」
その目を細めた満面の笑みに鼓動が早くなるのを感じた。
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結婚式場となる王都にある大神殿へと向かう前に、ウィリアムとスカーレットが王宮に訪ねて来た。二人の姿を私室の窓から見つけたリリカは外に向かった。
「リリカ!! その格好は……ああ、綺麗だ。美しすぎるっ……」
そう言うと、ウィリアムはなぜか頭を抱えてしまった。
「お綺麗ですっ!! さすがリリカっ」
スカーレットは興奮気味に言う。
「えっと……お兄様?」
「襲われないように充分気をつけるんだぞ」
真剣な表情で言われる。
「襲われ……」
「そうだ、結婚したとしてもだ。いや、だからこそか、無理強いはなさらないと一応信じてはいるがな……充分に気をつけてくれっ」
もしかしなくても、気をつけるってレイに??
「怖がらせるようなことを言ってはダメですよ、これから結婚式なんですよ?」
スカーレットがウィリアムを嗜めるように言う。
「あっ、そ、そうだな。すまない……。もしも何か嫌なことをされたら屋敷にすぐに帰ってくるんだぞ」
お兄様は少し心配しすぎだと思うけれど。
「はい、お兄様」
リリカの返事を聞くとウィリアムは大きく頷いた。
「改めて結婚おめでとう」
「おめでとうございます」
「ありがとう、二人とも」
「いよいよ結婚、か……。時が経つのも早いものだな。目に焼き付けて帰るか」
「あら、次はお二人の番ですわよ」
リリカがそう言うとウィリアムとスカーレットは顔を見合わせた。
「う、うむ。そうか、そうだな、俺たちの……」
「ええ、そうですね」
リリカの一言に珍しく狼狽えているウィリアムを見て(お兄様はもしかしてスカーレットのことが……)と確信にも似た感情が生まれていた。自分の知らない一面を見て若干寂しく思うのと同時に、妹一筋だった兄に想う相手が出来たことを嬉しく思う気持ちもあり、不思議な感覚がした。
でも良い傾向だわ。対するスカーレットは全く動じていないみたいね。お兄様ファイト!!
「そ、そうだ。あれが俺たちからの結婚祝いだ。リリカの部屋に運ぶように伝えておいたからな」
ウィリアムが指し示す方を見ると、まさに大量のラッピングをされた箱が運び出されているところだった。どうやら二人はこれを直接渡しに来たらしい。それと式場では各国からの賓客の対応で話す時間がきちんと取れないだろうから向かう前に話しを、とのことだった。
「……これ全部?」
あまりの量に呆気に取られ、思わず尋ねずにはいられなかった。
「ああ、もちろんだ」
ウィリアムは当然だというふうに大きく頷いた。
「喜んでいただけそうなものをしっかり選びましたから楽しみにしててくださいね」
スカーレットは止めてよー!!
そんな叫びは心の中に何とか留めた。
だけど……
「スカーレットもお兄様も、ありがとうっ」
プレゼントは多すぎるけれど、私のことを本心から祝ってくれる、その気持ちが何より嬉しいわ。
そんなことを考えているとウィリアムにゆっくりと頭を撫でられた。
「お兄様? どうかしましたか?」
「いや……やはり少し寂しいなと思ってな。婚約したときもそうだったが、結婚してしまったら、より会えなくなる」
「お兄様……」
そうよね、そうなるわよね……。結婚すれば本格的に公務も始まり、会える時間は限られてくる。とはいっても、王宮と公爵邸はそこまで離れているわけではないため、全く会えないというわけでもない。それに、パーティーでは顔を合わせることになるだろう。
「大丈夫です、また会えますから。それにお兄様にはスカーレットもいますし、一人ではありませんよ?」
そう言うと二人は顔を見合わせた。
以前のお兄様には私以外家族はいなかったけれど今はスカーレットがいる。唯一の家族だからというのもあって、過保護なくらい大切にしてもらった。だから
「今までたくさん守ってくれてありがとうございます、お兄様。これからはスカーレットを守ってあげてくださいね」
「リリカ……」
ウィリアムの瞳に涙の膜が張っているように見えた。
「そうだな、必ず守るよ。リリカも結婚したとしても大切な妹であることには変わりないからな。何かあったらいつでも頼ってくれ」
「はい」
「よしっ、いつでも会いに行けるように早く仕事を終わらせるか」
「それは困るなぁ」
突然聞こえた声にビクッとして振り向くとそこにはレイリックが立っていた。
「レイ!? いつからそこにっ!!」
「さっきからだよ」
またこれだけ近づかれても全く気がつかなかったなんて……。まさか気配消してるの!? 毎回こんなに驚かされて、そろそろ慣れないと心臓に悪いわ。
「別に気配を消してるつもりはないんだけどね」
「えっ!?」
また心を読まれた!?
「2人との会話に夢中になってて全く気づいてなかったでしょ」
「確かに」
思わず納得し、大きく頷いた。それを見たレイリックはむっと拗ねたような表情を浮かべる。
「リリカの反応はいつも面白いから好きだけど、少しぐらい気づいてほしいな」
「え、えっと……」
お、面白……。
「ね、リリカ」
リリカが返答に困っている間に、笑顔で詰め寄られた。笑顔ではあるが目は笑っていない。
「はい……頑張ります……」
何をかは全く分からないがそう返事をすると満足したようでぎゅっと抱き締められる。リリカは驚き目を瞬いた。
「僕の可愛い奥さんには僕だけを見てほしいよ」
耳元で囁かれ、思わず声を出してしまいそうになったが、ぐっと堪えた。
「まっ、まだっ婚約者ですよ!?」
結婚式で誓いを行うまでは婚約者のままだ。
レイリックの囁きボイスのせいでリリカ自身会話どころではなくなってしまい、全く関係のないことを言ってしまった。
絶対レイ分かってて言ってるわ!! まだあんなの慣れてないのに!!
「もうすぐ式なんだから何も問題ないよ」
ふとリリカは視線を感じ、周囲を見渡すと、城で働く人々がちらりちらりと様子を伺うのが見えた。ウィリアムとスカーレットは目を逸らしていることに気づき、顔に熱を帯びるのを感じた。
「わ、私は見ていませんからね」
そうスカーレットがフォローしてくれるが、それがより羞恥心を増長させた。
「そ、そろそろ中に入りましょうっ!!」
「えぇー、もう少しこのままでもいいのに」
残念そうに、訴えかけるような顔で見つめてくる。
「っ〜〜そんな顔されたってダメですからっ!!」
勢いで一息に伝えるとようやく離してもらえた。
動揺しつつも前のめりにつかつかと歩みを進めると、レイリックから小さな笑い声が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。




