表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/93

47.俺はいい。仮に攻撃が

「俺はいい。仮に攻撃が当たっても、大したダメージはない。だが万が一ということがある。蛙に掛けておけ」

「わー」


 私か。

 格下相手といえども、私を護りながら戦うのは大変だろうからな。軟弱ですまぬ。

 一度地面に下ろしてもらい、小瓶の【聖水】を被る。


「わわわ、わっわわわっ!」


 踊り切り、そっと視線を逸らす私。

 口元を抑えて顔を背けているガドルの肩が震えていた。


 聖水の効果時間は、聖水だけなら十分。神職の祈りが加わると一時間に増えるのだ。いくら樽で持ってきたからといって、無駄遣いはせぬぞ。

 しかしこれ、実際はいい年した神官たちが輪になって踊るのだ。私はまだ可愛いほうだろうが?


「……わー?」


 だから【聖水】は貴重なのではなかろうか。

 好んで作りたい人はいないだろう。

 ガドルの鎧に貼りつくと、震えが伝わってくる。


「わー……」

「すまん。……くっ」

「わー……」


 しばらく進んでいると、井戸が現れた。

 ……井戸? しかも数が多い。井戸って一ヶ所にそんなにいらないと思うのだが?


『もしや、前髪が長い女の人が出てくるのではなかろうな?』

「知っていたのか?」

「わー……」


 たしかに死霊系ではある。死霊系ではあるのだが……。

 RPGって基本的に、洋風の魔物が出てくるのではないのか? 和風の幽霊が出てくるの? 提灯お化けとか?

 私、一反木綿が欲しい。テイムできないだろうか。


『動きが遅いから戦いにならんだろう? 避けて通ればいいのか?』

「それなりに早いぞ? ダメージは少ないがな」

「わー?」


 動きが速い? ちょっと想像ができないというか、違う意味でホラー度が増している気がしなくもない。

 そして出てくる前髪の長い女性。


「わー? ……わーっ!?」


 カッと目を見開いた途端、皿を投げてきた。

 私の知っている人と違う! アクティブすぎる!

 皿幽霊が鬼の形相で、皿をフリスビーの要領で投げてくるのだ。しかも、たくさんある井戸全部から皿幽霊が出てきて投げてくる。


「にんじん! 目を閉じていろ!」

「わー!」


 了解。

 目はないんだけどね。

 

 言われた通りに視界を閉じていたら、破壊音が聞こえてきた。いけないと思いつつ、そっと視界を開けて覗き見る。

 ガドルが井戸を拳で破壊していた。


「わー……」


 ガドルさん、どんな馬鹿力ですか?

 普通は井戸なんて簡単に壊せないからな。


 規模を間違えたモグラ叩きが終了し、ドロップアイテムを確認。

 【井戸女の皿】が手に入った。白い平皿だ。保温機能付。

 何に使うんだ?


『これは【聖水】を落として倒すのではないのか?』


 井戸の中にぽちゃりと。


「井戸女は、井戸を壊せば消えるのにか?」


 皿女を倒すならともかく、井戸を壊すとか、予想外の戦法だよ。

 ガドルが脳筋だった件。

 ふと思い出す私。


『では、井戸にこれを突っ込んだらどうだろう?』


 取り出したのは、北の山で手に入れた【花火】と【火薬】。


「……えげつない」

「わー!?」


 なぜだ!? 拳で殴るより効率いいだろう?

 不満に思いつつも、戦うのはガドルなので呑み込む。彼のやりやすい戦法が一番である。


『とりあえず、ここでは私に気を使わなくていいぞ? 前にも言ったが、死霊系は倒すのではなく祓うものだと解釈しているからな』

「……分かった」


 私に気を使って、ガドルに万が一のことがあっては悔やみきれぬ。改めて伝えておく。


 続いて出てきたのは、一反木綿。仲良くなって、背中に乗せてもらいたい。


「わー! わー……」


 テイムする前に、ガドルに引き裂かれた。

 そもそも私、テイマーではないから、どちらにしても無理だったかもしれないけれど。話し合ったら仲間になってくれないだろうか?

 一反木綿は、ナプキンやランチョンマットを落としてくれた。真っ白かと思いきや、色無地やチェック柄もある。ただし一枚ずつ落とすので、パーティ分を同色で揃えるとなると大変そうだ。

 レアで【テーブルクロス(花柄)】も手に入れた。


「わー……」


 花柄か。使い辛いな。

 しかし、なんなんだ? このダンジョンは。

 もしや、テーブルセットを揃えるダンジョン? この世界は食器も魔物から手に入れるのか? 文明が進化しなさそうだ。


 ダンジョンの利権を手放したくなくて、デッドボール男爵はガドルを陥れたという話だった。だが、これは金になるのか? まだ浅い層だから、ドロップ品のレベルが低いのだろうか?

