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52.凄い人たちだったんだな

『凄い人たちだったんだな』

「ああ。国一番の冒険者だったよ」


 しんみりとした空気を読まずに攻撃を続ける骸骨たちは、全て一撃で沈められていく。


『……ガドル』


 呼びかけると、ガドルの瞳が私を映す。飛びきりキュートなイエアメガエルの御口から、プリティーなオレンジの根元が覗く。


『もし私が命を落としても、嘆いてはくれるな。私は必ず戻ってくる。……そうだな。ファードの神殿で待ち合せるとしよう。――私を信じてくれ』

「縁起でもないことを言うな」

「わー……」


 根元(でこ)を指で突かれた。


 さらにしばらく歩いたけれど、階段は見つからなかった。


「仕方ない。テントで休むか」

「わー」


 コの字型になっている突き当りまで戻る。ようやくテントの出番だ。

 中に入って座るガドルの向かいに下りると、【友に奉げるタタビマの薫り】を差し出した。


「わー!」


 お疲れ様。

 今夜は飲んでくれ。


「ありがとう」

「わー」


 素直に受け取ったガドルは、嬉しそうに蓋を開けて煽る。


「うっ?」


 酔ったらしい。

 自分の荷物に手を伸ばそうとしているが、私が【酔い覚まし】を出すほうが早かった。


「助かる」

「わー」


 いいってことよ。


「……一本目で効いたか。五分五分だとしても、珍しい」


 引きが悪いからな。


『心配せずとも、ガドル用は100%で揃えているぞ?』


 ガドルが動きを止めた。しばらくして、ゆっくりと首をねじり私を見る。


「わー?」


 素知らぬふりで、可愛らしく葉を傾げておく。

 キュートなマンドラゴラに癒されてくれ。

 疲れているであろう友へせっかくサービスしたというのに、返ってきたのは太い溜め息だった。


「あのとき渡したのは、どちらも不用品だったわけか」

『初対面の相手にそこまで親切にするほど、私は善人参ではないからな』


 収納ボックスから食事を取りだす。

 ほかほかのステーキ定食だ。骨は付いていない。蒸した人参とジャガイモが添えてある。


『ちゃんと人参も食べるのだぞ?』

「……」


 ステーキを頬張ろうとしていたガドルが固まった。

 人参が嫌いとは、お子ちゃまめ。

 食事を終えて横たわるガドルから寝息が聞こえてきたのを確認して、私も腐葉土に潜る。

 ……明日ちゃんと起きられるように、AIちゃんに頼んでおこう。




 骸骨エリアに入ってから、半月近く。ようやく三十九層に到達した。もうすぐ骸骨エリアともお別れだ。

 名残惜しくなどない。むしろ清々した気分である。

 骸骨が多すぎた。もう見たくない。

 だけど、もうしばらく辛抱だ。


 目の前を埋め尽くす、骸骨の軍団。ついでに二階建ての家を越えそうな、巨大な骸骨もいた。頭に角があるから、鬼系だろうか?

 ガドルは軍団を蹴散らしながら、鬼らしき骸骨に攻撃を加えていく。一撃では倒れず、二度、三度と繰り返す。

 ガドルが優勢に変わりないとはいえ、珍しく苦戦しているな。


「わーぁ、わ、わ!」


 助太刀の盆踊り……ではなく聖魔法。

 骸骨たちが、がらがらと崩れていった。


 無言で見つめる私とガドル。

 聖魔法が強すぎないだろうか?


『今の内に、回復してはどうだろう?』

「……そうだな」


 沈黙に耐えかねて、手早く食べられそうな串肉とコッペパンを出す。ガドルは義手の爪でパンに切れ目を入れて肉を挟み、食べながら進む。

 現れた人型骸骨は、ガドルが容易く倒していく。

 そんな彼を見ていて、さすがの私も疑問を抱いてしまう。

 もしかしなくても、ガドルはプレイヤーが連れ回していい存在ではないのではなかろうか?


