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02.私ももそもそと

 私ももそもそと植木鉢の土から這い出て、出かける準備を始めた。

 マンドラゴラは植物のため、食事の代わりに土へ潜り栄養を補給する必要がある。

 ぱくっと食べれば空腹度を満腹にできる人族と違い、マンドラゴラは栄養補給に時間が掛かる。だからプレイ中にしっかり動けるよう、ログアウト中に満たしておくのだ。

 ログアウト中に空腹度が空になって、最悪ゲームオーバーになることもあるからな。


「わー」


 隣に植わっている神樹の苗君を、おはようの挨拶代わりに葉で軽く叩く。

 神殿で貰った神樹の苗君は、緑の葉っぱが艶やかで健康的に育っている。

 神樹の苗という名前だけれども、名前通りに神樹に育つことは稀だと聞いた。私としては、神樹に育たなくても構わない。私だけの木に育つのも嬉しいからな。どちらにしても将来が楽しみな苗である。


「わー」


 元気に大きくなれよ。


「冒険者ギルドに行くか?」


 私と神樹の苗君の交流を眺めていたガドルが、私の二股の根に付いているリングを見ながら尋ねる。

 左根に付けている緑色の石が嵌ったリングは、アイテムを収納することが可能な魔法アイテムだ。プレイヤー全員に与えられているけれども、この世界では貴重な品物らしい。

 以前、地下迷宮に潜った際に魔物を倒して得たアイテムが、リングに収納されたままになっている。使わないアイテムがたくさんあるので、冒険者ギルドに行って売ってしまいたいと昨夜話していたのだ。


『せっかくだから、セカードを見物してからファードの冒険者ギルドに行かないか?』


 ギフトと呼ばれる特殊能力の一つ、『幻聴』を使って人語を喋る。マンドラゴラな私は、人の言葉を話せないのだ。


「セカードか。大蜘蛛のアイテムを手に入れる時に立ち寄ったが、宿と教会にしか行っていなかったな」

「わー」


 プレイヤーが最初に降り立つファードと、ここ王都は、色々な所に出向いていた。でもセカードは、宿に泊まったり神殿に行ったりしただけだ。どんな街だったかあまり記憶にない。

 サースドにも行ったことがないけれど、新しい町に入るためには街道で待ち構えている魔物を倒す必要がある。だけど私は、ゲームだと分かっていても、生き物の命を奪うことに忌諱感を持ってしまう。RPGに向いてないのだな。


「では行くか。西門からセカードに向かう街道は混んでいると聞いたから、回り道になるが北の山を通っていくか?」

「わー!」


 北の山にはタタビマの実や湧水がある。どちらも回復薬【友に捧げるタタビマの薫り】の材料だ。手持ちにあって助かれど困ることはない。

 その日の予定が決まった私たちは、宿を出る。私はガドルの左肩に乗せてもらった。


「わー……」


 意気込んで出発したものの、問題が一つ。ガドルがまとう神鉄製の鎧は、金属製だけによく滑る。

 キャーチャー閣下から頂いたイエアメガエルの着ぐるみを着ていれば、蛙の手足でぴたりとくっ付くことができた。でも迷宮のボス戦で倒された際に、残念ながら失われてしまったのだ。

 マンドラゴラのままだと、常にバランスを取っていないと滑り落ちそうになる。


「手に乗るか?」


 ガドルが気遣わしげに手を差し出した。


「わーわー」


 ありがたい申し出ではあるけれど、葉を左右に振って断る。私にもプライドがあるのだ。

 ならば自力で歩けばいいではないかと言われそうだが、小さなマンドラゴラな私は根冠が遅い。もしかすると、よちよち歩きの幼児にさえ負けるかもしれない。


「わー……。わーっ!」


 いや、断じてそんなことはない。私のほうが速く歩けるはずだ。


「どうした?」


 突然大声を上げた私に、ガドルが丸くした目を向けてくる。白い虎耳がぺたんと潰れているので、煩かったのかもしれないな。 

 獣人だから耳の位置が人間より高いので、耳元で叫んだわけではない。それでも彼にとっては騒音であろう。


「わーわー」


 気にしないでくれ、友よ。


「そうか」


 葉を左右に振ると、ガドルはそれ以上は追求せずに歩く。

 滑りやすいロデオといえども、今は道を歩いているだけ。このくらいは耐えられねば、今後の生活が思いやられる。戦闘が必要となった時に、私を気にしてガドルが怪我をするなどあってはならないからな。


「わー……」


 強がっていたら、滑り落ちた。

 すぐにガドルが掌を差し出してくれたので、地面に落下する事態は防げたけれど。


「やはり手に乗るか?」

「わーわー」

「無理はするな。落ちそうになったらすぐに言え」

「わー」


 気遣ってくれるガドルは、さすがネコ科の獣人。私に伝わる揺れを少なくして歩いてくれた。


『ありがとう。助かるよ』

「気にするな」


 マンドラゴラ姿でもガドルの肩に乗っていられるように、早く慣れてみせるからな。



・・・



 南門から出ると、私は聖水を入れた大瓶を装備した。

 北の山の魔物はガドルにとっては敵ではない。だから私入りの瓶で手がふさがっていても、危険はないのだ。

 以前、神殿でお世話になっていた頃に作った聖水は、地下迷宮でのボス骸骨戦で使い果たした。だけど材料である祈りの泉の水はまだ残っている。

 その内の一部を、聖人参の力を使って聖水に変えておいたのだ。

 聖水のままでも死霊系に対しては絶大な効果を持つ。……嗚呼、絶大過ぎる効果をな。

 だが死霊系の魔物ばかり相手にするわけではない。何か役に立つ薬が作れればと、お試しだ。


 とぷとぷと揺られながら、びゅんびゅんと流れていく景色を観賞する。急ぎの旅ではないのだが、山道を駆け登るガドルの足は速い。

 ちらりと見たら、舌なめずりしていた。


「わー……」


 西門が混んでいるからと言っていたけれど、本当はタタビマの実を収穫したかっただけなのではなかろうか。

 私にとっても必要な素材なので、止める気はないけれど。


 体力や魔力を回復させる薬を何種類か作ったその中で、女神様の加護を貰った【友に捧げるタタビマの薫り】が一番優秀なのだ。ガドルはもちろん、私にとっても。

 だからタタビマの実は幾つあっても大歓迎。回復薬として以外にもガドルが晩酌に使うから、リングの上限まで収納しておきたい

 そういうわけで、ガドルに任せてタタビマの実を採取しまくる。

 充分に採取したところで山を下りた。


久しぶりに投稿したら、なろうさんの仕様が変わっていて困惑中です。

下書き分のストーリーの順番が逆だったりばらばらに表示されるようなので、もし順番を間違って投稿したらごめんなさい。

慣れねば……。


話は変わりまして、多忙につき感想の返信ができなかったり、簡単なものになるかもしれません。

頂いた感想は全てありがたく読ませていただき、執筆のエネルギーにさせていただいています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わー……。わーっ! [気になる点] わー…… [一言] わーわー
[良い点] 人参さんがガドルとかを受け入れられるのは、 ずっとAIちゃんと育って来たからなんですねぇ。 身体が機械とか生身とかの問題じゃなくて、 双方ともが備える、蓄積された情報による『人格』。 そ…
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