王太子様の考え
「公爵とスカーレット嬢は相性がぴったりだったみたいだね。2人にはこれからも仲良くしてもらわないと。僕もリリカ嬢と婚約出来て幸せだよ。ふふふっ、まさかリリカ嬢にこんな特技があったなんてね」
レイリックはリリカが作った残りのクッキーを嬉しそうに見つめながらそう言うが、決して特技などではない。
「本当に可愛いなぁ、リリカ嬢は」
レイリックはほんのり顔を赤らめながらクッキーを渡すリリカの姿を思い出して、思わず甘い笑みを浮かべる。普段は王太子としての振る舞いを心掛けており、いかなる時でも冷静で柔和な笑みを浮かべているレイリックだが、リリカのこととなると自然と表情が豊かになっている。
「……な、なあ。お前はさ、リリカ嬢にはっきりと伝えないのか?」
「なにを?」
「いや、その……気持ちをさぁ。ほら、そういうのって、言葉にしないと分からないだろ」
レイリックは元来の性格上、思っていることをはっきりと口にする部分があり、リリカにもよく平気な顔をして“可愛い”だのなんだの言ってはいるが、きちんと想いを伝えたわけではない。
ロベルトの言葉を聞き、一瞬目を丸くし、驚いた表情をしたレイリックだったが、
「まだ伝える気はないかな」
と即答した。
「なぜだ?」
「それは……怖いんだよ。もし伝えて逆に避けられるようになったらと思うと」
「だがそんなことあるわけがっ……」
「ないって言い切れる? あのリリカ嬢だよ。他の女性たちとは違う。自分を良く見せようとアピールしてくるようなタイプじゃない。それに僕たちは所詮契約関係でしかない」
「っそれは……」
ロベルトはレイリックの考えを聞き、納得する部分があった。レイリックもそうだが、ロベルトも名門伯爵家の嫡男で、かつ王太子の侍従長という立場から数多くの女性からアプローチを受けて来た。それも身分を問わずだ。そのようなアプローチを仕掛けてくる女性なら喜ぶだろう。そういう意味でいうと、リリカの行動は全く予想がつかない。
「珍しいな、僕にしては。怖れなんて感情抱いたのは初めてだよ」
「……だが伝えるべきことはちゃんと伝えておいた方が良いぞ。これは親友としてのアドバイスな」
「……考えておくよ。でもね、そもそも軽くキスしただけで倒れるような子なんだよ。そんなこと伝えたら、また倒れるかもしれない。うん、きっとそうだよ。だから、今はまだ早いかな」
レイリックは早口で言い訳を並べていく。
これは今はというか、しばらく言う気ないな。
そう感じたロベルトだったが、口には出さなかった。




