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0日目

”令和6年の夏、少年少女が暮らす田舎での3日間を描いた青春ミステリー。 日常が変貌を遂げる時、あなたはその衝撃に耐えられるか―――――。”

【0日目】


炎天下。暑い夏が続く令和6年8月18日、竪元優恵は大学をサボって空調のよく効く図書館で心理学の勉強をするフリをしている。

ここは人や機械に溢れた都会ではなく、有名な観光地が多い町でもなく、何の変哲もない、代わり映えのない日常が延々と続く田舎である。住宅地などはなく、ぽつんと家が疎らに並んであるごく普通の田舎だ。

そんな田舎町から少し離れた図書館に優恵は友人と涼みに来ていた。


「あ〜、大学サボっちゃったよ〜」


そう呟く彼は雨宮魁斗。

魁斗は優恵の同級生で、同じ学部の2年だ。彼らが出会ったのは高校3年の夏の終わりだった。夏も終盤に差しかかる中、最後の足掻きのように暑い日だった。

影もないバス停で2人は初めて言葉を交わした。


「今日は暑いね〜」


優恵は黙っていた。


「無視は酷くない?」


『・・・』


「まぁいいや。

はぁ、こんなに暑いのにバスが全然来ないね」


『そうですね』


「おっ!やっと喋った!」


魁斗は優恵のふてぶてしい態度を他所に気兼ねなく話し始めた。


「夏ももう終わるって言うのになんでこんなに本気出してくるかなぁ」


『なんででしょうね』


「まぁ分かるわけもないか、考えないようにしよ」


そう言うと魁斗は空を見上げ雲ひとつない場所に手を伸ばした。

蝉の鳴き声、木々のざわめき、土上の熱気が陽炎のように揺れている。

空気の揺らぎを見ている優恵の視界に、小さな黒いものが映りこんだ。

なんだろう、と気になり焦点を合わす。

猫だ。まだ小さな、黒い猫。

暑さにやられたのか、フラフラとした動きで今にも倒れそうなそいつは草の影に入ろうと必死に歩いている。

すると、魁斗が口を開いた。


「あ、来た」


呟く魁斗の目線に向くと、バスが来た。










〘 ミ"ャッ〙
















―――――轢いた。












とても乾いた音だった。

音と同時に流れ出す液体に私は目を惹かれた。とても綺麗な色だった。

それらに見蕩れていると、


「子猫、轢かれちゃったね」


と悲しげに魁斗は言葉をこぼす。


「今日は、歩いて帰ろうかな。

君はどうする?」


『私も、そうします』


その日は、ジリッとした夏の暑さを感じない涼しい日になった。


【終わり】

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