兄弟
「そういえば随分急に帰ってきたけど何かあったの?」
レイリックは弟レナードに尋ねた。
「何かって、それは僕のセリフだよ。兄さん、しばらくは婚約するつもりないって言ってたでしょ。それなのに婚約だなんてさ」
「他には?」
「他にって。何もないよ。あの兄さんが婚約する相手なんて興味があったし、それに将来自分の義姉になるかもしれない人なんだから話してみたかったんだよ。まさか、あの公爵令嬢が婚約者とはね。公爵は反対しなかったの?」
公爵がシスコンだということは長らく留学していたレナードですら知っていた事実だった。というのもレナードが留学する前からすでに公爵のシスコンっぷりは有名だったからだ。当時、レナードはリリカに興味が湧き、接触しようとしたことがあったのだが、公爵の許可を得ることが出来なかったのだ。公爵曰く、レナードが愛らしい妹に惚れては困るからとかなんとか。結局、断念せざるを得なくなった。
「反対はされたけどね。押し切ったんだ」
「へぇ。まさかそこまでするなんてね。驚きだよ。確かに綺麗な女性だよね」
「レナード……もしかしてリリカ嬢のことが好きになったの?」
「へ? いやいやっ、兄さんの婚約者相手にそれはないからっ」
レナードは慌てて否定した。
「そう。ならいいけど」
もしかして、兄さんは本気で……。
「……あのさ、兄さんって、実際、リリカ嬢のこと、どう思ってるの?」
「面白い女性だよ」
「え? それだけ?」
「?」
「いや、恋愛的なあれとか、その……。急に婚約するぐらいなんだからそういう出会いとかあったのかなって思ってたんだけど、違うの?」
「……そうだよ」
「えっ?」
「レナードの言う通りだ。僕はリリカ嬢のことが好きだよ」
自分で言いながら恥ずかしかったらしく、耳と頬が赤く染まっている。
「「ええっ!?」」
レナードとロベルトの声が重なった。
「聞かれたから答えたのに。そんなに意外?」
レイリックは口を尖らせて尋ねる。
「いや、あの兄さんが……」
ロベルトも大きく頷いている。
「ロベルトがこの前持って来た恋愛小説を読んで気が付いたんだよ。この感情がそうなんだってね」
「「……」」
レイはそういうことに鈍いから気付くのはまだまだ先かと思ってたが、こんな早く気付くとはな。あれ渡して正解だったか。
「あ、あんなに面白い女性に会ったのは初めてだったから、それだけで婚約を決めたのは本当だよ。利害は一致していたからね」
レイリックは自然と早口になり言う。
「ん? 利害?」
レイリックはレナードにリリカとの契約について説明をした。
「えっ、何それ!? 確かに、変わった令嬢ではあるけど……」
「でしょ?」
それで婚約を決めるなんて、まあ兄さんらしいかもな。しっかし、兄さんのことリリカ嬢はどう思っているんだ? うーん、気になるな。よしっ、ちょっと、試してみるか。
そう思ったレナードは足早にリリカの部屋まで向かった。




