第2王子、伯爵令嬢と再会する
レナードはナタール王国の西にあるキュリアス伯爵家に到着していた。
着いたか。ここに彼女が……。
事前に連絡するのが通常なのだが慌てて向かったため、連絡する間もなかった。
無事に会えればいいが。
「突然すまない。伯爵はいるだろうか?」
門番に尋ねる。
「失礼ですが貴方は?」
「僕はアルマーニ王国第2王子レナード・フォン・アルマーニだ」
そう言って、レナードは懐に入れていたアルマーニの王族であることを示す紋章が描かれたチェーンが付いた丸い物を見せる。
「っ!? これは大変失礼いたしました。ご案内いたします」
案内された客室で待つこと数分、慌てた様子で伯爵がやって来た。
「レナード殿下、どういったご要件でしょうか?」
「ご息女ナディア嬢のことで話しがあって来たんだ」
「娘の?」
「ああ。学園では仲良くさせてもらっていたのだが、実は……」
レナードはキュリアス伯爵令嬢が操られていたことを含め、彼らから聞いたことを全て説明した。
「なるほど、そのようなことが……。私としても許すことは出来ませんな」
「伯爵……」
「娘はかれこれ1年程部屋に閉じ籠もっておりまして、私どもは心配しておりました」
「1年……」
というとやはりあの日から。
彼女が学園に来ていないことは牢であの女から聞いていた。
「すまなかった……」
レナードは伯爵に深々と頭を下げた。
「殿下!?」
「僕がもっと早く気付けていればこのようなことにはならなかったっ」
レナードの言葉の隅々には悔しさが滲んでいる。
「頭をお上げください。決して殿下のせいではございません。それを仰るのなら、私の責任でもあります。私も娘がそのようなことになっていたとは気付けなかったっ。なんと声を掛ければよいかも分からず結局何も出来なかった……」
「……伯爵、頼みがある。ご息女に会わせてもらえないだろうか? もう一度きちんと話しをしたい」
「承知いたしました。呼んで来てくれ」
「かしこまりました」
しばらくののち、痩せ細った1人の女性が入って来た。
「っ……」
その姿を見たレナードはしばらく声を掛けることが出来なかった。久しぶりに見た彼女は美しく着飾ってはいるものの、顔色は悪く、不健康そのものだった。
「ナディア……」
伯爵が心配そうに彼女の名を呼ぶ。
「久しぶり、だね……」
「……お久しぶりにございます、殿下」
ナディアの姿を正面から見たレナードはショックを受けた。
こんなに苦しませてしまったんだな……。
「では私は席を外しております」
「すまない……」
伯爵が退室し、バタンと扉が閉まる音が聞こえる。
レナードは拳を握り締め、
「すまなかった!!」
そう言って勢いよく頭を下げた。
「えっ……。どう、して……」
「あのとき、君が苦しんでいたことに全く気付けなかった。そして、君を危険なことに巻き込んでしまったこと、許してくれとは言わない。本当に申し訳なかった」
ナディア嬢は完全な被害者だ。あの2人は僕を操るために、ナディア嬢をも利用した。僕はあの日、友達だと思っていたナディア嬢に突き放されたんだ。僕はてっきり嫌われたと思って、数日後、学園を去った。実際は彼らが僕を苦しめるために、ナディア嬢を操っていたわけだけど。人は負の感情が高まったとき、付け入られやすくなる。そうして、普段なら全く効かなかったはずの香水の影響が多少ではあるが出てしまったのだ。
「っ……殿下のせいではございません。わたくし、酷いことを申し上げてしまって……。わたくしの方こそご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」
「座って話そうか……」
「はい……」
「キャサリン嬢とケイシーに会ったんだ……」
「!!」
キャサリンとケイシーとは言わずもがな襲撃犯2人である。
「2人ともすでに自白している。君を香水を使って操ったこともね」
「……わたくしはキャサリンのことを信じておりました。もちろんケイシー様のことも。ずっと嘘だと、そう思いたかった……。キャサリンも操られているのでは、と」
そう言うナディアの声は震えていた。
「っ……」
「……本当に申し訳ありませんでした」
「ナディア嬢のせいではっ」
「いえ、2人を殿下に紹介したのはわたくしですもの……」
そうだ。僕はナディア嬢から友達だと紹介されたんだ。それから関わるようになって。だが、、、
「ナディア嬢のせいではないし、君を責めるつもりはないよ」
「やはりお優しすぎますわ、殿下は」
「……ナディア嬢は2人をどうしたい?」
「どう、とは?」
「君も被害者だ。どんな罰を与えたいか意見があれば聞こう」
「……もう二度とわたくしに関わらないと約束して頂ければそれで構いませんわ」
「それだけでいいの?」
「ええ。キャサリンがたとえわたくしのことを友達だと思っていなかったとしても、わたくしはずっとそう思っておりましたから、罰を与える気にはなりませんの」
「そうか……。だけど失敗したとはいえ、王族である僕を操ろうとした以上、厳罰が科されることにはなるだろう」
ナディア嬢の気持ちはよく分かる。真実を聞いた今でも、全てが僕を利用するための演技だとは思いたくない。ナディア嬢にしたことは許せないが、僕にしたことに関しては厳しく罰したくないと思ってしまう。だが一国の王子として、罰さなければならない。
「承知しておりますわ。2人のこと、殿下に全てお任せいたします」
「分かった」
でも、兄さんだったら僕よりも上手くやれたんだろうな。事を起こされる前に対処も出来ただろう。兄さんにそれを言ったら、買い被りすぎだとは言われたけど。
レイリックとの会話を思い出し、苦笑いを浮かべる。
「ああ、そうだ。学園には戻るの? 僕はもう通ってないけど」
「えっ!!」
「まだ言ってなかったか。今はカタリナ王国に留学してるんだよ。とにかく、まずはしばらくゆっくりと休んでほしい。それで無事回復したら、その、もし良かったら、なんだけど……。いや、でも、また変なことに巻き込んだら……」
「あの、殿下? わたくしならもう大丈夫ですから何かあるのでしたら仰って頂けませんか?」
「そう、だね。その、アルマーニに来ない?」
「え?」
ナディアは突然の誘いに驚いた表情をしている。
「前に興味があるって言っていたでしょ。だから、気分転換にもなるだろうし良いと思ったんだ。お父上も心配されていたし、そう簡単には来れないかもしれないけど。まあ考えておいてくれ。じゃあ」
「はい。ごきげんよう、殿下」
レナードは伯爵の元に向かい、少し話しをした後、屋敷を去った。
その後、ナタール王国国王との話し合いの場が設けられた。話し合いといっても、こちらが望む処罰を告げ、そのまま受け入れられることとなった。その処罰だが、キャサリンとケイシーの両名、貴族籍剥奪の上、修道院に入れられることとなった。本来は死罪でもおかしくはなかったところ、これだけに留めたのだ。これで更生してくれたらいいのだが。正直なところ、長い間友人として関わっていた分、情が湧いてしまったのもあった。それ以上に死罪にしてしまっては優しいナディア嬢が悲しみそうだ、というのもあった。2人が送られることとなる修道院だが、かなり厳しい場所として有名で、逃げ出すことは不可能と言われている。そのような場所で今まで貴族として裕福な生活を送っていた2人が耐えられるのかは分からないが。
レナードは学園でのことを思い返し、溜め息を吐いた。




