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42.しかしカレーになるわけには

 しかしカレーになるわけにはいかない。

 ここは逃げるべきか? と思っていたら、お連れさんが溜め息一つ。エルフ族のショタだ。片眼鏡を付けたインテリ風。


「よく見てくださいよ、豚。プレイヤーです」


 豚!?


「あらあら、本当。にんじんさんと仰るのね?」

「わー、……わっ!?」


 私の前に屈みこむチャイナなマッチョ。

 ちょっ!? 

 見える! 私、丈が低いから、屈まれたら見え……ないな。

 ブラックホールが施されていた。安心だな。色々な意味で。


「はじめまして。豚です」

「わー……」


 チャイナなマッチョの頭上には、確かに『豚』の一文字。

 なぜそんな名前にした!? 彼女の自由だけど、自由だけど……。アバターといい、ちょっと関わりたくないぞ?

 とはいえ挨拶を無視するわけにもいかないので【幻聴】発動。


『マンドラゴラのにんじんだ』

「まあまあ。マンドラゴラさんだったのね。……じゃあ、カレーに入れるのは無理かしら」

「わ!?」


 プレイヤーだと気付いても、カレーに入れる気だったのか!?

 ついに刻まれてしまうのか? 私……。


「わー……」

「豚、PKをするつもりですか? 連れが申し訳ありません、にんじんさん。僕は丹紅(にく)と申します」

『にんじんだ。襲わないなら気にしなくていい』

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」


 ショタエルフのほうはまともそうだ。名前が『にく』だけど。


「では、失礼します」

「わー」


 去っていく二人を見送る。

 中々濃いキャラだったな。


 さて、私も神殿に帰ろうと動き出したところで、(あし)が止まった。

 振り返り、先ほど豚と丹紅が出てきた店を確認する。

 看板に描かれているのは、クッキーの絵柄。


「わー!」


 甘味処!

 ここなら砂糖を売っていなくても、入手方法は知っているのではなかろうか。

 いそいそと店に入る私。

 まずはクッキーを幾つか購入。


『あの、砂糖ってどこで手に入りますか? できれば妖精が好む砂糖をご存知でしたら教えてほしいのですけれど』

「妖精? それなら砂糖(たけ)ね。でも滅多に出回らないわ」

『砂糖茸? どこで採れますか?』

「東門を出て、街道から逸れて東に向かった先よ。詳しい場所は知らないわ」

『ありがとうございます』


 情報のお礼にパウンドケーキも追加で購入。

 ガドルは甘党だったかな? まあガドルが食べないなら、スラムの子供たちにあげればいいか。

 砂糖の情報が手に入ったので、意気揚々と神殿に引き上げことにした。




 神殿の部屋に戻ると、ガドルが待っていた。どうやら用事は終わったらしい。


『武器は出来たのか?』

「この通りだ」


 ガドルの失われた左腕には、金属製の義手が嵌っていた。熊手を思わせる金属製の指が伸び、日常生活よりも戦闘に重きを置いた作りになっている。正直格好いい。

 もっとよく見てみたくて、【イエアメガエルの着ぐるみ】を装備して腕に飛びつこうとしたら避けられた。


「わー?」


 触れられるのは嫌か?


「気を付けろよ? 指は切れ味のいい刃物だ。うっかり触るとお前を刻みかねん」

「わー……」


 握り潰されるリンゴならぬ、握り切られるマンドラゴラ。一瞬でマンドラゴラの輪切りができてしまうのだな。


「にんじんのほうはどうだ?」

『そのことなのだが……』


 黒糖で作った【妖精の悪戯な飴玉・劣化】を取り出し、ガドルに見せる。効果を聞いたガドルは難しい顔だ。一秒だからな。


『原因は黒糖だと思うのだ。飴を作るには適していないからな。それと……』


 もう一つの懸念点。


『私はこれを食べられない』

「……そうだな」


 マンドラゴラだからな。

 私、どうしよう?

 悩む私の前に、ガドルが腕を差し出す。


「鎧にくっ付いていれば、共に消えられるかもしれん」

「わー?」


 そんな都合のいい話があるのか?


「気を悪くするかと思って黙っていたが、お前がくっ付いているときにステータス画面を見たら、装備に【蛙】がアクセサリーとして記載されていた」

「わー……」


 ガドルの従魔どころか、アクセサリーになっていた私。

 特に問題はないので構わないか。むしろアクセサリーなら、ガドルから引き離される危険がないと考えられる。

 ダンジョンで罠に掛かったら、どこに飛ばされるか分からないと言っていたからな。却って好都合だ。私一人になったら、確実に詰む。


「これは試しに使っても大丈夫なのか?」

「わー」


 失敗作だからな。


「だったら、ちょっと待っててくれ」


 部屋から出て行こうとしたガドルだが、戸を開けたところで足を止めた。廊下に声を掛けると、すぐに戻ってくる。

 続いて入ってきたのはポーリック神官。

 呼びに行こうとしたら、戸の前にいたんだな。私、見張られている説。


「すまないが、俺とにんじんが消えたか確認してほしい」

「分かりました」


 誰かが見てないと本当に消えたのか分からないから、呼びに行ってくれたのか。うかつだった。


『効果は一秒だ。よろしく頼む』

「……承知しました」


 さっそくガドルにぴとり。ポーリック神官に見えやすいよう、今日は胸に停まる。


「では、飲むぞ?」

「わー!」

「どうぞ」


 私とポーリック神官の返事を聞いて、ガドルが【妖精の悪戯な飴玉・劣化】を口に運ぶ。


「わー?」


 どうだ?

 後ろを向いてポーリック神官を見ると、驚いた顔をしていた。どうやら成功したみたいだ。


「本当に消えるのですね。ええ、にんじん様もガドル様も、お姿が見えませんでした」

「にんじんの声は聞こえたか?」

「ええ。何もない場所から、天使のようなお声が」

「わー……」


 そこは普通に私の声と言ってくれればいいのに。

 ガドルが顔を逸らして笑いを堪えているではないか。言いたいことはあるが、このまま品質を上げれば使えることが分かったので、よしとしよう。

 音は聞こえることも分かったので、この点には注意が必要だな。


「後は黒くない砂糖だったな。さっそく買い出しに行くか?」

『どこに売っているか知っているのか?』


 ポーリック神官の前で、吹き出さないよう耐えているのが辛くなったらしい。ガドルは早々に私を連れて神殿から出ようとする。


「薬師ギルドで扱っている奴ではないか? 白い奴だろう?」

「わ?」


 なんだと?

 言われてみれば、白砂糖が出回り始めた当初は、甘味料ではなく、薬として使われていたと聞いたことがある。

 飽食の時代となった今では、薬ではなく毒に近い扱いをされているけれど。


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にんじんが行く!
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一迅社ノベルス様より、9月2日発売!

― 新着の感想 ―
[一言] あと玉ねぎとじゃが芋、出来ればハチミツとリンゴも欲しくなりますね!
[気になる点] 豚+丹紅=ぶたにく どういった連れ合いなのか、とても気になりますww そしてにんじんを装備したガルドも見てみたい! 【イエアメガエルの着ぐるみ】を着たにんじんが見たい!
[良い点] ▷ガドルはにんじんを装備した! ▷どうやらガドルは周囲の注目を集めたようだ。 ⚫︎NPC情報 -ガドルの旦那- 左腕がカッチョイイ義手になってるイケオジ獣人。 元A級冒険者らしいが、暗い…
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