表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 風守羊

ぐーっと背伸びをする。お母さんが朝ごはんを作っていた時だ。


ほんとはまだ眠いけれど朝ごはんをつくる匂いに我慢できなかった。


お母さんが白いまんまるをパカっと割った。そこから黄色いまんまるが落ちてきた。


「ママ!見せて見せて!」


するとお母さんは私と同じ目線になるようしゃがんで、ボウルの中身を見せてくれた。


ボウルの中には黄色くてまあるい小さなお月様が3つも浮かんでいる。朝なのにお月様が浮かんでいて変な感じがした。


「ママこれで何を作るの⁇」


「卵焼きよ。お父さんとくーちゃんが好きな卵焼き。」


お月様から卵焼きができるんだってこの時初めて知った。


そしてお母さんは持っていた菜箸で3つのお月様を混ぜ始めた。すると、その小さなお月様たちは形を変えて1つの大きなお月様になった。


「おー!」


私が驚いていると


「くーちゃんもやってみる?」


私は表情がパァっと明るくなり


「やってみる!」


と答えた。


お月様をぐるぐるするのはとても楽しかった。お母さんが他のおかずを作っている間、私はずっとお月様をぐるぐるし続けていた。


そして出来上がった卵焼きは、それまでなんとなく食べていた卵焼きよりもずっと美味しかった。卵焼きが大好きになった。


それから毎朝お母さんとお月様をぐるぐるするようになった。


喧嘩した次の日だって、辛いことを引きずっていた日だって、風邪ひいたときでさえもお母さんと一緒にお月様をぐるぐるすれば少しだけ気持ちが晴れた。


高校受験の当日、私はいつものルーティンでお月様をぐるぐるするために起きるとボウルの中にはお月様が10個も浮かんでいた。


「これ、どうしたのお母さん?」


お母さんはニコニコしながら


「縁起があるかは知らないけど、今日くらいいいじゃない。」


それだけ言って、お弁当を作り続けた。


それから何か大事な日に限って、お母さんはお月様を10個も使った卵焼きを作ってくれた。


大学受験の日、第一志望の企業の最終面接の日、家から出て一人暮らしを始める日。


それは私が決めるんじゃなくて、お母さんが決めた日だった。


今私には家族がいる。お母さんは数年前に鬼籍に入った。


私がいつも通り朝ごはんとお弁当を作っていると娘が


「ママこれなぁに?」


私はあの日を思い出しながら、お母さんがしてくれたのと同じようにボウルの中身を見せる。


娘はお月様みたいだね。と言った。


私と似たんだなと思ってクスッと笑った。


その日娘はあの日の私と同じように大きなお月様を知った。


10個のお月様を使った卵焼きをこの子と作るのが楽しみになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