街に出掛けました
リリカは公爵邸から王宮に戻って来ていた。
「これでお兄様とスカーレットが上手くいってくれたらいいけど。よし、ちょっと街に出掛けようかしら。のんびりぶらぶらしたい気分だし。さあ、レイナ行くわよ」
「はい、お嬢様」
街に着くと屋台の組み立てを行っている様子をちらほら見かけた。
「何かあるのかしら」
「もうすぐ豊穣祭ですからね」
豊穣祭とは植物の神様への日々のお礼と祈りを込めて行われるお祭りである。大昔、この辺りの土地は植物が何も育たない不毛の大地だった。その様子を見た植物の神様がこの土地に恵みを与えた。そして、最後に神様は土地全体に花を咲かせて去って行ったという伝承が残されている。よって、この国では植物の神様が唯一神として崇められているのだ。周辺諸国にもこの伝承は広く伝わっており、植物の神様を信仰する国は多い。
「ああ、そういえばそんな時期なのね。ここ数年は行っていなかったけれど今年は参加したいわね。今年はいつなの?」
「確か明後日かと」
「明後日……特に予定はないし、絶対に行くわよ」
「……お嬢様、張り切られているところ申し訳ないのですが、参加されるのでしたら王太子殿下か公爵様とご一緒されてください」
「え? どうして?」
「そういうルールがあるんです。とにかく、この豊穣祭だけは女性同士だけでは行ってはいけませんからね。親子で参加するならセーフですが」
「そうなのね。気を付けるわ」
レイナの迫力に圧されたリリカは素直に頷いた。
「でも折角スカーレットと婚約してもらったのにお兄様と一緒に行くわけにはいかないわ」
「ここは王太子殿下を誘われては?」
「でもお忙しいでしょうし。近付かないって自分から宣言したのに……」
初めの婚約の際の契約でリリカはレイリックに無闇矢鱈に近付かないと誓ったのだ。
「お嬢様はどうされたいのですか? 関わりたくないわけではないのでは?」
「それはっ……」
リリカは自分から言い出した契約の手前、あまり考えないようにしていたが本当はもう分かっていた。
いつも助けてくださって、あんなにお優しくて素敵な方、好きにならないわけないじゃない……。でも、そんなことレイリック様にはお伝え出来ないけれど、
「少し近付くぐらいなら大丈夫かしら」
リリカはボソッと呟く。
「大丈夫ですよ。仕事の邪魔をされない限り、そう簡単には契約違反にはなりませんよ。お祭りのこと、お誘いではなくお願いされてみては?」
「お願い……ええ、そうね。やってみるわ」
その頃、王宮では
「リリカ嬢はいるかい?」
「リリカ様でしたら街に出掛けられました」
「えっ? どうして街に?」
「それがのんびりされたい気分だとかでして」
「そう……ありがとう」
メイドは一礼し、去っていった。
「残念だったな、会えなくて。……レイ?」
「また置いて行かれた……」
レイリックはがくりと肩を落とした。
「どんまい。まっ、今度はちゃんと約束しとけよ。そうすれば置いては行かれないだろ」
「ああ、次はそうするよ」
「にしてもお前変わったよな〜」
「そう?」
「ああ、かなり変わっただろ」
俺、こんなレイ見たことないぞ。
「随分とご執心のようで」
「どういう意味? 別に普通だけど」
「いやいやっ、今までの令嬢方への振る舞い、思い返してみろよ!! 近付くどころか追い返してただろ!!」
「確かに……どうしてだろ? 初めからリリカ嬢には興味はあったけど……」
「それ自体が異例なんだ。まっ、自分で考えてみろよ」
「……分かった」
レイリックはそう言いつつ首を傾げていた。