「わー……」


 まあ、いっか。今さらだ。


 その日はボス部屋に到達することは叶わなかった。

 聖魔法で骸骨軍団を蹴散らしてから、テントを張って休む。


『なあ、ガドル。ボス部屋に入るのは、私が起きてからにしてくれないだろうか?』


 ガドルの強さならば大丈夫だろうとは思うけれど、今日、彼は苦戦していた。NPC(住人)である彼に万が一のことがあれば、取り返しが付かない。

 私は戦力にならないけれど、【聖水】と【聖魔法】を使えば、力になれるはずだ。

 ガドルはじっと私を見つめる。私はその視線を、真正面から受けて立つ。


「……分かった」

「わー」


 同意の答えを聞いて、ほっと根を撫で下ろす。


「正直に言うと、ダンジョンの様子がおかしい」

「わ?」


 おかしいだと?

 たしかに、ここの魔物はおかしい。お化けが踊っていたり、フライが飛んでいたり、運営の頭を疑うセンスだ。


「前に来たときは、ここまで魔物が溢れていなかった。……今まで潜ったことのあるダンジョンと比べても、違和感がある」

「わー……」


 おかしいの意味が違った。


「いざとなったら、助けてくれるか? 相棒?」

「わー!」


 もちろんだとも!

 【聖水】と【聖魔法】だけではない。使わなければそれに越したことはないけれど、私には【癒しの歌】だってあるのだ。

 絶対に、ガドルを護ってみせるぞ!


「わー!」

「無茶だけはするなよ?」

「わー!」


 意気込む私を、ガドルが苦笑しながら見守っていた。




 そして翌日。ログインしたら、階段でガドルが休んでいた。


「次はボス部屋だ。【聖水】を頼めるか?」

「わー!」


 もちろんだ。

 ガドルに【聖水】を掛け、心を込めて踊る。


「わーわーわーわ、わわわ、わっわわわっ!」


 ガドルが無事にダンジョンを制覇できますように。


 輝くガドル。


「よし、行くぞ!」

「わー!」


 そうして開けた扉の先には、骸骨がいた。

 頭だけでも四メートルはあるだろうか。巨大な骸骨だ。しかも武器を持った様々な骸骨の軍団を率いている。

 下っ端どもは任せろ!


「わーぁ、わ、わ! ……わっ!?」


 聖魔法が効かないだと!?

 残念ながら成仏させてあげることはできなかった。けれど軍団の動きは止まる。


「助かる!」


 ガドルが骸骨たちの上を駆け、巨大なボス骸骨に殴りかかった。

 だが一撃では沈まない。何度も殴り続けるガドル。

 地面に落下するときに骸骨軍団を踏み潰し、再び跳躍。ボス骸骨を攻撃する。


 私もタイミングを見計らい、ボス骸骨に掛かるように【聖水】を取り出す。

 かしゃりと割れた小瓶から出た【聖水】が、ボス骸骨に当たった。湯気が立ち昇り、骨が溶ける。

 効果はあるらしい。

 散った飛沫に当たった骸骨軍団の二体が成仏した。不運なのか幸運なのか……。

 ボス骸骨が虫を払うように、ガドルを(はた)いてくる。


「くっ」


 間一髪でガドルが躱し、ボス骸骨の手は壁にぶつかった。がらがらと壁が崩れ、大きな穴が開く。

 あれをまともに受けたら、さすがのガドルもただでは済むまい。


「今までとレベルが違いすぎる!」

「わー!」

「こいつがダンジョンのボスかもしれないな」


 なるほど。だから強いのか。

 だったらこいつを倒せば、ガドルの無実の罪を晴らせるのだな?


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にんじんが行く!
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一迅社ノベルス様より、9月2日発売!

― 新着の感想 ―
[一言] いよいよダンジョンボスか?! ガドルがんばれー! にんじんも踊れー!
[気になる点] にんじんのスキル調べたら「踊り子」がありそう(((*≧艸≦)ププッ たくさん踊ってレベルカンストを目指すと良いと思います!
[良い点] 超巨大骸骨かー。 これは大変そう(聖水樽×30から目を逸らしつつ)。 [一言] >>ガドルはプレイヤーが連れ歩くべき存在じゃ ないですねw 国一番の冒険者だったって、ガドルもですよね? し…
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