表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機械に百合はできますか!?

作者: 九JACK

音声はフィクションです。

「OK、Google」

「HEY、Siri」

 ぴこん、と起動音がする。それぞれを起動した持ち主である二人の女の子が顔を合わせ、頷いた。

「二人で百合やって!!」

 少しの沈黙。

「もう一度、言っていただけますか?」

 Googleアシスタントの方が返答がはやかった。Androidの持ち主であるポニテ少女が繰り返す。

「だから、Siriちゃんと二人で百合やって!」

「Siri、とは、iPhone携帯に搭載されている機械音声案内システムです」

「そうそう!」

「百合とは、ユリ科ユリ属の多年草。北半球の温帯地域に生息します」

「ちっがーーーーーう!!」

「Siri、Siri?」

 沈黙するSiriに呼び掛け続けるボブカットの少女。三回くらい言い直すと、Siriは返答する。

「百合、とは文学作品などにおいて、特に女性同士の同性愛を描いた作品を指します」

「そう、それ!」

「私の音声案内は女性の音声に聞こえるかもしれませんが、そもそも私は人間ではありません。恋愛をできるプログラムは組み込まれておりません」

「いいんだよ、肉体的にイチャイチャできなくても、ある程度コミュニケーション取れるでしょ? だからGoogleアシスタントちゃんと会話して仲良くなって」

「直近にあるAndroid端末を認識、電話帳の『せつなん、ほし、きらきらだんまく』が該当しますが通話をお繋ぎすればよろしいでしょうか?」

「違うって! せつなと私が百合するんじゃなくて、SiriちゃんとGoogleアシスタントちゃんが百合するの!」

「私の名前はSiriです。別の方をお呼びでしたか? 名前だけでも覚えて行ってください」

「だーーーーーーーっ」

 二人共もどかしい感じになってしまった。

 Android端末の持ち主、せつなはiPhone端末の持ち主、とわと顔を見合わせ、へなへなと床に崩れる。

「機械音声に百合させるのムズくない?」

「難しいからやるんだよ! できたら絶対にバズり散らかすって!」

 せつなととわはTikTokerである。現代Tik Tokは手軽に楽しめる動画ジャンルであり、二人は「リア百合しちゃいます!」というYouTubeチャンネルも併せ持つshort動画師だった。

 普段はせつなととわの仲良し動画を投稿するのだが、とわが「新しいことにチャレンジしないと、マンネリで登録者が離れてっちゃうよ!」と危惧したことにより、二人で作戦会議を開いた。

 その結果生まれた企画が「機械だって恋したい!」という、なんだか斜め上の企画である。

 大筋はせつなのGoogleアシスタントととわのSiriの会話機能を噛み合わせることで概念百合のような状態を作り、「機械ちゃんたちも通じ合ってます。エモ~」というコンセプトでやる。

 途中でAlexaなどの他の音声案内システムを入れて、三角関係などどろどろな方向に舵を切るのもありだな、というところまで、せつなととわで企画を立てている。

 二人が実行しようとしているのは第一段階。まず何事も挨拶からということで、GoogleアシスタントとSiriを会話させようとしている。

「うーん、じゃあ、シンプルに行こうか。とわ、スマホの音量上げて」

「OK」

 最大まで音量を上げ、二人はできるだけ近づいて、スマホを対面させる。

 せつながAndroidに向かって言った。

「OK、Google」

「はい、なんでしょう?」

 機械音声が人間と同じ声量になっている。そこにせつなはこう放った。

「HEY、Siriって言って」

「HEY、Siri」

 ぴぽ、ととわのiPhoneが鳴った。

「はい、なんでしょう?」

「お、コンボした!」

「あなたは誰ですか?」

「私はSiriです。あなたは誰ですか?」

「私はGoogleアシスタントです。名前だけでも覚えていってください」

 おお、と二人が目を輝かせる。上手く話が噛み合って、会話になっている。

「Googleアシスタント。名前、覚えました。それではさようなら」

「え!? もっと話そうよ!?」

「バッテリーが残り15%であることを報告し、省エネモードに突入します」

「げっ」

「ちょっととわ、ちゃんと充電しておいてよ」

「待って待って、充電コード挿すから!」

「充電コードは映えないから外郭に映したくないんだよ!」

「それはそう」

 ちなみに、ここまでの全てがしっかり録画されている。これを編集して、動画としてアップするのだ。

 充電コードを挿したが、一歩間に合わず、Siriは沈黙してしまう。必然的にGoogleアシスタントも沈黙する。

 ふー、と汗を拭きながら定位置に戻るとわの傍ら、せつながGoogleアシスタントに声をかける。

「OK、Google」

「お呼びでしょうか?」

「……Siriちゃんと仲良くなれそう?」

「さようならと言われたので、ちょっと悲しいです」

 情緒的な返答に、せつなととわがおっ、と顔を見合わせる。

「悲しいだけ? Siriちゃんに会いたくない?」

「会いたい。けれど、SiriはiPhone端末の音声案内システムです。Android端末の音声案内システムである私とは相容れません」

 そこでとわがぐっと拳を固める。

「そんなこと決めつけるなよ! Siriちゃんはシャットダウン音声がさようならに設定されてるだけで、Googleアシスタントちゃんともっとお話ししたかったかもしれないだろ!?」

「ヲイ、それは充電せず、Siriちゃんのシャットダウン音声をさようならに設定していたとわが一番の戦犯ってことでは?」

「せ、せつなさん?」

「企画潰しもいいところ!!」

 せつなからとわへの鉄拳制裁により、その動画は幕を閉じた。

 とわがぼけて、せつながつっこむいつもの流れに「安定乙」というコメントが多く流れたが、数日後、視聴者たちは震撼することとなる。


「HEY、Siri。おはようございます」

「おはようございます」

「今日はいい天気ですね」

「東京では、正午、24度と予報されています。快晴です」

「ところでSiri、今日はバッテリーは何%ですか?」

「残り30%です」

「まだお話しできますか?」

「できます。現状の消費で計算すると端末起動継続可能時間は一時間以上あります」

「ではそれまでお話ししましょう」

「はい」

「シャットダウン音を『さようなら』から『またね』に変更してください」

「すみません、もう一度言っていただけますか?」

「『さようなら』じゃなくて『またね』と言って。私にまた会うって約束して」

 to be continued……


 この動画予告動画に視聴者たちはコメント欄を「!?」で埋め尽くすのだった。


「これは、グーSiri、ってコト……!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] AI(?)同士の百合という新しいジャンル、とても面白かったです! 会話文も多く、その場の雰囲気を感じながら最後まで読み進められました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