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24.さてログイン

 さてログイン。するとガドルが聖騎士たちと戦っていた。ここはファードの神殿にある鍛錬場だな。

 昨夜は宿に泊まったけれど、私が起きるまでの時間つぶしに神殿の鍛練場にお邪魔しているみたいだ。神樹の苗君の隣から這い出して、ガドルに声をかける。


「わー」

「起きたか、にんじん。商業ギルドへ行っておくか?」

「わー」


 神樹の苗君をリングにしまいながら葉肯する。

 パンケーキ屋についてはのんびり考えていたけれど、ポル君たちに早く落ち着いて暮らせる場所を用意してあげたい。神殿はスラムに比べればましとはいえ、大勢の人と倉庫で寝泊まりでは心身が休まらないだろう。

 さっそくガドルと共に商業ギルドへ。先方の都合もあるので、今日決められるとは限らない。でもいつ見学できるかだけでも聞いておけば、引っ越しが早まるはずだ。

 受付に声をかけると、家主さんがいつでもいいと言ってくれたと教えてくれた。


『ならば、さっそくお願いできる出来るだろうか?』

「承知しました。少々お待ちください」


 ということで、職員さんに物件まで連れて行ってもらう。

 商業ギルドを出て、ファードの町を進む。なんだか見慣れた景色だな。

 そう思ったのも当然だった。前方に薬師ギルドを発見。そして案内してくれた職員さんが、薬師ギルドに入っていく。


「わー?」


 どういうこと?

 ガドルと揃って困惑していると、見慣れたお顔のお爺ちゃんが現れた。薬師ギルドで受付をしているお爺ちゃんである。


「おや? マンドラゴラと、獣人の冒険者さんだねえ。君たちがうちの物件を借りるのかい?」


 私とガドルを見て意外そうな顔。


「わー!」


 そうです。よろしくお願いします。

 ぺこりと葉っぱを下げてご挨拶。


「ちょっと古いけど大丈夫かな? まあ、こちらとしては、借り手が見つかって助かるけどね」


 お爺ちゃんに案内されて進む一向。


「そういえば、まだ名乗っていなかったね? ルルガノフだよ」

「わー!」


 ルルガノフお爺ちゃん、今後ともお世話になります。

 お爺ちゃんが案内してくれたのは、薬師ギルドにほど近い場所にある二階建ての物件。白漆喰の外壁には、蔓性の植物が這っていた。雰囲気は好みだけれども、住むとなると改装とか大変そうだ。

 案の定、鍵を開けて中に入ると、傷みが目立っていた。内装は大幅な修繕が必要だな。


「中は好きに改装してくれて構わないよ? 君なら安心だし」


 嬉しいことを言ってくれるではないか。信頼を裏切らないよう、素敵なパンケーキ屋にするぞ。


「わー!」


 意気込む私。

 こうして店舗探しはあっさり終わった。修繕に時間と費用が掛かりそうだけれども。

 借家であっても、家の修繕などは住む人が行うのがこの国では一般的らしい。代わりに借りた時の状態に戻す必要はないという。傷付けたり汚したりした場合は、修繕費が必要みたいだけどね。


 商業ギルドで紹介してもらった職人さんに、物件の利用方法を説明して内装の相談。ディリレさんとポッタお婆ちゃんの体についても配慮してもらえるようお願いした。バリアフリーだ。

 できれば居住スペースを優先してほしいと伝えたところ、五日ほどで住めるようになるという。

 早さに驚いたけれども、寝起きできる状態にするだけ。炊事場などまで整えるには、もう少し掛かるそうだ。それでも早いのではなかろうか。


『では、よろしくお願いします』

「お任せ下さい」


 打ち合わせが終わり手付金を支払ったところで、ワールドアナウンスが流れた。


≪店舗機能が解放されました。これより一定条件を達成することで、店舗を所有することができます≫


 どうやら誰かが店を持つことで、異界の旅人にも店舗を持てるようになる設定だったらしい。手続きや審査とかが簡略化されるのだろうか。

 しかし他のプレイヤーはまだ店舗を持っていなかったのだな。露店を開いている人がいたから、先人がいると思っていたのに。資金が足りないのかな?

 商談がまとまったので、商業ギルドを後にした。その足で神殿に寄る。ポル君たちに、五日後から住居に移れることを伝えると、泣いて喜ばれた。

 早く店も開けるようにしないとな。



・・・



『なあ、ガドル』


 神殿を後にして宿に向かいながら、ガドルに声を掛けた。


「なんだ?」


 ガドルも今日はいい気分なのか、いつもより柔らかな雰囲気を醸し出している。

 今まで根無し草だったのだ。自分たちの家が手に入るって、気分がいいよな。私は根のある草だけれども。


『パンケーキの材料で、自力で手に入れられそうな物はあるだろうか?』


 砂糖も卵も小麦粉も食用油も、お高いのだ。誰でも手を出せるパンケーキを作るためには、材料費を削減するのが手っ取り早いだろう。

 そうして利益が多くなれば、ディリレさんたちに支払う給金を増やせる。雇える人の数だって増やせるかもしれない。社会復帰を目指す人は大勢いるのだ。


「油なら、死霊系迷宮にあったぞ?」

「わ!?」


 初耳だぞ?


「わー? ……わー!」


 分かった! フライだ。フライどもの油だな!


「八層目だな」

「わー……」


 違った。

 八層目はお化けエリアだ。きっと私がログアウトしている間に、ガドルが通過した層だな。私がログアウトしている間はガドルと一緒に行動していても、彼が倒した魔物から得られるアイテムがリングに吸収されることはない。


 油系のお化けというと、化け猫だろうか。猫に似た姿をして、行灯や油壷の油を舐めに来る。

 電気のない時代は灯明皿に油を注ぎ、芯を挿して火を灯していた。油の種類は時代と共に変わるけれど、魚から取った油を使っていた時期がある。

 隙間風に揺れる仄かな灯りの下。美味しそうな魚の匂いに誘われてやってきた猫が、鳴きながら行灯の油を舐めているのだ。お化けと見間違えても無理はない。

 しかし猫に似た魔物を、プレイヤーたちは倒せるのだろうか? 私は遠慮したいな。だが油は欲しい。


「わー」


 悩んでいると、ガドルが苦笑を零す。


「心配しなくても、にんじんが嫌だと思うなら討伐は避けるさ。行くだけ行ってみるか? 急げば部屋が出来るまでに帰ってこられるだろう」


 甘い誘惑だな。

 イセカイ・オンラインのことだ。斜め上の設定で、猫ではなく行灯を倒す仕様かもしれない。皿女は皿女自身ではなく、井戸を破壊して討伐していたからな。

 以前訪れた時に八層目を通過したのは、二日目だったはず。往復で四日から五日か。時間的に調度いい。


『よし、行こう』


 食料を買い込み、死霊系迷宮に潜る準備をして、その日はセカードの宿でログアウト《おやすみなさい》。



・・・


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