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14.どうした? って

「わー? わーっ!?」


 どうした? って、ぎゃー!?

 突然、ガドルが凄い速さで移動する。

 風にあおられて、葉っぱが横倒しになってしまった。掴んでくれなかったら振り落とされていただろう。

 落ち着いたところで、何事かと先ほどまでいた場所を見る。直径が人の背丈ほどもある岩が転がっていた。


「わー?」


 落石?


「転落岩だ。岩に擬態していて、獲物が近付くと転がり落ちて潰す」


 魔力を奪うって、そういう方法なの!? たしかに迷惑この上ない岩だな。

 ガドルは転落岩の後ろに回り込むと、私を肩に乗せ直す。それから右手で転落岩を小突くように軽く殴った。

 真っ二つに割れる転落岩。


「わ?」


 岩だぞ?

 ガドルさん、馬鹿力にも程がありませんか?


「急所を突いただけだ」

「わー?」


 それにしても、真っ二つはないだろう。

 呆れ混じりに感心していると、ピコンッと音がした。


≪転落岩を倒しました。【転落岩の魔石】が手に入りました。【鉄鉱石】が手に入りました≫


 ……。

 私、何もしていないのだが。パーティ組んでいるだけで貰えるのか。そして続けざまのピコン。


≪レベルが上がりました≫

≪レベルが上がりました≫


 私のレベルが1とはいえ、一体倒しただけでレベルが二つも上がるとは、初回サービスか?


「レベルが上がったか? 一桁なら、しばらくはすぐに上がるぞ」


 初回サービスではなく、討伐した岩のレベルが高かったらしい。

 ファードの町を出たばかりなのに、転落岩のレベルは問題ないのだろうか?

 とりあえず、貰ったポイントを【魔力】に振っておく。これで喋れる回数が増えた。


 その後も順調に転落岩を、(ガドルが)倒しながら山を登っていく。時々【鉄鉱石】ではなく【重曹】が手に入った。重曹は鉱物だったのか。

 これはパンケーキを焼けという思し召しだろうか? それとも掃除洗濯をしろという指摘だろうか。


「わー?」


 なんだ?

 慣れてきたところで赤みの強い転落岩と遭遇。ガドルは私を掴むなり駆け出す。そして赤い転落岩を蹴った。

 岩壁にぶつかり爆発する転落岩。


「わー……」


 爆発時の風だけでダメージを受けてしまう私。


「すまん。大丈夫か?」

「わー」


 こちらこそ、貧弱ですまぬ。


 討伐履歴を確認すると、転落岩ではなく破裂岩だった。

 破裂岩はHPが0になると爆発するので、直接止めは刺さず、先程のように岩壁にぶつけたり魔法などの飛び道具で仕留める必要があるそうだ。

 手に入ったアイテムは【破裂岩の魔石】と【火薬】。剣と魔法の世界なのに序盤で火薬とは。世界観はどうなっているのだろうか。


 二体目からはガドルがきっちり風から護ってくれたので、ダメージを受けたのは最初の一度きりだった。

 破裂岩からは【火薬】の他に、【花火】が貰えた。

 【花火】のほうがレアらしい。ちなみに武器としては魔物を驚かせるくらいしか使えないそうだ。……スラムの子供たちにでもやろう。


 ここまでに得たポイントは、全て【魔力】に振っている。

 【速力】に振って素早いマンドラゴラを目指すのも面白そうだと思ったが、人から貰ったポイントでネタに走るのは罪悪感があったので我慢した。

 【生命力】はHPを効率的に回復する方法が見つかるまで現状維持だ。増えても回復が追い付かないからな。

 【攻撃力】は増やしても人並みになるまでかなり必要だろうし、保留でいいだろう。


 そうして岩を破壊しながら山を登っていると、ガドルが足を止めた。


「あそこだ」

「わー?」


 岩陰を示されるが、私には岩しか見えない。

 ガドルが迷うことなく岩の裏側に向かうと、葉の裏がきらきらと光る低木が生えていた。

 獣人の嗅覚が優れているからなのか、それとも何度か採りにきて憶えていたのだろうか。

 どちらにせよ、私一人では見つけられなかっただろう。

 それはさておき、目の前の低木がラニ草ではないことだけは確かである。


「わー?」


 これはなんだ?


