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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

木こりの復讐

作者: マルジン

ちょびっとホラーテイストになってしまいました。

グロとダークな世界観がお嫌いな方は、控えたほうがよろしいかと。


一番下にリンク貼ってますので、別作品を(も)お読みいただけると幸いです。

これは、とある木こりのお話。




「聖水つけろよー。でないと魔物が寄ってくるぞー」とお父さんはいつも言う。


「準備できてるもん!」


ちょっとだけ怒った。

お父さんがたまにみせる顔とおんなじで、こわ~い顔を作ったんだ。


そしたら……。

どうして笑うんだろ。


頭を撫でられて、なんか余計に怒りたかったけど、お父さんは先に行くもんだから、僕は急いで背中を追いかけた。


今日も、枝打ちに行くんだ。


僕はまだ小さいから、お父さんが枝打ちするのを見るだけ。でも面白いよ。

魔法で高くまで飛んで、ナタをバシバシと振るんだ。

そしたらね、枝が降ってくるの。

ドシンッ!て僕の体が揺れるんだ。


ドシンッ――。


「離れてろよー。潰れて死ぬぞー」とお父さんはいつも言う。


「はなれてるよー!」


何回言われても、僕は怒らないよ。

だって本当に危ないからね。

ぺしゃんこになりたくないもん。


お父さんは僕のことを見下ろして、頷いてくれた。


ハハハ、僕が偉いと思ったでしょ?

お父さんは、あんまり喋らないんだけど、そのぶん顔で分かるんだ。あれは嬉しい顔だね。


僕も嬉しくなって、ほっぺたが自然と盛り上がった。


ナタをベシベシと振るお父さんは、カッコいいなあ。


僕もお父さんと一緒に枝打ちをしたいなあ。


早く大きくなりたいなあ。


ガサガサ――。


お父さんを見てたら、僕の後ろの方でこすれる音がした。


とても小さい音だから、気のせいかもしれないんだけど……。

この辺はアサルトベアが出ると言ってたしなあ。

腕を振るうだけで、人の頭を吹っ飛ばす魔物だってお父さんが言ってた。

俺でも勝てないから、おかしいなと思ったら、すぐに言えって……。


いやでも、聖水をつけてるから大丈夫だよ。

次に音がしたら、その時言えばいいんだよ。


ヒュンッ――。


甲高い音がした瞬間、僕の頭の上を何かが飛んでいった。

おかしいなと思って頭を触ってみるけど、クセのある髪がベタベタしてるだけだ。

虫かなあ?


ヒュンッ――。


また甲高い音がした。今度は分かったぞ、後ろから音がしてる。

僕は振り返った。でも何もいない。

アサルトベアではないと思うんだけ……。

お父さんに言わなくちゃ。


お父さんのいる、高い空へと目を向ける。

でもそこには、折れかかった枝がぶらぶらしてるだけ。


あれ、お父さん?


ドサッ――。


小さく体が揺れた。

ゆっくりと視線を下ろすと、そこにはお父さんの姿があった。


「……お、おと」


叫ぶ前に走り出した。

けど、不気味な笑い声が木の上から聞こえて、立ち止まった。


メキメキ――。


枝が、落ちちゃう。


ダメだよ、お父さん。


離れなきゃ潰れちゃう。


ドシンッ――。



「……ぉお、おと」


僕はお父さんを目の当たりにして、声が出なかった。

声を出そうとすると、喉がギュギュッと締め付けられて、ゲロを吐いちゃいそうだった。


だから僕は、お父さんに近づいたんだ。


声じゃなく触ろうと思って。

大丈夫だよね?とお父さんの手を握りたかったんだ。


でもどこにも、手がないんだ。


これは指、かな?


ガサガサ――。


またこすれるような音がした。

それも背後から。


ビクリと体が震えて振り返る。

遠くの方に、何か見えるけど、ハッキリしない。


どうしよう。僕は今一人ぼっちだ。


守ってくれるはずのお父さんは枝の下で。


急に恐ろしくなった僕は、枝を飛び越えて地面に伏せた。


そしたら声がしたんだ。


グォォとか、ギャーとか、そういう声じゃない。


ハッキリと人の言葉だった。


「アサルトベアを倒したぞ!」


高い声だった。

アサルトベア倒したなんて、怪しいなと思った。


「……帰りましょう。先程の振動はやはり、まだ殺しきれてないのです。追ってくる前に逃げますぞッ!」


「お、おい放せ!父上に言いつけるぞ、放せ!」


ガサガサ――。


彼らは去っていった。

おじさんの声と、若い男、たぶん僕と同じくらいの子の声だと思う。


二人はどこかへ行ってしまった。


アサルトベアを倒したって、嘘だと思う。


だってお父さんでも、倒せないんでしょ?


