17.ログインした私は混乱していた
ログインした私は混乱していた。
ここどこ?
岩場だから北の山だとは分かるのだが、ログアウトした場所と景色が違うのだ。
「起きたか?」
「わー!」
きょろきょろと辺りを見回す私に、気付いたガドルが声を掛けてきた。
『ここはどこ?』
私はだあれ?
違う。そうじゃない。岩山を登っていたはずなのに、下りつつある。
「どこって、北の山に決まっているだろう? お前が起きるまで待っていたら、いつになるか分からないからな。先に進んでいる。……経験値が必要だったか?」
どうやらログアウト中でも運搬されて移動できるらしい。なんて便利なシステムだろう。
ただしパーティは組めないらしく、レベルは変わっていなかった。
『運んでくれてありがとう。経験値は私が倒しているわけではないから構わない』
「なら問題ないな。タタビマの実は採っておいたから、また浸けておいてくれ」
『分かった。ありがとう』
ガドルからタタビマの実を受け取る。間を置かずパーティの申請が来たので受けた。
一度地面に下ろしてもらい、植木鉢から出て収納ボックスにしまう。続いて【北の山の湧水】を装備する。
私、基本装備が二リットル瓶になりつつあるのだが、RPGの装備として有りなのだろうか? 木の棒とかあるらしいからいいか。
昨日と同様、ガドルが難なく転落岩と破裂岩を蹴散らしていく。経験値とアイテムが入ってくるが、レベルアップには時間が掛かるようになった。
あ、【重曹】。
『【重曹】って何に使うんだ?』
「さあ? 冒険者ギルドに持っていけば買い取ってくれるぞ?」
やはりパンケーキ屋を開くしかないか。
どこかに【料理】スキルは転がっていませんか? 【調理】スキルか? どちらでもいいや。
花火や重曹といった平和的なものを手に入れつつ北の山を下ったのだが、王都を囲む塀が見えた辺りで、北の山のボスと遭遇した。
ボスって山の頂上にいるべきではないのだろうか。王都の手前にいたら、王都にいる騎士や兵に倒されそうだ。
だがその辺はゲーム。ご都合主義である。
北の山のボスは、それまでの岩と姿が違った。丸い岩を幾つもくっつけて作った岩人形――いわゆるゴーレムである。
ガドルの強さはここまでの道中で理解しているけれど、相手はボスだ。一人で大丈夫だろうか?
そんな心配をしていた時もありました。
「わー……」
チートだ……。
ほんの一蹴りで倒してしまった。
≪岩人形を倒しました。【岩人形の魔石】が手に入りました。【金塊】が手に入りました≫
さすがボス。鉄鉱石ではなく金塊が手に入るとは。何度も倒したら金持ちになれそうだな。
≪レベルが上がりました≫
≪【北の山】のボス【岩人形】がソロで初討伐されました。これにより、【王都】が解放されます≫
「わ!?」
ちょっと待て!
岩人形を討伐したのはガドルで、私は何もしていないのに。これはいいのか?
報酬も通常の岩人形討伐に加えて、ソロ初討伐の特別アイテムまで貰ってしまった。【鋼鉄の鎧】とか、私、装備できるのだろうか?
「わー……」
赤く染まり始めた空を見上げる私を、ガドルが運んでいく。
ワールドアナウンスで名前を晒されない設定にしておいてよかったと、根を撫で下ろす。
ちなみに鎧は装備できなかった。レベルを上げても無理そうだったので、お礼も兼ねてガドルにプレゼントする。
「いいのか? しかしマンドラゴラなのに、なんでこんなものを持っているんだ?」
私に聞くな! 運営に聞いてくれ!
『ガドルが岩人形を倒した後にドロップしたのだ。倒したのはガドルだから、遠慮なく貰ってくれ』
「岩人形から? そんな話は聞いたことがないぞ?」
初討伐報酬だからな。プレイヤー特権というやつだろう。
それはさておき、事情を話したことで、ガドルは遠慮しながらも嬉しそうに装備してくれた。ガドルと組んでいたからこその報酬だったのかもしれないな。
「わー!」
似合っているぞ! 格好いいな。
称賛の声を贈ると、ガドルは照れたように苦笑しながら頬を掻く。
「さ、行くぞ?」
「わー!」
こうして私たちは王都に向かうのだった。
王都はぐるっと高い塀に囲まれていて、東西南北に門が設置されている。他にも小さな門が幾つかあるらしいが、一般的に使われているのは四方の門だ。
北の山を越えて辿り着いたのは南門。兵士が立ち、王都に入る者をチェックしていた。
私とガドルも王都に入る人々の列に並ぶ。数えるほどしかいないので、すぐ済みそうだ。
「……にんじん、すまんが瓶から出てくれないか?」
「わー?」
瓶を装備したままでは王都に入れないのかと思ったが、違った。周囲の視線が私とガドルに集まっている。あまり好ましい視線ではないな。
「山道はともかく、人の多い王都で二リットル瓶を持ち歩くのはな」
「わー」
そういうことか。
体格のいいガドルが酒を飲みながらやって来たと、誤解されてしまったみたいだ。ガドルの名誉のためにも、マンドラゴラ水作りはいったん中止しよう。
装備を外して瓶から出て、ガドルの肩に乗せてもらう。
「次」
私たちの番になったので、身分証として薬師ギルドのギルドカードを差し出す。ガドルは冒険者ギルドのギルドカードだ。
マンドラゴラな私を胡散臭そうに見た兵士の目が、ガドルのギルドカードを確認した途端に改まる。
「Aランク冒険者とその……従魔? ですか。どうぞお通りください」
「わー……」
いいさ。所詮はマンドラゴラだ。採取してきた素材と言われなかっただけ良しとするさ。
笑いを噛み殺しているガドルを睨みながら、王都に入る。
北の山で手に入れた鉄鉱石や火薬を売るため、まずは王都の冒険者ギルドに向かうことにした。
『岩人形を倒した報酬は【金塊】だったが、あんなに簡単に倒せるのなら、ガドルは億万長者になれるんじゃないのか?』
王都を見学しつつ冒険者ギルドに向かう途中でガドルに問うと、ぎょっとした目を向けられる。
「【金塊】はレアだぞ? 【銀塊】でも滅多に出ない。俺は【鉄塊】だった」
なんと。私の運が良かっただけか。
しかし【鉄塊】とは。
転落岩の報酬が【鉄鉱石】だからランクアップしているのは確かだけれども、微妙な気分になるな。