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32.ログインしたら、腕を組み

 ログインしたら、腕を組み気難しい表情で椅子に座るガドルがいた。


「わー?」


 どうした?

 知り合いの所に行ってくると出かけて行ったが、その人もガドルのつまらぬ噂を信じていたのだろうか?


「起きたか。……今日の予定はあるのか?」

『特にないな。薬を作るか、図書館に行ってみるかと考えていた。もし暇なら、北の山に連れて行ってほしい。タタビマが尽きたのでな』


 ダンジョン行き(雪辱戦)を控えているのだから、他にすることがあるのならそちらを優先してもらいたい。

 けれど私の懸念とは裏腹に、ガドルはわずかに表情を輝かせた後で、気まずそうに頬を掻く。


「実は知り合いに装備を作ってほしいと頼みに行ったんだが、必要な素材を集めてくるように言われたのだ。岩人形の【銀塊】が必要なんだ。周回に付き合ってほしい」

『構わんぞ? 私のほうに【銀塊】が出たら、ガドルに譲ればいいのだな?』

「助かる」


 あからさまにほっと安心した顔つきになるガドル。

 気難しい顔をしていたのは、レアアイテムを譲ってほしいと言い出すのに気が引けていたからか。生真面目な奴だ。


『戦闘も移動もガドルに任せきりなのだ。むしろ今まで得たドロップアイテムを全てガドルに譲るように言われても、私は従うぞ?』

「莫迦を言うな! それらはにんじんの物に決まっているだろうが」

『気を悪くさせたならすまぬ。だが私は本心で言っているよ? 遠慮するな』

「お前は……」


 【イエアメガエルの着ぐるみ】を装備して、竦められたガドルの肩に飛び乗り準備は完了だ。

 いざ行かん、北の山!


『必要なのは、岩人形の【銀塊】だけか? 隠し事はなしだぞ?』

「【鉄塊】と【岩人形の魔石】も必要だが、【銀塊】が出るまでに必要量は集まるだろう。あとは西の森で【大蜘蛛の撚糸】を採取だな」

『そっちもレアか?』

「ああ」

『ならばそちらも付き合おう』


 私が付いていけば、ガドルと私、二人にアイテムがドロップされる。つまりレアを引く確率が倍になるのだ。


「いいのか?」

『虫はまあ、許容範囲だ』


 蜘蛛は益虫だから、現実世界では見つけても逃がすけどな。ハエトリちゃんなんて可愛いから特に。むしろ接待に勤しんでしまう。軍曹も頑張って頂きたいので敬礼!

 とはいえ殺す人間を見ても平気だし、非難するつもりはない。

 つまり、ガドルが大蜘蛛を討伐する現場に居合わせても、現実に影響は少ないと思われる。


「お前の許容範囲がよく分からんな」

『哺乳類はお断りしたい。鳥類や爬虫類、両生類もだな』

「……死霊系は?」

『すでにお亡くなりになっているのなら、むしろ弔ってさしあげるのが優しさだと思う』


 真っ直ぐ天国に行って、幸せに暮らしてほしい。心残りがあろうとも、この世に留まるのはお薦めせぬ。

 しかしガドルめ。まだ気にしていたのか。……きちんと説明しておかなかった私のミスだな。すまぬ。


「なるほどなあ」


 納得した様子のガドルと共に、王都の南門を潜って北の山へ向かう。

 王都から見ると南の山なのだが、名前は『北の山』のままでいいのだろうか?


 一度岩人形を倒してドロップ品を受け取ってから、再ポップまでの時間を利用して山に入る。今日の目的は岩人形なので、駆け足だ。

 人の気配がなくなったところで、装備を【北の山の湧水】大瓶に変更。

 右手にマンドラゴラ()漬けの大瓶を持って、転落岩や破裂岩を蹴散らしながら岩山を登っていくガドル。

 瓶に入っているお蔭で風に煽られることはないが、揺れる揺れる。


「わー……」


 思わず【酔い醒まし】を使用してしまった。

 タタビマの実を採ってから下山。岩人形を倒すと、再びタタビマの実を採りに行く。

 途中でEP回復のために休憩した以外は、ほぼ移動と採取と討伐だ。

 なんてハードな一日。現実ならば、へばること間違いなしである。

 周回とは、これほど過酷な作業だったのだな。世のゲーマーさんたちを尊敬する。


「わーっ!」


 【銀塊】キターッ!

