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兄の記憶

「ほら、俺の絵良いだろ?」


兄のハウィーは輝く弟の目によく映るようによく晴れた空にその絵を掲げた。


「ピカソの絵が一番上手いね」

兄のことをピカソと慕う。


兄の個性的なその絵は、なかなか評価されないからだ。

弟の名前はゼイン。

とても優秀だったゼインは、兄の絵や話を聞いて育ち、日々とめどなく成長していた。

その記憶力ときたら、家族皆が驚嘆するほどだった。


「今度絵のコンテストがあるだろ、お前も出してみろよ、ピカソの弟だ!って」

「お兄ちゃんが出せば優勝だよ」


近所の高校は八月に絵のコンクールがある。

そこで優勝するとすごい有名になる証なんだそうだ。


「このお兄ちゃんの絵はどんな絵なの?」

「"Love is forever"愛は永遠って意味だ」


ハート型の地球の絵だ。

見れば見るほど良い絵のような、そんな魅力の絵だ。


「素敵だね!有名になるね」

「いや、俺はいいよ。」


ハウィーは絵を馬鹿にされた思い出があった。


「ふーん、僕には良い絵にしか見えないけどなぁ」


明日はゼインがやっと風邪明けで学校に行く日だから、また帰ったら絵をお互い描こうと約束していた。

いつも兄弟で絵を描く庭は、その日も希望や夢を与えてくれていた。


朝、目覚ましがなぜか鳴らず、寝ぼけながら、ハウィーは

「なんで起こさなかったの?学校始まってるよね?ゼインは学校なの?」


父と母はリビングで新聞や雑誌に耽っていた。

ハウィーに目をやると父と母は

「ゼイン?」

「学校はずっと休校よ」


「ゼインはどこ?」


両親はハウィーがおかしくなったと思ったのか、頭を撫でた。

「愛してるわ、たった一人の私の息子…

ハウィー」


ゾッとして母親を見た。

いつも通りの母の顔色に、自らを疑った。


ハウィーは夢を見ていたのだろうか。

見てみると弟の遊具も服も、ベッドすら無いではないか。

思えば、夢だったことのように思えた。

僕の絵をあんなに褒めてくれる、出来の良い弟…

ゼイン…


学校へ行ってゼインの話をした。

クラスメイトも誰もゼインを知らなかった。

ゼインは居なかった。

僕の記憶の中にしか…


隣の高校で絵のコンクールがあった。

優勝したのはマットという高校生の絵だった。素敵な絵だった。


「僕にもその才能を分けてほしいよ…」



10年経ち、ハウィーも高校生になった。


「お前の高校のマットさんみたいに有名になってくれりゃいいけど、お前の絵じゃダメだな」

父親が葉巻の匂いを撒き散らしながら口酸っぱく罵った。

マットは有名になるどころか、俳優や歌手、モデルなど様々な分野で活躍していた。


「次回作が待望されてるらしいわよ」

「でもこの前のインタビュー、自信なさげだったな、才能も勢いだな。芸術は情熱だ!」


(何が情熱だ…)


"ピカソの絵が一番上手いね"


その言葉がなぜか心で再び響いた。


(ゼイン…)


高校の入学式、今や有名人のマットが壇上に上がった。

生徒や父兄、教員、皆の目線が集まった。


「このマット、入学式久しく、光栄です。

またお呼びになる時はぜひ。」

短く、あっさりした挨拶。


「彼は才能の塊だ」

「芸術家って感じだわ」


口を揃えて賛美する光景に、ハウィーは慣れっこだった。


明日からの登校には両親から新しいバッグを貰える。

何日も前からその話で夫婦は持ちきりだったが、なんなんだろう。


次の日の朝、目覚ましが鳴った。

目覚まし時計を止めて、しばらく目を閉じていた。

しかし母親の高い声がハウィーを無理やり起こした。


「ほら、これ開けてごらん」


「ハイアートのバッグ!ありがとう!最高だよ」


「10年前のモデルさ。10年前にこれを買って、この高校にピッタリだと思ったんだよ。」

と父。


その日の高校は友達にも恵まれ、最高に楽しい日で終わるはずだった。


家に帰りバッグを整理するハウィー。


「10年…大人になるのもあっという間なんだろうなぁ」


教科書を出して本棚へ移していると、何か手紙のような紙切れが引っ掛かった。


その紙を見るまでは幸せだったんだ。

本当の幸せなのかは置いておいて。


"僕の絵が無くなっちゃった。

ピカソの絵がやっぱりナンバーワンだね"


これは日記?

そうだ、日記だ。

そう…

ゼインの日記…

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