41.自分でMP回復薬を
自分でMP回復薬を作れるし、強力な回復スキルまである。チートと言われても仕方ないと思っていたのに、どういうことだ?
「初めは選んだプレイヤーもいたみたいだけど、数日と経たずに種族変更したらしいよ? まだ使ってる人がいたんだねー」
「わー?」
そうなのか? もったいない。
「どうした? ハッカ」
陽炎たちもやってくる。
「この子! マンドラゴラ!」
「ハッカ以外にも、人外を選ぶ人間がいたんだな」
「その姿で戦えるのか? せめて腕は必要だろ?」
「わー?」
陽炎は人外不容認派か。そしてサラダの頭の中は戦うことしかないのか? RPGのプレイヤーとしては、彼の思考が真っ当なのだろうか?
RPGはあまり経験がないから、いまいち分からぬ。
その後、ハッカから、マンドラゴラ不遇種族説について説明された。
他のゲームなら補正が付くのに、このゲームは自力で動かなければならないため、多くのプレイヤーが挫折したらしい。
腕がないというのは、慣れていない人間には大変だったようだ。同様の理由で、スライムなどの魔物を選んだプレイヤーも、早々に人型に切り替えたという。
「小さいせいで、踏まれたプレイヤーもいたみたいだよー。にんじんはよく無事だったねー」
スタート地点から数メートルも進めず消えていった、スライムの勇姿が脳裏を過る。
『最初に蹴られてHPが削られたな。危険と判断して、人混みから逃れるように移動した。そのせいでファードの冒険者ギルドには行けなかったが』
王都の冒険者ギルドで登録したけどな。
「え? ギルドに登録してないの? ファード以外の町に入るには、ギルドカードが必要なはずだよ? どうやって王都に入ったのさ?」
『薬師ギルドに登録しているからな。冒険者ギルドも王都で登録した』
身分証代わりのギルドカードは、なにも冒険者ギルドでなければならないという縛りはないのだ。
「薬師なの? 借金まみれの不遇職と呼ばれる、あの?」
なんだ? その不名誉なあだ名は?
そして可愛い顔が台無しだぞ? ハッカ。眉間にしわを寄せ、口を歪めての変顔だ。
『それなりに稼げるし、いい職業だぞ?』
色んな薬も作れるしな!
顔を見合わせて、怪訝な目で私を見るハッカとシジミ。サラダと陽炎のほうは、ふむと頷いて納得した顔だ。
「噂はあてにならんな。だから掲示板などに頼らず、自分の目で見ろと言っただろう?」
「えー。情報は大事だよー」
陽炎に窘められて、ハッカが口を尖らせる。
「あーあ。ボクもはっきりした不遇職だったら、諦めが付いたんだけどなー」
『何か問題があるのか?』
「ボク、魔法使いを選んじゃったんだよ。まさかMPの回復方法がないとか思わないじゃん?」
「わー?」
MPの回復方法がない?
「ないんだよ。HPは回復薬と自動回復が見つかってるけど、MPはどっちもまだなのー。王都に来れば、回復薬は見つかると思ったのにー」
「わっ!?」
なんだと!?
これ、もしかして私が回復薬を作れると知られたら、集られるのだろうか? 今はガドルのために作り溜めをしているところなので、勘弁してもらいたい。
……。
それ以前に、マンドラゴラが材料だと知られたら危険だな。捕まって刻まれかねん。
「わー……」
思わず遠くを見てしまった。
「神殿の祈りでHP自動回復は手に入れられたんだけど、一度きりだからねー」
「やり直してもアイテムが消えるだけで、再挑戦はできないみたいだよ。やるなら気を付けてね」
そう言って肩を竦めるハッカとシジミ。
私、HPだけでなくMPも自動回復するのだが?
