お菓子作りに挑戦
リリカは今厨房にいる。世の女性たちは婚約者に日頃の感謝を伝えるために手作りのお菓子を渡すという。そうレイナから聞いて、レイリックにプレゼントしようと思ったのだ。
今まで色々とお世話になっているものね。たまには何かお返しがしたかったし、頑張るわよ。
リリカは気合いを入れた。
だが、実をいうとリリカはお菓子作りが大の苦手なのである。普通の料理なら作れるのだが、大雑把なことが許されないお菓子作りは前世から苦手だった。要は細かな作業が苦手なのだ。だから料理だけでなく、細かな作業が必要な刺繍もかなり苦手だ。
リリカ的には正確に作業しているつもりでもなぜか生地が固まらなかったり、焦がしてしまったり……お菓子に関してはまともに作れたことは一度もないのである。それでもウィリアムは美味しいと言って、喜んで食べてくれていたが、今回の相手はレイリックだ。適当なものを出すわけにはいかない。料理長やレイナにも協力してもらい、クッキーを作ることになった。
そして完成したのだが、、、
なぜか焦げた……。どうしてよ!? どうして、丸焦げになるのよ!? ここのキッチン、使ったことなかったからよね、きっと。だって、ほら、知らない機械とかいっぱいあるもの。うん、そうに決まっているわ。
リリカは失敗した言い訳を必死に探していたが、実のところ、どこで料理をしても焦がしているので断じてキッチンのせいではないのだが。
「ううっ、不味い……」
リリカは1枚食べて、呟いた。
「では公爵様にでもお渡ししておきましょうか?」
「いくらお兄様でもこんなもの食べられないわよ」
「……お嬢様が作ったものなら喜んで召し上がってくださるのでは?」
「それは……否定出来ないけど。お腹を壊してしまうわ」
「うーん……。分量は正しかったはずなのですが……」
「……とにかく、作り直しよっ!!」
再び作り始めたリリカだったのだが、
「今度は生地が柔らかい気がするわ」
先程からずっと生地を捏ねているのに……全然、纏まらないじゃないのっ!! こうなったら無理矢理にでも焼いてしまえば最終的には良い感じに纏まるはずっ!!
と思い切ってそのまま焼いたのだが、
バンッ
突如、爆発音が鳴り響いた。
「きゃっ!!」
な、何が起きたの!?
クッキーを焼いていた機械から煙が出ている。
まさか、無理矢理入れたから……。でも前世でも無理矢理入れたことあるけど、こんなことにはならなかったわよ!? これは機械のせいよ。ええ、絶対にそうよ。
リリカは自分にそう言い聞かせた。
「と、とりあえず取り出します。リリカ様は後ろにお下がりを」
「ええ、お気を付けて」
料理長は慎重に機械を開けて取り出す。爆発音が鳴り響き、煙が出ただけで、特にどこにも異常はないそうだ。
「良かった……」
リリカはその報告を聞き、ほっとした。そして、クッキーもしっかり焼けていた。少し、焦げてはいるが見た目的には食べられなくはなさそうだ。
「でも爆発音がしてたけど食べて大丈夫なものかしら」
「ではまず私が頂いても?」
レイナが真っ先に声を上げた。
「ええ、でも無理しないでね。危なそうだと思ったら捨ててくれていいから」
「かしこまりました」
パクッ
「!! これはっ!!」
レイナは言葉を詰まらせた。
それを見て
「どうしたの!? まさか具合悪くなったんじゃ!?」
リリカは心配になり声を掛けたが
「はっ、いえ、むしろ逆です」
「逆?」
「ええ。今までで1番美味しいです」
「えっ……美味しい? これが?」
こんなに焦げてるのに。
そう思いつつ、手に取って1つ口に放り込む。
「っ!! 美味しい……」
確かに焦げた味はするのだが、今までで1番良い出来だ。
リリカはなるべく焦げ目が少ないクッキーをレイリックへのプレゼント用に袋に入れた。
でも受け取ってくれるかしら? お兄様じゃあるまいし、拒否されるんじゃ……。
今更ながら不安になってきた。
「もし受け取ってもらえなかったら、レイナがもらってくれる?」
「えっ!? ええ、もちろんです。ですが、大丈夫だと思いますよ。あの王太子殿下ですから」
「?」
どういう意味なのかしら?
リリカは疑問に思った。レイナはレイリックとリリカの契約について何も知らないため、2人が恋愛婚約だと思っているのだ。端から見ればレイリックがリリカを溺愛しているのは一目瞭然だった。要するにレイナは、リリカに対しては甘いレイリックなら必ず受け取ってくれると確信していた。肝心のリリカ本人には溺愛されているという自覚は全くなかったが。
リリカは若干不安に思いつつもレイリックの執務室まで向かった。




