ついに屋敷を出る
「い、行ってはダメだ!!」
「行きます」
このやり取りを数十分は繰り返している。
発端は王太子レイリックの婚約者となることが決まったことだ。「王太子妃となる者は王太子妃教育を受けるために王宮で生活しなければいけない」という決まりがあるのだがそれを知ったのが、レイリックが王宮に婚約許可証を提出し、婚約が決まったと連絡を受けてすぐのことだった。ウィリアムもすっかり忘れていたらしく、妹と離れ離れになるなんてと嘆いているのだ。
大袈裟な。別に一生会えないわけでもないし、そこまで遠くないし、いつでも会おうと思ったら会いに行ける距離でしょうに。というか絶対わざと、よね。タイミングを計ったかのように知らされるだなんて。でも、それだけ婚約者として受け入れようとしてくれているということだし、まあいっか。
とにかく、なんとしてでも行く許可を得ないと。
リリカはウィリアムと会えなくなることが寂しいと感じていた。リリカは以前からウィリアムのシスコン度合を鬱陶しく思っていながらも、たった1人の家族だということもあり、本当に大切に思っていたのだ。そんな感情がどこからか伝わってきて。だから、この前は無理矢理な形で婚約の許可を得たが、本音では家から出ることをきちんと認めてもらいたかった。
「お兄様……お兄様がご存じのように私は今まで屋敷の中にばかりいて、外の世界を知りません。私はあまりにも無知です。そして、このまま屋敷に引き篭もっていては公爵家の評判にも関わるでしょう。お兄様が守って来た公爵家を私も異なる立場にはなりますが守りたいのです。そのためにも王宮で数多くのことを学びたい。そう思っております」
これが私の本心。ずっと願っていたこと。私だってお兄様のお役に立ちたい。
リリカは幼い頃から、いつかウィリアムの役に立ちたいと密かに願っていた。
「っ!! ……全くそこまで言われたらダメだなんて言えないじゃないか。あんなに小さかった妹が知らないうちにここまで成長していたなんてね。行っておいで。そして、何かあったらいつでも帰って来ていいからな」
「!! はいっ。行って参ります、お兄様」
リリカは王宮に向けて出発した。