 思わず叫んでしまったよ。ちょっと涙出そう。マンドラゴラなので泣けないけれど。

 ちなみに途中で【金塊】が二回出ている。

 【銀塊】のほうがレア度が低いって嘘だろう?


「にんじんを連れてきて正解だった」


 しみじみと呟く当事者。

 ガドルは【鉄塊】と【銅塊】しか出なかったそうだ。

 ……ちょっと待て。【銅塊】? 私の収納ボックスにはないぞ?

 引きが悪すぎて逆に激レアを引いている疑惑。


『次は大蜘蛛だな。付き合うからな』

「……頼む」


 ガドル一人だと、何日掛けても【大蜘蛛の撚糸】は手に入らない気がする。


「タタビマはまだいるか?」

『とりあえずは充分確保したと思う』

「そうか。なら水を汲んでセカードへ向かうか」

『ありがとう。助かる』


 岩山を登り、【北の山の湧水】を空いていた樽に汲む。

 そこから来た道を戻れば王都。南に進めばファードの町に辿り着く。しかし今日は西へ進む。


 山の麓に近付くにつれ、岩と岩の隙間にタタビマではない低木がちらほらと現れてきた。次第に草木の数も種類も増し、比例して岩が減っていく。

 視界から岩が消えたところで、木々の間から塀と門が見えた。セカードの町だ。

 王都の冒険者ギルドで登録した私は、このままセカードの町へ入れそうだが、通り道なので大蜘蛛に挑んでみる。


 ボスエリアに入ると、名前通りの巨大な蜘蛛が襲ってきた。そして、あっけなくガドルに瞬殺される。

 手に入れたアイテムは、【大蜘蛛の魔石】と【大蜘蛛の糸】。

 【大蜘蛛の撚糸】は出なかった。残念。


「大丈夫か? にんじん」

「わー……」


 蜘蛛なら平気だと思っていたのだが、予想以上に心へダメージを負ってしまった。大き過ぎたのと、リアルなのが原因だな。

 ガドルが一撃で倒してくれたし、すぐに消滅したからなんとか耐えられたけど。


「神殿に戻ろう。大蜘蛛は俺一人でなんとかする」

『ばかを言うな。何度挑戦するつもりだ?』

「……急ぐわけではない」


 運のなさは自覚済みらしい。


『付き合うからな』

「にんじん……」


 背負われてばかりでいるつもりはない。ガドルの相棒を自負するのであれば、彼の力になれることはやり遂げたいのだ。


『明日までには気持ちを切り替える』

「……分かった」


 溜め息を吐きながら、ガドルはセカードの町に入った。


 まず冒険者ギルドに行き、手に入れたアイテムを換金する。

 その後、ガドルの食事を済ませてから宿を取ろうとしたのだが、セカードにも神殿があるということなので寄ってみることにした。

 セカードの神官さんに会ったので、挨拶をしておく。私の話は伝わっていないらしく、引き留められることはなかった。

 礼拝堂に行き、拝む私。お供え物は女神様のお蔭でパワーアップした、【友に奉げるタタビマの薫り・並】だ。


「わー、わー、わー……」


 【友に奉げるタタビマの薫り】に、【女神の祝福】を付けてくれてありがとうございます。お蔭様で品質が【並】になりパワーアップしました。本当にありがとうございます。


「わー、わー、わー……」


 ガドルに会わせてくれてありがとうございます。ガドルを生きてダンジョンから帰してくださり、ありがとうございます。今度ダンジョンに潜りますが、無事に戻ってこられますように、お見守りください。


「わー、わー、わー……」


 それから……。


「また会いましたね。敬虔なる異界の旅人よ」

「わー……」


 本当に、また会いましたね、女神様。俗世に来すぎではありませんか?


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にんじんが行く!
https://www.amazon.co.jp/dp/4758096732/


一迅社ノベルス様より、9月2日発売!

― 新着の感想 ―
[一言] 邪なる願いより純粋な願いほど女神様が微笑ましくなるものはないな…
[一言] 「わー、わー、わー……」 更新ありがとうございます。今回のニンジン君もかわいいです、ニンジン君戦闘苦手解消できるとように...
[良い点] このような生き物でゲームをしているのは新鮮で面白い。NPCも生きていてまるで異世界転生者のような感覚もありつつゲームのような感じもありつつで大変面白いし理解と納得がしやすい。
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