『全部の神殿でか?』
「全部?」
『ファード、セカード、王都のそれぞれで祝福が貰えたぞ? サースドはまだ行っていないから分からんが』
一つは加護だったか。まあ些細な違いだ。放っておこう。
ちなみに同じ神殿だと、何度祈っても出てこなかった。王都で経験済みだ。ハッカたちが言っているのは、このことだろう。
四人が狐に摘まれたような顔で私を凝視する。
「町を変えれば再チャレンジ有りなの!?」
「運営! 罵倒してごめん!」
神殿に行くたびに祈るプレイヤーだっていそうなのに、知られていなかったのか。まあ、誰もが掲示板に情報を上げるわけではないから、知られていないこともあるか。
「ちなみにだけど、にんじんは何を捧げたの? 持ち物の中で一番価値のあるアイテムを捧げれば、確率が高くなるって噂なんだけど」
『私が作ったアイテムやボスドロップだな。一番価値があるとは限らないと思う』
【金塊】は一番だったかもしれないけれど、セカードで捧げた【友に奉げるタタビマの薫り】に比べれば、【イエアメガエルの着ぐるみ】のほうが価値は高いと思う。
「じゃあ運かー。運で三連引いたの? 凄いね、にんじん」
「わー?」
運だったのか?
出過ぎだとか思ってすまぬ、女神様。
「さっそく拝んでこよーよー」
「そうだな」
神殿だからな。
「情報ありがとーねー!」
「わー」
礼を言って去っていくハッカたち。
なぜか陽炎だけ、足を止めたまま私を見つめてくる。
「わー?」
どうした?
不思議に思っていたら、陽炎の視線が上に動いた。そして差し出される、【ラニ草】の束。
「わー?」
「薬草だ」
「わー?」
それは分かるのだが、なんで?
理由が分からず根元を傾げる。
「情報料、だ。足りないなら他に」
「わーわー!」
また何か取りだそうとしたので、葉を振って充分だと伝える。
見返りが欲しくて話したわけではない。
「そうか。それと、先日はすまなかった。私が言えた義理ではないけれど、もしも他のプレイヤーに絡まれたら、私の名前を出してくれて構わない」
「わー?」
それこそ、なんでだ?
「私はそこそこ有名らしい。抑止力になるだろう。【酔い醒まし】を作れると知られれば、強要してくる者もいるかもしれない」
「わー!?」
ガドルと一緒にいた私に、気付いていたのか!
驚いていると、サラダが陽炎を呼ぶ声が聞こえた。
「今行く。……それでは失礼する」
「わー」
仲間のもとへ向かう陽炎の背中を見送っていたら、ハッカの叫び声が響いてきた。
「よっしゃあー! 【女神の祝福(MP)】ゲットだぜー!」
目当てのスキルを手に入れたらしい。おめでとう。
神殿を出て街の中を歩く。
王都に辿り着いたプレイヤーはまだ少ないらしく、行き交う人の多くは住人だった。スタート地点みたいな混雑もないので、踏まれる危険は少ない。
とはいえ油断は禁物だけどな。
ぽてぽてと歩いていると、香辛料を売る店を発見。
『砂糖はありますか?』
「うちはそんなの売ってないよ?」
「わー……」
他にも何軒か売ってそうな店を当たったけれど、全滅である。
やはりガドルが帰ってくるまで待つべきだったか。せめてポーリック神官に聞いてくるのだった。どこに何が売っているのか分からない。
待てよ?
もしかして、白砂糖は出回っていない可能性もあるのではないか? 文明的に、まだ精製方法が開発されていないとか、お金持ちじゃないと手に入らない可能性が……。
「わー……」
思わず黄昏てしまう。
帰ろうかな。
そう思い根先を返そうとしたところで、立派な筋肉を発見。……違う。マッチョなプレイヤーだ。男アバターっぽいけれど、チャイナドレスを着ている。頭には猫耳。
現実なら女性として対応するが、VRでこういうアバターを作っている場合、精神はどちらなんだろう?
考え事をしていたら、視線が合った。
「わー……」
「あらあら、こんな所に人参さんが。……今日はカレーにしましょうか?」
「わー……」
私を食べるつもりか。
せめて美味しいカレーを作ってくれ。