28.タタビマの実を一つ取り出し
タタビマの実を一つ取り出し、【鑑定】してみる。
【タタビマの実・コブ】(2/3)
タタビマの実。HP回復薬の原料となる。
「わー……」
アイテム名の後ろに数字が付いていた。
どうやらタタビマの実は無限に使えるわけではなく、作れる回数が決まっていたみたいだ。
考えてみれば当然だな。むしろ使い回せるほうが不自然と言える。
しかし無くなってから気付くとは、後手後手だな。
「どうした? にんじん」
「わー……」
部屋に戻ってきたガドルを振り返る私の葉は、萎れていた。ガドルの表情が心配そうに歪む。
『大丈夫だ。タタビマの実が限界を超えてしまったらしく、せっかく集めてもらった実が消えてしまっただけだ』
「それは……。今日も採りに行くか?」
『さすがに連日はな。それに一樽で【友に奉げるタタビマの薫り・並】が百本作れたから、これ以上はいらぬだろう』
出来上がった【友に奉げるタタビマの薫り・並】へ視線を向ける。
ガドルもちらりと見て、舌で唇を湿らせた。
そこのネコ科! どれだけタタビマ好きなんだ?
『タタビマの実はまだ少し残っているし、もしかすると薬師ギルドで買えるかもしれぬ。今日は他のことをして過ごそう。ガドルはしたいことや行きたいところはないのか?』
私に付き合わせてばかりでは申し訳ない。今日はガドルのやりたいことに付き合うつもりだ。
首を捻って考えていたガドルは、真剣な表情でじっと私を見つめる。
「その回復薬、売ってくれないか? すぐには払えないが、必ず稼いで返す」
『金は不要だ。私はお前の相棒で、回復職なのだろう? 回復職は仲間に治癒魔法を掛けるたびに、対価を要求するのか?』
「しないな。だがお前を連れていくわけにはいかない。右腕一本でどこまで通じるか分からない。それににんじん、お前、殺生は避けているのだろう?」
ガドルが行こうとしている場所は、なんとなく想像が付いた。
彼の運命を狂わせたダンジョンに向かうつもりなのだろう。目的までは分からないけれど。
『付いていくとは言わんさ。百本で足りるのか?』
戦闘力のない私が行ったところで、彼の助けにはならない。むしろ足手まといだ。
それに魔物を倒した際に得る経験値は、パーティを組んでいると等分される。つまり私が共に行くと、ガドルが得るはずだった経験値を私が半分奪い、彼が強くなる機会を奪ってしまう。
強い相手と戦うと分かっているのであれば、彼は少しでも強くなるべきだ。
しかし確認しておくことがある。
『荷物持ちはいるか?』
回復薬百本はそれなりの量だ。足りないなら、更に追加する必要がある。
他にも食料などを運ばなければならない。収納できる装備があるのなら私は不要だけど、そうでないならプレイヤーの収納ボックスは有用だろう。
「回復薬を融通してくれるだけで大丈夫だ。荷物は冒険者ギルドで収納袋を借りられる」
ならば問題ないか。
ちょっと寂しく思うのは、私のエゴだろう。
「というわけで、にんじんに行きたい所がないなら、俺は冒険者ギルドと商店街に行きたい。ダンジョンに入る許可と、装備が必要だ。お前はどうする?」
『ダンジョンに入るのに許可がいるのか?』
「事故の後、封鎖されているらしい。領主であるデッボー男爵が管理しているそうだ」
『それならキャーチャー閣下に頼んだほうが確実ではないか?』
ガドルが頷いたので、作った薬を箱詰めにして収納ボックスにしまう。それから神官に頼み、キャーチャー閣下に連絡を付けてもらう。
相手は公爵だ。返事が来るまで待たねばならない。
その間に町に出かけることにした。
私は特に用はないのだが、観光も兼ねて付いていく。
『よし、パン屋に行くぞ! クリームパンをゲットするのだ!』
「……にんじん、お前は食べられないよな?」
『手元にあるだけでも、気分は違うだろう?』
いつでも食べられる状態なのと、どこにもないのとでは、気分が違う。
意気込む私を肩に乗せたガドルは、町を歩いていく。そして華麗にパン屋をスルーした。
私のクリームパンが!
「わー……」
遠ざかっていくパン屋。
クリームパンよ、いつか迎えに行くからな。
哀愁漂う私を連れてガドルがまず向かったのは、武器屋だった。いつも素手で戦っていたガドルだが、本来は武器も使うらしい。
彼なら剣より拳に装備する武器が似合いそうだ。
何を選ぶのかと見物していると、クローが並ぶ一角で立ち止まる。鎌を細くしたような刃が三本並ぶ、獣の爪みたいな武器だ。刃の間に指を入れ、根元の金属部分を握り込んで使う。
ガドルはクローの一つに伸ばしかけた手を引っ込めると、別のクローを手に取った。
『金が足りないのか? 私に出せる額なら出すぞ?』
「お前は……」
『別に善意だけではないからな? ガドルが強くなれば、私も助かる』
ガドルは大きな溜め息を吐くと、後から手にしたクローを握りこんで手首を振り、状態を確かめる。
「悪くはない、が」
よくもないというところか。
『最初に見たほうは幾らするんだ?』
睨むな、ガドル。
「悪いがガドル。お前に俺の店の武器は売れないぞ? 他を当たってくれ」
「わー!?」
なんだと!?
奥から出てきたスキンヘッドの店主がガドルを睨む。客が来ていることに気付いて出てきたらしい。
噂か。噂がここにも流れているのか。
一瞬だけガドルも顔をしかめたが、何も言わずに試着していたクローを戻して店を去る。
「わー!」
なんだ、あのおやじ! 失礼な!
「怒るな、にんじん。武器屋の店主は悪くない。問題を起こした奴に武器を売らないのは、むしろ好感が持てると思わないか?」
「わー……」
その問題とやらは、冤罪だけどな。
真相を知る私にとっては腹立たしいことだが、ガドルの言う通りだ。
人を傷付けた前科のある者にも、金さえ払えば武器を売る店より、売らない選択をする店のほうが好感は持てる。
納得はいかないがな!
「お前がいてくれてよかった。俺の代わりに怒ってくれるから、俺は冷静でいられる」
「わー……」
微妙な気分だが、役に立てたなら嬉しいよ。
とはいえ武器が買えなくては、ガドルも困るだろうに。どうするつもりだろうか。
「素手でもある程度は潜れる。行ける所まで行ってみるさ」
寂しげに笑うガドルは、他に必要なものを買い込んでいく。主に食料。
買った物はとりあえず全て私の収納ボックスにイン。
テントもランクの高い物を買い直す。今持っている物は、ダンジョンの下層では役に立たないらしい。
私も店先で目に付いた【朱豆】を買った。小豆に似た豆で、ちょっと気になったのだ。