「タタビマだ。薬師なのに知らないのか? HP回復薬の原料になる。作り方は知らんがな」

「わー!」


 おお!

 課題のHP回復薬を改善できそうだ。

 ガドルの肩から降ろしてもらい、タタビマの木に近付く。生っている実は二種類で、細長いどんぐりに似た木の実と、ごつごつと歪な形に膨れた木の実がある。

 これ、木の実と葉っぱだけはマタタビだ。マタタビは蔓性の植物なので、似ていても異なる植物なのだろうけれど。


 マタタビの実は本来、どんぐりに似た形をしている。そこに虫が卵を産み付けることで、こぶだらけの歪な外見に変形する。薬草として使うのは、こぶだらけの歪な実だ。

 ということは、この実も薬が作れるのはどちらか一方なのだろうか。


「このままでも美味いんだがな」


 ()を上向けてガドルを見ると、目をギラギラとさせて舌なめずりしていた。

 虎はネコ科だから、タタビマに酔いそうなんだろう。ここまで真っ直ぐに来られたのは、タタビマの香りに反応していたからかもしれない。

 とりあえずどんぐり型の実を鑑定してみる。


「わー」


 【鑑定】。



 【タタビマの実】

 タタビマの実。



 そのままだな。こぶだらけの実も鑑定してみる。



 【タタビマの実】

 タタビマの実。



「わーっ?」


 おいっ?

 仕事しろ、【鑑定】!

 レベルが低いからかだろうか。知っている情報しか出してくれない【鑑定】さん。

 困ってガドルを見上げると、欲望と戦いながらも私の疑問に気付いてくれた。


「こっちのほうが美味い」


 指差されたのはどんぐり型。

 だが私が知りたいのは味ではなく、薬効だ!

 じとりと睨んでいると、気まずそうな表情をしながら、二種類の実を一つずつ採ってくれた。


「わー」


 差し出された実を、再度鑑定してみる。採ったことでもしかすると情報が出てくるかもしれないから、念のためだ。



 【タタビマの実】

 タタビマの実。ネコ科の獣人や魔物に与えると喜ぶ。



 情報が増えた。しかし『喜ぶ』とは分かりやすいのか分かりにくいのか。どう利用すればいいのだろう。特にネコ科の魔物に対して。

 疑問はとりあえず横に置いておき、こぶだらけの実も鑑定してみる。



 【タタビマの実・コブ】

 タタビマの実。HP回復薬の原料となる。



「わー!」


 こっちが正解だ!

 さっそく、こぶのあるタタビマの実を採取しようと木に近付き、問題発生。

 私、マンドラゴラなのだ。手がないわけだよ。


「わー……」


 ガドルの掌の上で仰向けに寝転がり、足で挟んで採取する恥辱プレイ。ガドルが興味深そうに私の動きを見ているのが、更に恥ずかしさを底上げする。


「わー……」


 そしてもう一つの問題。

 私、【採取】を持っていないのだ。木にはたくさんの実が生っていたのに、三つ採った時点で実が消えた。

 ゲームだという意識が抜けていた私は、ぎょっと驚いてしまった。


「俺が摘んだのもやろう」

「わー?」


 いいのか?


「俺では薬を作ることはできん。それに、このままよりも回復薬のほうが美味い」

「わー……」


 後半が本音だな?

 たしかに【調薬】を持っていなければ、木の実をそのまま食べるしかない。このままでも効果はあるらしいが、薬にしたほうが回復力はアップする。そして味もよくなる、と。

 遠慮なく頂いておいた。薬ができたら今回の礼も込めて贈ろう。


「次の木へ向かうぞ」

「わー!」


 ガドルの肩に乗り、岩山を移動する。

 何本かの木を回って確保したこぶ状の実を、予備のマンドラゴラ水に浸けておいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 予備のマンドラゴラ水……言葉の意味というか、作り方というか、ただの風呂の残り湯とか考えると笑いがw [気になる点] 葉っぱはわさわさ動かせるだけで、「取る」筋力、もとい、「取る」握力(?)…
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