ネックレス
数日後、リリカは暇を持て余していた。思っていた以上に休みが長く感じたのだ。前世だったら休みは多ければ多いほど喜んでいたのだが、この世界には娯楽があまり存在しない。外に全く出られず、出来ることといえば本を読むことだけだ。庭園も温室も外にあるので行くことが出来ない。初めは休みを満喫していた。魔法書に描かれた絵を眺めては見てみたいな、とか思いながら楽しんで読んでいた。しかし、このような生活が続いていれば当然飽きてくる。それに
「これじゃ体力が落ちそうだわ」
外に出られないので、部屋の外に行く必要も全くなく、ずっと部屋にいる。
「早く外に行きたいわ」
ベッドにうつ伏せに寝転がりながら、そう叫ぶ。
「それは出来ないかな」
上から声が聞こえた。その方向に顔を向けると
「!?」
レイリックが立っていた。
「レ、レレレイリック様!? いい、いつからそこに!?」
動揺しまくっているリリカを見てふっと笑うと
「今来たところだよ」
と返事が返ってきた。
うわーっ。変なところ見られた!! どうしよう!?
とリリカは心の中で叫んでいる。恥ずかしさのあまり、頭を抱え込みたくなる。
「この前のことで話しがあって来たんだ」
この前のこととは、言わずもがなリリカが魔物に襲われた件である。
「その節はありがとうございました」
「君を助けるのは僕の役目だからね」
一応でも婚約者に何かあったら大変だものね、と思い、うんうんと頷くと
「君……。まあ、いいや」
何か思うところがあったのだろうか、歯切れの悪い返事をされた。
「それでなんだけど、魔物を招き入れてしまったのは僕たちの責任だ。すまなかった」
そう言って、レイリックは頭を下げる。
「頭を上げてください。私は無事ですし、気にしないでください」
王族に頭を下げられるだなんて、気持ちが落ち着かない。
「それよりも招き入れたってどういうことなのですか。あそこの森に元々住んでいた魔物なのでは?」
「いや、王宮内の森は浄化されているから魔物は一切いないはずだったんだ」
「えっ。それってつまり」
「ああ。あの魔物は何者かによって王宮に放たれたのだろう」
「そんな……」
「だから安全が確認出来るまでは外に出るのは控えてくれ」
「分かりました。あっ、そうですわ。このネックレスは一体?」
魔物の攻撃から自身を守ってくれたネックレスについて尋ねた。
「ああ、防御魔法を込めたんだよ。それでリリカ嬢に何かあったら防御魔法が発動するようにしておいたんだ。あと僕が持っているペンダントと連動していてね。緊急時には位置情報を知らせてくれるんだ」
「込めたってレイリック様が、ですか!?」
「そうだよ。でも防御魔法が破られるなんてね。これは役に立たなかったか。新しいものをプレゼントするよ」
「え!? いえ、お陰で助かりましたし、そうそうあんな目には遭わないでしょうし、これで充分ですよ!!」
「君は謙虚だね。なかなか受け取ってくれない。皆僕があげるって言ったら喜んで受け取るのに」
「……」
でしょうね。レイリック様は整ったお顔をされているし、王族ということもあって人気が高いもの。前世が庶民の私からすれば、本物の宝石が使われたネックレス、しかもレイリック様の防御魔法付きだなんて明らかに高価なもの受け取れないと思ったけれど、確かに前世の記憶がなければ喜んで受け取っていたかもしれないわね。
「もうすぐ用意出来るから待っていてね」
すでに準備を始めているようだ。受け取らないという選択肢はなさそうだ。とはいえ、そのネックレスがあれば少しは安心出来るので素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます。あの、1つだけお願いがあるのですが」
「なんだい?」
「王太子妃教育を再開出来ませんか? 暇すぎて……」
「分かった。君が大丈夫なら、構わないよ」
危険な目にあったばかりだったので気を遣われていたようだ。
「ありがとうございます」
そうして、王太子妃教育は数日ぶりに再開されることとなった。