ねえ、お父さん。


ねえ、血が無くなっちゃうよ……。



◇◇◇


あのあと僕は、血みどろのまま家に帰り2日、じっとしていた。

呆然と椅子に座っていた僕を、木材を引き取りに来た建材屋さんが見つけなければ、そのまま死んでいただろう。


建材屋さんは、木材の代わりに、僕を引き取ってくれた。

父と懇意にしていたらしく、嫌な顔ひとつせず養ってくれた。


その家には子どもがいなくって、まるで我が子のように大切にしてもらった。


建材屋のおじさん、そしてその奥さんには、頭が上がらない。


だから、ずっとこのままというのは、申し訳なく感じるんだけど、ここ以外に働き口が思い浮かばなかった。

身よりもない僕には、おじさんとおばさんしか頼れる人もいない。


僕は何もできない、ただの穀潰しとして生きていくのだろうか。


悶々とした日々を過ごしていると、おじさんから思わぬ誘いがあった。


「あの林の案内を頼みたいってんだよ。無理なら断っから、正直に答えてくれ」


なんでも、この町の町長が、あの林を視察したいらしく、案内人を探しているという。

それでおじさんに話が回ってきたらしいんだけど。


おじさんは、ただの建材屋さんで、僕の家とこの家との往復路しか知らない。


あの林は、父の仕事場だったから。

案内できるのは、父と僕ぐらいしかいない。


「5年も前のことだから、さすがに覚えてねえだろ?誰も手入れしちゃあいねえしよお。どうする?」


とても気を使っているおじさんには申し訳ないけど、僕の心は決まっていた。


僕はおじさんに引き取られてから5年間、欠かさず行っていた日課がある。


消えてしまった父の遺体の捜索だ。


あの日、僕を見つけたおじさんは、かなりの大所帯で、林に入り父の遺体を回収しに行ってくれたんだ。


アサルトベアがいるかもしれないから、仲間を募って林に向かった。冒険者も雇っていたと思う。


そして数時間後には、彼らが戻ってきて言った。


「なかった」


血のついた大きな枝はあったし、血溜まりのようなものもあったという。


でもなかった。

父の遺体だけは。


当時は僕も混乱していて、遺体だとか、血だとか、全部か恐ろしくて、ただぼうっと話を聞いていた。

それを怒っていると勘違いしたのか、とある冒険者が、これ以上捜索できないわけを話してくれた。


「切り落とされた枝に、爪痕が残ってたんだ。一度見たことがあるから間違いない、あれはアサルトベアの爪だ」


冷静さを取り戻し、成長を重ねると、あの時では汲み取れなかった、冒険者の言葉が理解できた。


アサルトベアがいるから、捜索は断念する。

枝の爪痕をみるに、お父さんの遺体は食べられたのだろう。


でも、僕は納得できなくて、5年間探し続けた。

定期的に教会へ行って聖水をもらい、魔物避けを行って。

父の教えを守って、探し続けていたから、あの林は誰よりもよく知っている。


こんな僕が、おじさんの役に立てるんなら、協力するに決まっている。


僕が頷くと、おじさん険しい顔をして、目を覗き込んできた。

本当に大丈夫かと言いたげに。


「……自信が、あんだな。分かったじゃあ、明日頼むな。俺は仕事があって行けねえが、とにかく気をつけろ」


僕はまた頷いた。


◇◇◇


翌朝、全身をただの水で拭き上げて、聖水の染み込ませた布で、さらに拭いた。


本来は肌が露出してる部分だけでいいんだけど、アサルトベアの縄張りなんだから、念には念を入れている。


「じゃあ、行ってくらあ。気いつけろよ?」


おじさんの分厚い手が、僕のほっぺたをペシペシと叩いた。

ちょっと痛いけど、たまにやるんだ。

これで気合が入るだろって言ってさ。


「気をつけるんだよ。なんかあったら、走って逃げるんだよ?」


おばさんも心配しているようだ。

僕が頷いてみせると、おばさんは困ったように笑い、小さな瓶を手に握らせた。


それは、聖水だった。


「……教会からもらってきたよ。魔物避けになるっていうから、もしもの時は使うんだよ」


もう、使ってるんだけどなあ。


内心ではそう思いつつ、おばさんの優しさをありがたく受け取った。


今思えば、ちょっと慢心してたかもしれない。


5年間通い続けた林だからって、今日が最後の日にならないとも限らない。


……本当に慢心かな?


