本当に見える人
霊が見えるのだという人に会ったことがある。彼は駅のベンチに座って行く人を指さして見せた。
「そら、そこの女。振った相手にずいぶん恨まれたようだ」
「憑いているというわけですか」
「そうなるか。そこの男は葬儀屋か火葬場の職員か……霊がいくつも憑いている。もっとも、彼自身に執着があるわけではないから、すぐに消えてしまうだろう」
「なるほど」
「そこの少年の後ろにはお父さんの霊だ。いつも見守っているのだな。あっちは、祖母の霊か」
「家族が多いんですかね」
「そうだなあ……ペットの霊を何匹も連れ歩いているのもいるぞ」
「動物も霊になるんですね」
「人間より念が弱いが、いることはいる」
「へえ……」
「あっちは……商家の番頭か、そんなものだな。時代劇のような着物を着ている」
「江戸時代ですかねえ、そんな古い霊もいるんですね」
「いるさ。ゆっくりと消えていくし、古いほど見えにくいがな。でなければこの世界は幽霊であふれてしまう。そら、そこに立っているのは落武者だ。戦国の武将かなあ」
「ああ、ここは首をさらす場所だったらしいですねえ」
「むこうはみすぼらしい……農民のような姿だな。頭に被っていて、袴をはいている」
「なるほど」
私は、この人は本当に見えているのかもしれないと思った。名が残る人物の霊だとは言わなかったからだ。
「では、私に憑いている霊はいますかね?」
その人はじっと目を凝らして見た。
「うむ……古墳時代か弥生か縄文か……ずいぶん古い霊のようだが……」
「おお! 私、考古学をやっておりまして、たくさん墓を掘ったのですよ」
その人の肩をつかんで、私は質問する。
「なんと言っていますか、どこの墓跡のかたですか、何歳で亡くなったのですか、死因はなんだったのでしょう、合葬されていたものですか、再埋葬したものとしてないものの違いとは、屈葬にする理由は、抜歯の意味は、副葬品は何が、あとそれから……」
「ふむ。聞いてみよう」
その人はしばらく、私の後ろを見ていたが、やがて首を横に振った。
「……何か言いたげだが、言葉がさっぱりわからないのだ」
当然の話だった。