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34.ああ。ここにある材料は

『ああ。ここにある材料は好きに使ってくれて構わない。ただし、食料を無駄にしたくはない。その日食べられる量以上を作るのは、私がいる日にしてほしい』

「分かったわ」


 作り過ぎて余っても、リングにしまっておけば傷むことはない。

 ポッタお婆ちゃんは私が持ち込んだ材料を吟味してから、ディリレさんに指示を出す。


 薄切りベーコンをカリッと焼いて、レタスに似た葉物野菜と共にパンケーキの上へ。続いてコケトリスの卵をフライパンの上でぱかりと割った。

 焼き上がった目玉焼きは、ベーコンの上に置かれる。ベーコンエッグパンケーキの完成だ。

 続いてポッタお婆ちゃんが選んだのは、セカードの町で商人に薦められて買った謎のカプセル。そのまま茹でて、ボウルに移して潰す。とろりと溶け出す黄色いクリームに、黒糖を加えて混ぜてからパンケーキに掛けた。見た目はカスタードクリームを掛けたパンケーキだな。


 餡子を含めた三種類。それぞれを三皿ずつ用意したところで、食堂へ運ぶ。空いた部屋に大きめの机と人数分の椅子を置いて、食堂みたいにしているのだ。

 皆で少しずつ食べるのかと思ったら、ガドルとピカーンの席には三種類全ての皿が並ぶ。ポル君とディリレさん、ポッタお婆ちゃんは一皿ずつ。


『遠慮しなくても構わないぞ?』

「一皿でも多いくらいですから」


 胃の大きさの問題だった。女性と子供だから食が細いのか、それとも今まであまり食べられなかったから、食が細くなっているのか。後者なら、徐々に食べられるようになってほしいな。

 運び終えたところで、ポル君が窓辺に駆け寄る。


「ガドルお兄ちゃん、ピカーンお兄ちゃん。出来たよー。来てー」


 ポル君の声を聞いて、鍛錬を斬り上げたガドルとピカーンが上がってきた。全員揃ったら試食会の始まりだ。

 甘いものが苦手なガドルはベーコンエッグパンケーキだけを残して、朱豆の餡子と謎クリーム掛けはポル君の前に移動する。甘い二種類を目の前にして、目を輝かせるポル君。だけどすぐにディリレさんを窺う。


「母さん、ガドルお兄ちゃんが甘いの二つくれた。貰ってもいい?」


 ちょっと驚いた顔をしたディリレさんは、顔を上げてガドルを探す。


「甘いものは苦手だ。食べてもらえれば助かる」

「ありがとうございます」


 ガドルの言葉に、ディリレさんは柔らかく微笑んだ。

 白い虎尻尾が揺れているぞ、ガドル。


「わー」


 いつもより高い声が出てしまい、すかさずガドルに指で根元を突かれてしまった。

 照れるな相棒。春が来たなら応援するぞ。


「うむ! 甘いパンケーキにベーコンエッグの旨みと脂が絡んだ絶妙のハーモニー。これなら貴族の朝食としても使えそうだ。ディリレ殿は料理の才能がある!」

「まあ。ピカーンさんはお上手ね」


 ディリレさんがふふっと笑い、ポッタお婆ちゃんもくすりと笑う。


「おっと、冗談ではないさ。僕はこう見えて貴族出身! 子供の頃にこのパンケーキと出会っていたら、ディリレ殿とポッタ殿を当家のコックとして招いただろう!」

「あらあら」


 くすくすと笑う女性二人は本気にしていないようだ。

 だけどピカーンが貴族の出身というのは、本当なのではないかと思う。服のセンスとか、振る舞いとか、ちょっとしたところに洗練した雰囲気を感じられる。

 だからといって、特別扱いするつもりはないけれど。貴族だろうと平民だろうと、私の店で働くなら平等に扱わせてもらう。


「ガドルさんはどうかしら?」


 無言で食べ終えて皿を見つめているガドルに、ディリレさんが話を振る。


「……美味い。だが冒険者や労働者は、一皿では足りないだろう」


 ガドルが足りていないものな。

 ポル君がフォークを止め、ディリレさんとポッタお婆ちゃんが困った顔をした。自分たちだけお腹一杯食べてしまうことへの罪悪感かな。

 三人の表情を見て、ガドルの眉間にしわが寄る。余計なことを言ってしまったと気付いて反省しているのだろう。

 皆、互いの気持ちを思いやれるいい人たちばかりだ。素敵なパンケーキ屋になりそうだな。 


『今日は試食だからな。店に出すときは量も調節するさ。ガドルは美味しかったから、もっと食べたいと思って皿を見ていたのだろう?』

「あ、ああ……」


 ガドルが恥ずかしそうに頬を掻く。


「まあ」


 ディリレさんとポッタお婆ちゃんが表情を和らげ、何やら囁き交わす。それからポッタお婆ちゃんがベーコンエッグパンケーキが乗ったお皿を差し出した。


「ガドルさん、こちらもどうぞ。私たちには食べきれそうにありませんから」

「あ、ああ。ありがとう」


 遠慮がちに受け取ったガドルだけれども、尻尾は正直だ。嬉しそうに揺れている。


『ポル君、遠慮なく食べていいぞ? ガドルは甘いものが苦手だからな。しっかり食べて大きくなれ』


 手が止まっていたポル君にも声を掛ける。ポル君は大人たちの表情を窺ってから、ぎこちなくパンケーキを食べ始めた。でも口に運ぶに従って、徐々に強張っていた表情が緩んでいく。


「僕、卵かけパンケーキが好き! でもこっちの餡子も美味しいよ」

「そうね。美味しいわね」

「わー!」


 気を使ってくれたのか、ポル君とディリレさんが、餡子乗せパンケーキも褒めてくれた。

 ポル君は優しい子だな。そのまま素直に育っておくれ。

 しかし、やはり謎クリームは卵だったのか。形状から、鳥類の卵ではないだろう。爬虫類や両生類、魚類もたぶん違うな。


「……。わー……」


 分かっている。現実逃避をしただけだ。

 この世界の虫、大きいものな。草原蟻ちゃんもだけど、蜘蛛とか蚊も、現実世界では有り得ない大きさだった。

 メニューに加えるのなら、一筆書いておいたほうがいいな。この世界の住人は大丈夫だろうけれど、異界の旅人の中には嫌がる人がいるかもしれないから。美味しいとは聞くのだけれどもね。


「にんじんさん、もしよければ、餡子の味付けを少し変えてもいいかしら?」


 ポル君と美味しそうに食べさせあいこしているディリレさんの隣で、ポッタお婆ちゃんが控えめに提案。


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