01.VRMMO『イセカイ・オンライン』
発掘したので投稿しました。
ステータスなどの表記はほとんどありません。
VRMMO『イセカイ・オンライン』。
全てのNPCに人工知能が搭載され、本物の『人』と変わらない行動をすると話題のオンラインゲームだ。
人工知能が日常生活で当たり前に活躍しているこの時代においても、NPC全てに人工知能を搭載したゲームはほとんどない。
過去に挑戦したゲーム会社は幾つかあるが、サーバへの負担が大きすぎて、オープン前にメインNPCのみに変更したり、強行してオープン初日にサーバがダウンしたと聞く。
それだけに『イセカイ・オンライン』に対する期待は高く、購入希望者が殺到した。サーバーへの負担を減らすためか販売数を制限したのも、希少価値を高める結果となる。
私は運よく、そのチケットを手に入れたわけなのだが――。
「おかしい。私が頼んだのは、『ジャングルでぱっくん~蛇が降ってきてギャー!~』のはずなのだが……」
購入履歴を確認してみると、たしかに『イセカイ・オンライン』を購入していた。
『マスターが購入するゲームを間違えていましたので、変更しておきました。コードが一つ違っていましたよ?』
「……ありがとう?」
どうやら、うちのAIちゃんが、勝手に注文を変えていたらしい。そろそろ私の趣味嗜好を憶えてほしいものだ。この間も――いや、それはいいか。
手に入らず嘆いているゲーマーが大勢いるらしいのに、なぜ私の下に届いたのだろう。熱望していた方々よ、すまぬ。
ならば譲渡すればいいと言われそうだが、VRゲームの譲渡は禁止されている。
VR世界と現実世界との区別が曖昧になった子供たちが起こした事件により、購入するには身分証を提示する決まりなのだ。
購入した者以外がプレイできないように、譲渡防止プログラムも入っている。
苦手なジャンルなので買うつもりはなかったのだが、これも何かの縁だろう。
『ジャングルでぱっくん~蛇が降ってきてギャー!~』は諦めよう。
こうして私は、VRMMO『イセカイ・オンライン』をプレイすることになったのだった。
◇
サービス開始日。ゴーグルを被って『イセカイ・オンライン』を起動した私は、真っ白な世界にいた。
≪『イセカイ・オンライン』へようこそ。種族をお選びください≫
空から聞こえてくる声と共に、目の前に様々な生物の名前と立体映像が現れる。
人間から始まり、エルフや獣人などを過ぎて、ゴブリンやオーク、スライムといった人外生物へと変わっていくのを眺めながら、私の分身となる基礎を選ぶ。
「多いな。ふむ。これにしよう」
沢山ある種族の中から、私はマンドラゴラを選んだ。ゲームや物語によって多少の姿は異なるが、植物系の魔物である。魔物なのか薬草なのか、微妙なところだけれど。
『イセカイ・オンライン』の世界に住むマンドラゴラは、二股の朝鮮人参に似た姿をしていた。手はない。
どうやら姿をいじれるようなので、少し太らせて、色もオレンジを加える。朝鮮人参から美味しそうな西洋人参に進化した。
「完成っと」
そう声を上げると、西洋人参を残して他の立体映像が消え、職業の選択に切り替わる。職業名を示す文字に意識を向けると、どのような職業なのか簡単な説明が現れた。
生産職と戦闘職から一つずつ選べるらしく、どちらをメインにするかもここで決める。選んだ種族と職業に応じて、スキルなどが自動で割り振られるらしい。
私が選んだメイン職業は、生産職の『薬師』。その名の通り、薬を調合する職業だ。サブ職業は戦闘職の『治癒師』。こちらは回復魔法が使えるらしい。
『決定』すると、スキルだのなんだのが勝手に決められていく。私に与えられたのは、【幻聴】【調薬】【鑑定】【癒しの歌】【緑の友】の五つ。
【幻聴】は声を望む音に変えられるらしい。マンドラゴラが引っこ抜かれた時に上げるという悲鳴かな? スキルレベルが上がれば、これで敵を倒せるようになるのだろうか?
【調薬】は薬師を選んだからだろう。一度作った薬は、次から自動で作れるようになる。たぶんレベルを上げれば、作れる薬の質がよくなるなどの効果もあるのだろう。楽しみだ。
【鑑定】は鑑定した対象の情報を得られる。これもおそらく薬師から派生したのだろう。
【癒しの歌】は音による治癒魔法。普通に治癒魔法じゃ駄目なのだろうか? マンドラゴラと治癒師の組み合わせで現れたと推測する。
私、あまり歌は得意ではないのだが、音程を外したら効果が減るとかだと嫌だな。それ以前に、人前で歌うのは恥ずかしいぞ。
【緑の友】は植物の扱いが上手くなるらしい。たぶん薬師が薬草を育てるためのスキルなのだろう。それともマンドラゴラだからだろうか? 比較対象がいないので分からんな。
全体的に説明が簡潔で、詳細がよく分からない。慣れている人ならば見当が付くのかもしれないけれど、初心者には厳しい仕様だ。
≪スキルは行動やイベントで取得することがあります。以上でよろしければ、名前を登録してください≫
「にんじん」
≪キャラクターの作り直しは、本日より一週間以内に限り、一度だけ行うことができます。ただし、それまでに得たスキルや所持品はすべて破棄され、隠しイベントなどで得られる報酬の一部を受け取れなくなる場合がありますので、ご注意ください≫
「一度だけ? ということは、二度目は?」
≪二度目以降のキャラクター変更は承れません≫
「了解」
この対応は、『イセカイ・オンライン』に限ったことではない。
安易にキャラクターを作り直せると、何をしてもやり直せると考えて問題を起こす人が増える。
しかし一番の問題は、サーバーに負担が掛かるからだ。特に『イセカイ・オンライン』はプレイヤーの数を絞っていることからも、サーバーの容量に余裕がないのだろう。
≪では、『イセカイ・オンライン』 の世界をお楽しみください≫
声が終わると共に、白い世界が徐々に色を持ち始めた。