フィアーズ伯爵家にて
「まさか、お義姉さまなんかと婚約してくれる人がいるなんて、とんだ物好きね。もしかしたらお義姉さまとしか婚約出来なかったのかもしれないわね。どちらにせよ、どうせ碌でもない貧乏貴族かよっぽど年の離れたお爺さんに決まっているわ」
アイラが馬鹿にしたように言う。
「っそんな失礼なこと……」
スカーレットは震えた声で反論する。
「なに、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
そう言うとアイラはスカーレットの髪を掴み、強く引っ張った。
「まあ、お義姉さまにとっては唯一婚約してくれる貴重な人よね。その婚約者が今のお義姉さまの姿を見て逃げ出さなければいいわね」
「ええ、そうね。でもアイラも程々にしておきなさい。本当に逃げ出されたら困るもの」
これ以上醜くなっては婚約する前に捨てられてしまうわ、とふんわりと、しかし毒気を含んだ声で伯爵夫人がそう言うと、アイラは髪を掴んでいた手をパッと離した。スカーレットはいきなり手を離されたため、前のめりになって跪いてしまった。
あの仮面舞踏会では婚約者を見つけるためにも特別に着飾ることを許可されていた。しかし、今のスカーレットは家での本来の姿でボロボロのみすぼらしい服を着せられている。
2人の会話を聞いたスカーレットは
そうよね。今の私は本当に醜いわ。こんな私を受け入れてもらえるのかしら。公爵令嬢様にこの姿を見られて軽蔑されたらどうしよう……。
と不安に思い始めていた。
「この鈍臭い子を拾ってくれるのなら誰でも良いわ。すぐに出て行けるように準備を済ませておきなさい」
「はい、お義母さま……」
返事を聞くとすぐに義母とアイラは部屋に去って行った。
昔はスカーレットの状況を知って助けようとする者もいたが、今は誰一人としてそのような者はいない。スカーレットと仲が良かった者や助けようとした者は全員、義母によって追い出されてしまったことを使用人たちは皆知っているからだ。結局、義母が来る前から雇われていた使用人はもう誰も残っていない。
スカーレットは亡き母が守ろうとしていたフィアーズ伯爵家を守りたいという気持ちが強かった。だから、どんなに酷い状況でも逃げ出そうとはせず、屋敷に留まっていたのだ。しかし、屋敷内で酷い扱いを受け続けたことで早く屋敷を出たいという気持ちがその気持ち以上に大きくなっていった。
本当に迎えに来てくださるのかしら……。
スカーレットの心には不安が募っていく一方だった。




