2日目
【2日目】
8月20日、大雨による全講義の先送りで大学は休みになった。
2日目に期待した私が馬鹿だったと優恵は自分を責める。責めても変わるのは気持ちだけで環境が変わらないことを悟ると広い自室の隅で小説を読み始めた。
優恵は昔から小説が好きだった。自身には体験できない彼ら彼女らの物語を追体験しているようで、あまり外に出ない優恵にとって全てが鮮やかに見えた。特に悲劇的な終わりを迎える小説に目を惹かれていた。
『信頼している人に、特に主人公とかに裏切られた友人とかの小説はかなり存在するけど、実際にそんなことがあったら人はどんな反応をするんだろう……ね?』
優恵は虚空に向かって語りかけていた。
1時間だった頃、魁斗から連絡が来た。
我に返った優恵は急いで内容をのぞき込む。
「雨、大丈夫だった?明日は休講とか関係なく休みだったと思うけど、暇だったら遊びに行かない?」
『唐突ですね、暇ですよ。』
「ありがとう〜、じゃあ町外れにある廃ホテル来てもらって良い?」
『廃ホテルですか…?私はあまり怖いものが得意では無いのですが。』
「別に怖いことしないから大丈夫よ笑笑
それじゃあまたあしたね」
優恵は携帯を机に置き、布団へ倒れ込んだ。
枕に顔を押し当て叫んでいる。デートだ、場所がどうであれこれはデートであると心の叫びを枕へぶつけている。
3時間叫んだ後、優恵は疲れて眠りへ落ちた。
21時過ぎ。雨も上がり涼しくなった町を魁斗は歩いている。周りに誰もいないことが反響する靴の音色から伝わる。
夜は好きだ。明るさで脳が焼けて思考力が低下している時間より、まるで自分しかいないと錯覚するほどに静かな夜が好きだ。
点々と散らばる星たちを眺めながら街灯が見えなくなるまで歩き続けた。
「いよいよ明日だな…」
握りこんだ手に爪の跡が残る。それすらも気付かない夜空の下で意気込んだ魁斗。
どこか切なさを感じる目は無数に広がる影を写していた。
【終わり】