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37.お帰りなさいませ

※前日二本投稿しています。




「お帰りなさいませ、にんじん様、ガドル殿」

「わー」


 ただいま。

 ピグモル神官長とポーリック神官に出迎えられる私とガドル。いつもより豪華な衣装をまとう二人。

 しかし何か違和感が。

 よく見ると、二人は笑顔で固まっていた。なぜだ?


「ガドル様。失礼ですが、そちらの鎧を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」


 動き出した神官長。

 ガドルへの敬称が『殿』から『様』に変わったな。


「構わん」


 ガドルが許可を出すなり、ガドルの胸辺りをじっと凝視するピグモル神官長。隣のポーリック神官もなんだか緊張した面持ちだ。

 しばらく無言で見つめていたと思ったら、神官長がぷるぷると震えだした。


「ガドル様! この鎧はどうなされたのですか!? まさか、ガドル様も女神様から祝福を頂いたのですか?」


 そういえばガドルの鎧はセカードの神殿で、【鋼鉄の鎧】から【神鉄の鎧】に進化していたっけ?


「いいや、俺ではない。にんじんが女神様に願って、俺の鎧に【祝福】を頂いてくれたのだ」

「わー」


 同意すると、神官二人の顔がぐりっと私に向かう。ちょっと怖い。


「ガドル様が身に付けている【神鉄の鎧】は、かつて女神様の寵愛を受けた聖女セリー様をお守りした、聖騎士の祖パリー様が身に付けていたといわれる、伝説の鎧と同じものです。やはりにんじん様は、聖人様なのでは?」

「わー……」


 違うと思うぞ?

 それよりも、ここは他のプレイヤーも転移してくる場所だ。見られたら恥ずかしいので、解放してほしい。見事な羞恥プレイ。

 まだ王都に到達しているプレイヤーは少ないのだろう。今のところは転移陣を使って移動してきた者はいない。しかし、いつ現れるかとひやひやしてしまう。


『すまぬ。移動して話さないか?』

「申し訳ありません。そうそう、転職の準備が整いましたので、どうぞこちらへ」


 謝罪するピグモル神官長に促されて、神殿の奥へ。

 途中で警備に当たっていた聖騎士たちが、ガドルを見てぎょっとした顔をしていた。いつもは無表情なのに、【神鉄の鎧】に目が釘付けだ。

 聖騎士の憧れなのかもしれない。


 案内されて辿り着いたのは、奥庭にある祈りの泉。いつも水を汲ませてもらっている場所だ。


「まずはこちらで身を清めて頂きます」

「わー」


 ピグモル神官長に促されるまま、私は泉に入る。深いな。

 沈んでいく私を、慌てたガドルが手を伸ばして救出してくれた。


「わー……」

「にんじん……」


 呆れた顔をしながらも、底に二股の根が届かない私をすくいあげ、器用に片手だけで根や葉を洗ってくれる優しいガドル。くすぐったい。

 白い布で水気を取り、ピグモル神官長が差し出した白いミニ座布団に座らされる。ふわっふわだ。

 このまま床の間にでも飾られそうだなどと、ぼんやり考える。……現実逃避だ。


 そして向かったのは、さらに奥にある厳かな部屋。私も入るのは初めてである。

 真っ白な空間にあるのは、女神様を模った白い石像のみ。

 私は女神像と対面する部屋の中央に下ろされた。

 少し離れた後ろに、ガドルと神官長たちが跪く。私も倣って跪いた。


「女神キューギット様。どうぞこの者に加護をお与えください。神官となり、女神キューギット様に仕えることをお許しください」


 ピグモル神官長が祈ると、女神像が輝き出す。幽体離脱のように浮き出てくる、色付きの女神様。

 こうやって現れていたのか。初めて見たぞ。いつも祈っている間に出現していたからな。


「あら? ふふ。また会ったわね」

「わー」

「でも困ったわね。あなたにはすでに加護を与えているし、どうしましょう?」


 頬に手を当てて、困った顔をする女神様。

 しばし考えこんでから、ちらりと私を見た。――違うな。私ではなく、私を透かして何かを見ている。


「スキルに祝福を与えてもいいけれど、あなたのスキルに今以上の力を与えては、世界のバランスを崩しかねないわね」

「わー?」

「ふふ。治癒のスキルを持っているでしょう?」

「わー!」


 【癒しの歌】か!

 たしかに一瞬で病気も怪我も治せるようなチートスキルだ。今以上の能力となると、一日に何度も使えるか、死人も蘇らせるとかになるだろう。

 ……ゲームバランスが崩壊するな。


「あら? 理解してくれたのね。更なる力を得ることで、富も栄誉も地位も手に入るかもしれないわよ?」

『不要だ。今でも根の丈に合っていないのではと思うほどだからな』

「ふふ。やっぱり欲がないのね? いいわ。あなたには特別に、私の寵愛をあげる。この世界を楽しんでちょうだい」

「わー?」


 きらきらと瞬く星が、私に降り注ぐ。

 こういうのは暗い夜に見るから綺麗なのであって、明るく白い空間で見ると惜しい気がする。昼間の花火みたいなものだな。


「ふふ」


 笑い声を残して、女神様は消えていく。現れる時は女神像から出てきたのに、去る時は霧に隠れるように消えた。


『ありがとう、女神様』


 お礼を言ってからステータス画面を確認しようとして、ふと違和感を覚え振り返る。


「わ?」


 ピグモル神官長とポーリック神官が、ぽかんっと目と口を開いて女神像を見上げていた。二人の様子を眺めていると、視線が私に下がってくる。


「わ?」


 根元(小首)を可愛らしく傾げてみる。


「に、にんじん様! 聖人――いえ、聖人参様に選ばれましたこと、謹んでお祝い申し上げます!」


 我に返ったとたん、滂沱の涙を流して私を拝みだすピグモル神官長とポーリック神官。


「わーっ!?」


 私だけでなく、ガドルもぎょっと目を瞠った。

 そういえば、女神キューギットの寵愛を頂いた者は、聖人に列せられるのだったか。


「わー……」


 ピグモル神官長とポーリック神官から視線を逸らし、ステータス画面を確認する。

 神官長たちに失礼? ご年配の神官方が私を拝む姿など、直視していられるか!

 職業欄を確認すると、【治癒師】が【聖人参】に変わっていた。


 運営! なんだ【聖人()】って! 『にんじん』は私の名前であって、種族はマンドラゴラだ!

 いや、もしかすると『聖・人参』ではなく、『聖人・()』の可能性も。三人目の聖人とかそういう偶然が……。

 【神官】に転職するつもりが、【聖人参】に転職してしまった件。


 とりあえず考えるのは放棄して、その他を確認。

 今まで持っていたスキルはきちんと残っている。よかった。

 称号にあった【女神の加護】は、【女神の寵愛】に変わっている。HPとMPの回復率が、格段にアップした。

 私、回復薬必要ないのでは?

 いや、【癒しの歌】を使った直後は、HPとMPを回復する必要があるか。

 それでも回復薬の使用量は減るだろう。

 これはよいスキルを頂いた。


「わー……」


 ……拝まれる辱め付きだが。


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にんじんが行く!
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一迅社ノベルス様より、9月2日発売!

― 新着の感想 ―
[良い点] 聖人参!
[一言] 聖人参w この作品のメインの目的はこれやりたかったから…とかじゃ無いよね…?
[一言] 【聖人参】最初から考えてたでしょ!
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