 デッドボール男爵の思考がさっぱり分からない。

 困惑している内に、下の層に向かう階段まで到達する。

 階段にいる間は魔物が出ないということで、今日はここで休むことにした。


「わー」


 テントを出そうとしたら、ガドルが首を横に振る。


「ここは魔物が来ないし、雨風もない。このままで構わん。……デッボー男爵の私兵が来るかもしれないしな」

「わー」


 見回りか。それともアイテムを集めにか。食器だけど。

 一応、魔石もドロップしていたから、そちらが目的なのかもしれない。


「わー!」


 では、と、食事を取り出す。

 食堂で買っておいた料理だ。ほかほかだぞ。


「ありがとう。ダンジョン内で普通の飯が食えるとは。にんじんのお蔭だな」

「わー……」


 照れるぜ。

 食事を終えると、ガドルは壁に背を預けて目を閉じた。


「にんじんも寝ていいぞ? できたら蛙のままでいてくれ」

「わー!」


 私がログアウト中にも移動するつもりなのだろう。

 マンドラゴラのままだと、手に持って運ばなければならない。蛙装備があれば、鎧にくっ付けておけばいいからな。

 本当にいい装備を貰ったものだ。


『おやすみ、友よ』

「おやすみ」


 ガドルが寝たのを確かめてから、装備を外し、調薬セットを取り出す。帰り用の【妖精の悪戯な飴玉】を作っておかねば。

 マンドラゴラ水はすでに煮詰め終えているものがあるので、それを使う。

 買ったまま使う機会がなかった調薬セットが、ようやく日の目を見たぞ。……ダンジョンの中なので、日は差していないけどな。 

 出来上がった飴と調薬セットを収納ボックスにしまい、代わりに腐葉土を取り出す。


「わー」


 ああ、そうだ。私がログアウトしている間の、食料なんかも出しておかなければな。

 収納ボックスから、回復薬と保存食を取り出して……。


「わー……」


 どうしよう? 袋がない。

 荷物は私が持つからと、用意していなかった。

 何か代わりになるものはないだろうかと考えて、思い出す。


「わー!」


 取り出したのは、一反木綿が落としてくれた【テーブルクロス(花柄)】。


「わー……」


 黄色い生地に、ピンクや水色のファンシーなお花模様。予想以上に使い手を選ぶ一品だった。

 ちらりと寝ているガドルを見やる。

 ……似合わないな。

 広げたテーブルクロスの上に、小瓶が入っていた箱を置く。回復薬と聖水、保存食を詰めて蓋をする。

 テーブルクロスの下に潜って……。


「わーっ!」


 ジャンプ!

 テーブルクロスを被った状態のまま、箱の上に着地。


「わわ……っ」


 後ろに流れるテーブルクロスの重みに引っ張られて、バランスを崩してしまった。根餅を搗いたけど、落ちなかったから良しとする。

 キャタピラーの要領で箱の反対側まで移動。 


「わーわ、わーわ、わわーっ!」


 よいしょーっと。

 飛び降りれば、箱を挟んでテーブルクロスが半分に折られた状態になった。

 本当は余っている布を箱の下に入れて、しっかり包みたいけれど、マンドラゴラの体ではさすがに難しい。

 とはいえ、このまま反対側の布を箱に被せるだけでは、包みが緩みそうだ。

 朝になってガドルが起きてから、包み直してくれるかもしれない。けれど、そのまま腰に巻いて、戦闘中にばらけたら大変だ。


「わー……」


 さて、どうしたものか。

 収納ボックスの一覧を開き、使えそうなものを探す。


「わー!」


 【大蜘蛛の糸】があった。

 これ、蜘蛛の糸だけあって、引っ付くんだよ。糸の先を引っ張ると、するすると抜けるのに。

 二股の根で糸を一本取り出す。箱の底に添って、下の布にくっ付けていく。それから上の布をなるべく引っ張ってから、ぺたり。しっかり踏んで、接着する。

 一本分の粘着力はそこまで強くないから、ガドルなら剥せるだろう。

 さて、下の布に潜って、と。


「わーっ!」


 ジャンプ!

 反対側に下りて、こちらも【大蜘蛛の糸】を使い、マジックテープみたいに留めておく。

 後は起きたガドルが、腰に巻くなり背負うなりするだろう。

 明日の準備をやり遂げた私は、【イエアメガエルの着ぐるみ】を装備する。地面に直接腐葉土を盛り、その山に潜ってログアウト(おやすみなさい)

 ……蛙の冬眠みたいだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

にんじんが行く!
https://www.amazon.co.jp/dp/4758096732/


一迅社ノベルス様より、9月2日発売!

― 新着の感想 ―
[一言]  がどる「(花柄クロス包みを見て)……笑った意趣返しだろうか…?」
[気になる点] にんじん、目もなかったのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