私が愛した場所-3
それから約3年。私と瑠奈は、日本でのオンシーズンは精力的に働き、オフシーズン━━といっても全然潜れるんだけど━━は海外へ潜りに行くという生活サイクルが出来上がっていた。
まぁつまり年中潜りっぱなしの生活というわけ。
仕事でのダイブは、まぁ景色としての未知は減ってもスキルの安定化に繋がった。
そして海外でのダイブは未知の連続だった。
沈没船の中を探索したり、海中の洞穴に潜ったり。特に好きだったのが、沖へ出て40メートルまで潜ること。
音も空気もない、光さえも遠い場所。 そのただただ深く青い世界は、とても落ち着く場所だった。
そしてこれだけの年数が経てば、当然レベルは上がる。
私はマスタースクーバーダイバートレーナーという卒業直後の瑠奈のひとつ上のランクに、瑠奈はマスターインストラクター、つまり一般的な最高位のインストラクターに、それぞれランクアップしていた。
因みにランク差は2つ開いた……差は縮まるどころか広がっているわけだ。
そんなオフシーズンのある日、瑠奈と3泊4日で海外旅行に行っていた私は宿泊先へ移動中のバスでぎっくり腰になってしまった。
こう、立ち上がろうと手すりに手をかけて腰をひねったらグキっと。
まぁ、そんな状態でダイブができるはずもなく、私は泣く泣く部屋で過ごした。
瑠奈は看病しようとしてくれたけど、私はせっかく海外まで来て2人ともの時間を潰すのは流石にもったいなさすぎる、と彼女を説得し、ダイブに行かせた。
そこまでは、正直なんの問題もなかった。
たとえ1人であろうと、ダイビング初心者を10人引連れていようと、彼女はよっぽどのアクシデントがない限り全員生きて返すだろう。
実際、以前ガイド中に観光客の1人のレギュレーターが故障しパニックになり、他の人の使用中のレギュレーターを奪うという事件が起きたけど、それを完璧に対処して見せた。
それでも、人には限界というものが存在するということを、私は失念していたのかもしれない。
その日、世界が揺れた。揺れるような衝撃とか爆音とかじゃなく、文字通り地面が揺れ、空気が揺れた。
つまるところ地震だ。それもかなり大きな。
私は、腰痛で動けない中ホテルの人に助けられ、高い場所へと避難した。ここはそこそこマイナーではあるもののダイビングスポットであり、つまるところ海が近い。津波のリスクも当然あるからだ。
そして瑠奈は今、海の中にいる。
逃げながらそれを理解した私は、もちろんかなり心配した。
というか狼狽してかなりパニックになった。
でも同時に、心のどこかで瑠奈なら大丈夫だろうって気持ちもあったんだ。
陸より海の方が長くいるんじゃないかってくらい経験豊富で知識もある。当然地震の時どう行動するべきかも理解してるし、頭の回転だって早い。例えバディやガイドの方がいなくても無事にやり過ごせるだろう、と。
海に絶対がないのはわかっていても、私にとって瑠奈はダイビングの神様みたいなところがあったから。
でも、瑠奈が帰ってくることは無かった。
夜8時に瑠奈視点を投稿します