“私室”に呼ばれました
「突然どうされたのかしら?」
〝この後僕の部屋に来て。ああ、執務室じゃなくて私室の方にね”
そう言われ、レイリックの私室の前まで来たリリカだったが、そこでふと立ち止まった。
そういえば、私レイの部屋に来るのって初めてじゃないかしら。いつも執務室でお会いしてたし。
レイリックは多忙なため、部屋に戻るのは夜遅くになってからだ。そのため、部屋に訪ねていく機会などなかった。それが今、こうして大きな扉の前に立っている。
改めてそう思うと緊張してきたわ。
この扉を挟んだ先にレイリックの部屋がある。 リリカは心を落ち着かせようとゆっくりと息を吸い込んだ。そのとき、突然扉が開かれた。中からレイリックが顔を見せる。
「やっぱり来てたね」
「レイ!?」
どうして分かったのかしら!?
「え、えっとそのっ」
動揺して上手く言葉が出て来なかった。
「さあ、入って」
「はっ、はいっ」
入室を促され、一歩前へと進む。
「そんなところに立ってないで、座ったら?」
どうして良いのか分からず、部屋の隅に佇んでいると、そう言われる。見るとレイリックはくすくすと笑っていた。
「な、何が可笑しいのですか!!」
「ふふっ、ごめんごめん。あまりにもぴんと動かないものだからつい」
「もうっ」
そんな会話をしている内に自然と緊張が和らいでいった。
「では少々お待ちを、お嬢様」
「え? あの、レイ? 一体何を……」
目の前にティーカップが置かれたかと思うと、流れるような手つきで準備がされていく。
「どうかな? 何度か練習したし、大分美味しく淹れられるようになったと思うけど」
実は感想をもらおうと何度かロベルトに飲ませていたのだ。ロベルトは全く違いが分からないといつも言っていた。しかし、それでもなお練習に付き合わせ続けたため、最近となってはお茶を見るだけで怪訝な顔をされ尻尾を巻いて逃げるようになった。「普通のが飲みたいんだあぁぁ!!」と叫ぶロベルトの声が執務室からは聞こえてきたとか。
「えっと、失礼します」
リリカは用意されたティーカップを持ち上げ、ごくりと飲み込む。
「んっ!! とても美味しいですわ」
レイリックに初めて淹れてもらった貴重なお茶だからか一層美味しく感じる。
「それは良かった」
どこかほっとした表情をしている。
「レイ?」
「ああ、いや、僕なりに練習はしたんだけど、喜んでもらえるものが出来たのか分からなかったから安心したよ」
「飲み切るのが勿体ないぐらいですわ」
「だったらまた淹れてあげるよ」
「ええっ!? いいんですの!?」
「勿論。可愛い婚約者のためならいくらでも」
「っ~~」
この笑顔、毎度思うけれど破壊力が高すぎなのよ。
「どうして顔を逸らすのかな?」
彼はわざとらしく笑顔で言う。
「それはっ……分かっていて言わないでくださいっ」
「さあて、それはどうかな?」
にこにことはぐらかされてしまう。
「リリカ、こっち向いて」
リリカはその明るい声に思わずどきっとしつつ振り向いた。
するといつの間にか手に持っていた小さなお菓子を口に入れられる。
「!!甘くて美味しいですわ」
なんとも懐かしいあんこの味がした。
この感触……もしかしてどら焼き? それにしては小さいけれど。
「リリカならきっとそう言うと思ってたよ。海外の商人から珍しいものを買ったって料理長から聞いてね」
「海外……」
もしかしてカタリナ王国かしら。
カタリナ王国は以前リリカが訪れた国で、日本と似た文化を持つ国だ。茶葉のことしか頭になかったため、他のものなど全く目に入っていなかった。
少し惜しいことをしたわ。
「これだよ」
やっぱりどら焼きだわ。
見せられた箱には大小様々な大きさのどら焼きが入っていた。
「それと、これ料理長からリリカにって預かってきたんだ」
そう言って箱を渡される。
開けてみるとそこにはあんこで作られた色とりどりの花を模したお菓子がいくつも入っていた。
「綺麗……」
「へぇ。これは凄いね」
「ええっ」
リリカはそれをきらきらと目を輝かせて見る。
気が付くとレイリックはその横顔から目が離せなくなっていた。
「綺麗だ」
思わず言葉が溢れる。
「そうですわね。どうやって作ったのかしら」
美しいお菓子のことしか頭になかったリリカは当然お菓子のことだと思い、返事をする。
「そっちじゃないんだけど……」
見るとレイリックは苦笑いを浮かべていた。
「え?」
「いや、なんでもないよ」
「?」
「それはそうと、もうすぐだね」
「ええ。とても楽しみですわ」
リリカもレイリックも日ごとに高揚する気持ちが抑えられなくなっていた。
そう。いよいよ1週間後、リリカとレイリックの結婚式が開かれる。