自分でも漠然としている心を、しっかりと引き締め直して、僕は林へと向かった。


◇◇◇


「ん?お前か、案内人というのは」


林道で待ち構えていたのは、弓を背負った少年だった。容姿から察するに、年齢は僕と違わないと思う。


その隣には、剣を持ったおじさんが立っているけれど、この人が町長なはずもないし。


僕の胡乱な目に、その少年は顔をしかめた。


「父上の代わりに来たのだ。早く案内しろ」


そう言われて睨まれると、僕も頷くことしかできないわけで。

先頭に立って、早速林へと踏み入った。


後ろをついてくる彼は、あまり良い人物ではなかった。

伸び切った下草に、舌打ちをしては、別の道はないのかと聞いてくるし、ションベンがしたいだの、休憩したいだの、とにかく注文と文句が多かった。


案内しろと言われてるので、人が入れる場所を歩いているのだけど、視察になってるんだろうか。


そんな疑問を抱きつつ、僕たちはとある場所にやってきた。


足繁く通ったせいか、すっかり踏みならされていて、骨でもいいから残ってないかと、這いつくばったせいか、下草も周囲より低くなっている場所だ。


忘れもしない。


父が命を落とした場所。


僕にとっては、意味のある場所ではあるけれど、林の中の一部でしかない。

視察中の彼には、なんの興味も湧かないだろうなと思い、さっさと通り過ぎようとしたら、なぜか彼は足を止めた。


「ああ、ここだな、間違いない」


言葉の意味がわからず、僕は思わず振り返った。

すると彼は、饒舌に語りだしたのだ。


彼の中の、武勇伝を。


「あの木……いや、これだったか?アサルトベアが木登りをしていてな、俺が撃ち落としてやったんだ。この弓じゃないぞ?もっと小ぶりの、おもちゃみたいな弓で、背中をぐさりだ。たしか……5年前だったな」


心臓がバクバクと脈打った。

あの日握りしめた指のように、スゥッと指先が冷たくなっていく。


「覚えているだろう?お前の慌てようといったら、今になれば面白いものだ」


「……あのあとお父上に言いつけて、あなたが怒られてましたけどね」


「ハハハ。いい思い出だなあ」


……いい思い出か。


そうか、コイツらにはいい思い出なのか。


アサルトベアを駆除してやったと、武勇伝にしているのか。


あの時こんな事があってなと、面白おかしく場を盛り上げるだけの、小話でしかないのか。


「ん?なんだ、その目つきは」


ソイツは、僕の目つきに文句があるようだった。


あまりにも傲慢な態度に、僕のかじかんだ指がブルブルと震えた。

全身が震え、これまでに感じたことのない早鐘を打っている。


怒り、なんてものじゃない。

骨の髄から、憎しみが染み出して……今にも飛びかかろうかとした瞬間だった。


ガサガサ――。


背後から、草を踏みしめる音がした。


そして、眼前の仇敵から生気が消えていった。

隣の護衛の顔からも、色が失われていく。


僕よりも後ろに目を向けて、表情というものを忘れたような面持ちだった。


ドドドッ――。


地面からの振動が、全身を揺らす。

けたたましい雑音が、明確な足音になり、ようやく僕は振り返った。


唾液を飛ばしながら、血走った目で駆けてくるそれに、僕は目を奪われた。


分厚く広く獰猛な体躯、身体からあふれる死の匂い、鼻息荒く、僕たちに飛び掛かろうとする脅威。


「ア、アサルトベア……」


彼の声は震えていた。

アサルトベアを倒したはずの男の、か細い悲鳴である。


ガァァァァァッ!


唸りを上げて、僕たち目掛けて走ってくる。


「お、おい!案内人!なんとかしろ!」


僕はくるりと反転し、彼の顔をまじまじと見つめた。


きっとこれが最後になるから。


彼の視線は右往左往して、役に立ちそうもない僕よりも、その奥のアサルトベアに向けられた。

そして、隣では護衛らしく剣を抜くけれど、あまりにもくすんで見える。


そんなんじゃ、あれは倒せない。


僕はポッケの奥に指を這わせ、おばさんからもらった聖水を取り出した。


そして、彼らに見せつけるように、コルクを抜いて頭からかぶった。


「な!?そ、それは聖水だろう、俺たちの分は」


あるわけないだろう。


ドドドッ――。


迫りくる振動は凄まじく、僕の脳みそまで揺らすほどだった。


そして、ダンッと大きく揺れたと思えば、空が陰る。

あんぐりと口を開けて尻餅をつく少年と、震えながら剣を握りしめる、護衛のおじさん。

ふたりとも空を見て、ただ呆然としていた。


かつての僕のように。


「た、だすげでぐれっ!」

「ぅわぁぁぁぁあっ!」


僕は、踵を返して林を歩いた。


大丈夫、僕はこの林をよく知ってるんだ。


ここからでも、おじさんたちの家に帰れる。


断末魔と水を啜る音がするけれど、ここは僕と父の思い出なんだ。


必ず、殺しに行くよ。


僕は必ず、お前を殺す。



仇敵まで食い散らかすお前を、必ず殺してやる。


そして僕は、お墓を建てるんだ。


全部まとめて、この林に埋めてあげるから。


「父さん、待っててね」

もっとさらっとザマァする予定だった。

なんか憎しみの果にイカれた。

なぜなんだろう。

すみません。なんかすみません。


最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。

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お手数だとは思いますが、よろしくお願いします!


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