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06.しばらくして動き出した

 しばらくして動き出したムッキーリギルド長が、眉間を揉みほぐす。お疲れみたいだ。


『回復薬を飲むか?』

「いや、いい。……マンドラゴラが人語を喋っている? ガドルに懐いている時点で奇妙なマンドラゴラだとは思ったが、異界ってのは本当に何でもありなのだな」


 現実世界に対して、誤解が生じている気がする。

 残念ながら、我々の世界にマンドラゴラは実在しない。人語を操る植物も、今のところは現れていないからな。植物の感情を読み取る装置はあるけどね。

 一部の人たちは、この翻訳機を使って植物自身が採取してもいいと許可した部分だけを食べているらしい。育ち過ぎた外側の葉っぱとか、果肉とか。あと穀類によっては、前年度と同じ量かそれ以上の栽培を条件に許してくれるとかなんとか。

 私も試しに簡易版の植物翻訳機『花ーす』を使ってみたことがある。大木のお爺ちゃんとの交流は癒しだったが、庭の草を毟ろうとして大ブーイングを受けて以来、封印している。

 人間が植物の声を聞けないのには、理由があったのだよ。


 話が逸れた。

 ムッキーリギルド長の言い方から、私以外の異界の旅人に対する印象も含まれていると思われる。

 冒険者ギルドを取りまとめている御方だ。きっと色々とあったのだろう。

 私でも理解に窮する異界の旅人は少なくないからな。中華饅戦隊とか。


「わー……」


 申し訳なさが増してきて、維管束がきりきり痛むぞ。



・・・



 お疲れ気味なムッキーリギルド長に案内されて、ギルド裏の倉庫に移動した。なんだかんだ言っていたけれど、買い取ってくれるらしい。


「ここに出してもらえるか?」


 ムッキーリギルド長の視線は、ガドルのほうに向いている。だが済まぬ。持っているのは私だ。

 とりあえずリングから取り出そうとしたところで、ガドルが待ったをかけてきた。


「わー?」


 どうした?


「悪いが、人払いをしてほしい」


 真面目な顔でムッキーリギルド長を睨むガドル。失礼ではあるまいか。

 そう思ったのだけれども、ムッキーリギルド長は文句を言うことなく頷く。


「気が利かず悪かった。全員、倉庫から出ろ」


 作業していた人たちまでが、指示に従って倉庫から出ていく。荷が一つもないならともかく、倉庫にはたくさんの物がある。中には貴重品だってあるだろう。

 外部の人間だけを倉庫に残すのは不用心ではなかろうか。


「心配するな。俺はAランク冒険者だ。冒険者ギルドからの信頼は一応ある」


 信用問題はクリアしていたみたいだ。


「わー!」


 ガドルの口からこういう言葉が出てくると嬉しいな。

 だが、なぜガドルがギルドの人たちを追い出したのかという疑問は、まだ解消していない。


「わー?」


 問うように見ると、困った子を見る目で返された。解せぬ。


「以前にも言っただろう? お前のリングは滅多に手に入らない貴重な品。人前で無暗に使うなと」

「わー……」


 そういえば、言われていたな。


『だが、異界の旅人は皆持っているぞ? すでに珍しくないのではないか?』


 特に冒険者ギルドには、異界の旅人たちが多く出入りしている。ムッキーリギルド長を始めとした冒険者ギルドの職員たちは、すでに見慣れているのではなかろうか。


「だとしてもだ。人を襲うのは気が引ける者も、マンドラゴラなら遠慮しないだろう」


 ガドルは哀しげに眉根を寄せた。

 彼にとって私は、人と変わらない大切な存在だ。だけど他の人たちにとっては、私はマンドラゴラという植物でしかない。雑草をぷちっと抜くように、私もぷちっとやられてしまうのだろう。


「わー……」


 ちょっと想像してしまって、天井を見上げてしまう。

 ガドルの表情が辛そうに歪む。

 彼が罪悪感を覚える必要なんてないのに。生真面目な奴だ。


『すまない。ガドルや人を責めているわけではない。私も人間の考え方は理解しているからな』


 中身は人間だからな!

 痛ましそうな目を私に向けたガドルが、吹っ切るように首を左右に振った。


「ほら、さっさと出してしまえ。あまり時間をかけると不審がられる」


 しんみりとした空気を払うように、口角を微かに引き上げて急かしてくる。


「わー!」


 了解!

 武器類は自動でリングに収納されていたため、実物を見るのは私も初めて。現実世界では目にすることのない品々がいっぱいだ。どんどん出していく。

 様々な種類の剣や槍。斧に棍棒に、弓やモーニングスター。杖、鉄パイプ、大きな盾、小さな盾、凧……凧? これぞまさしく紙装備。四角い角凧はまだしも、袖凧や奴凧は見た目すら盾とは言えない気がするのだが?

 在庫から察するに、『龍』などの文字が書かれた角凧が通常アイテムみたいだ。武者絵が描かれた角凧はレア。袖凧や奴凧は激レアっぽい。

 格好いいので、幾つか持っておこう。スラムで出会った子供たちにプレゼントして、皆で凧揚げ大会を開くのもいいかもしれない。

 他にも使うかもしれない物や気になるものを少しずつ残しながら、倉庫に出していく。

 初めこそ出てくるアイテムを興味深く見ていた私とガドルだけれども、次第に表情が抜け落ちていった。


「わー……」


 多すぎる……。数も、種類も。

 容赦なく積み上がっていく迷宮の戦利品。

 ほとんどのアイテムがリングの収納限界数を突破していたので、なんとなく想像は付いていたのだ。だけど実際に見ると壮観だな。


「わー……」

「お疲れ様」

「わー」


 全部出し終えてお疲れ気味の私を、ガドルが労ってくれた。

 よく倉庫に納まったものだ。ぎっちぎちだけど。


『まだ回復薬があるのだが、ここに出すと瓶が割れそうな気がする』

「ああ。別室で出したほうがいいだろうな」


 ガドルと意見が一致したので、ムッキーリギルド長を呼ぶ。

 中に入って倉庫内の光景を見た途端、動きが止まったムッキーリギルド長と従業員たち。


「わー……」


 私のせいではないぞ。出していいと許可は貰っていたからな。


「こ、これは……凄まじい量だな」

「わー」


 ようやく解凍されたムッキーリギルド長の言葉に頷いておく。頬が引きつっているけれど、時間が経てば治まるだろう。


「回復薬もあるが、どこへ出す?」


 またしてもガドルが容赦なく追い打ちをかける。

 だが先ほど需要過多になっていると言っていたから、きっと欲しいと思うのだ。


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