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第98話 カイトの王都滞在編〜バフォちゃん反省!?

 マツリを送還した後、レクスに状態維持の魔法を付与してもらった木箱に、小豆あんと、きな粉の餅を入れて“Gの館”に来た。


「これはなんやねん?」

「餅だが、ジョニーは知らないのか?」

「あ~、そう言えばあったな、久しぶり過ぎて忘れとったわ。わいはどっちかっちゅうと、おはぎの方が好きやったさかいな」

「そうだな、もち米はまだまだあるから今度はおはぎを作るのも良いな。俺も好きだしな」

「ほんまでっか!?そりゃ楽しみやな」

「今回はこの餅を食べてくれ。美味いぞ」

「おおきにな、ほんま感謝しとるで」



 棚から出したバットに、小豆あんときな粉の餅をアイテムボックスから出した俺は、地下牢のバフォちゃんの所に行った。


「誰だお前は?」


 バフォちゃんが居たはずの地下牢には、見たことの無い少女が膝を抱えて項垂れている。

 長くウェーブの掛かった髪の毛は黒くて、ヤギのような角が二本あり、目の色は金色で肌は浅黒く、背中にはカラスのような羽根が付いている。

 顔付きは幼く身長も低い幼児体型だ。


「カ、カイト君!も、もう来ないのかと心配していたんだぞ!」

「バフォちゃんなのか?」


 声も幼い感じだが、此処にはバフォちゃんが居た筈だから、多分バフォちゃんなのだろう。


「お前が私を此処に入れたのだろう、頼むから早く此処から出してくれ!!」


 バフォちゃんは立ち上がり、鉄格子を掴んで俺に訴え掛けている。


「バフォちゃん……お前子供だったのか?何故姿が変わっているんだ?」

「失礼な、私はこれでも大人だ!見ろ、この胸を!!」


 何故か裸のバフォちゃんが、腰に手をやり胸を張って見せる。

 確かにプルンプルンと二つの膨らみが揺れているが、それ以外はどう見ても子供にしか見えない。


「はぁ……わかったから其処を退いてくれ」


 俺は牢の扉を開けて中に入り、アイテムボックスから黄色いローブを出して、バフォちゃんの肩に掛けてやった。

 このローブはランダムな色の組み合わせで、10枚セットで売られていた物だ。

 孤児院に寄付をするのに丁度良いと思い、5セット程購入してアイテムボックスの中に入れていた。


「ところで聞くが、ヤギ頭はどうしたんだ?」


 黄色いローブが気に入った様子のバフォちゃんに俺が質問をすると、バフォちゃんは部屋の片隅に目をやった。

 そこには、丸められた着ぐるみのようにヤギ頭のバフォメットがあり、小さな“G”が群がっていた。


「なるほど……」

「カイト君、私はもう家に帰りたいんだ。だから此処から出してくれないか?」

「やっと反省したか?もう罪のない人達の魂を縛るとか言わないのなら出してやっても良いが……」

「反省などしていないが、もう言わない!!そんな事はもうどうでも良い。私は家に帰りたいんだ!!」


 

 如何に悪魔とは言え、見た目が幼女のバフォちゃんをこれ以上此処に入れておくと、俺の方が犯罪者のような気になってくる。


 俺はアイテムボックスから帰還の箱を出して、バフォちゃんに蓋を開けさせた。


「ああ~、この心地よい瘴気は私の世界だ……私の家も見えている……」

「この箱に入れば、お前の世界に帰る事が出来るぞ……って、おい!ちょっと待て!」


 俺の説明の途中で既に片足を箱に入れているバフォちゃんを呼び止めて、小豆あんと、きな粉の餅が入っている木箱を渡した。


「さっき、ついたばかりの餅だ。帰ったら食べてくれ」

「私にくれるのか?謂わば私はカイト君の敵だぞ」

「今も敵なのか?」

「今は……そうか、ならば有り難く貰ってやろう。もう良いか?私は帰るぞ」

「ああ、気を付けて帰れよ」

「チッ、どいつもこいつも私を子供扱いする……まあ良い。そうだ、一つ教えておいてあげよう。この世界を狙っている奴がいるのはもう知っていると思うが、また私のような者を送り込んで来るのは間違い無いだろう。精々気を付ける事だな」


 そう言い残して、バフォちゃんは箱の中に入って行った。

 ゆっくりと箱の蓋が閉じると、その向こうにバフォメットの着ぐるみが脱ぎ捨てられていた。


「忘れて行ったなバフォちゃん……」


 俺は、脱ぎ捨てられた着ぐるみに群がっている“G”を払い除けて、アイテムボックスの中に放り込んだ。


 また不要在庫が増えてしまった。



 バフォちゃんが言い残して行った言葉が少々気になる。

 デビルモンスターの種の件もあるし、レクス達に伝えた方が良いだろう。


 まさか、デビルモンスターの種をばら撒いた跳ねっ返りの運命神がこの世界を狙っているとは思えないが、何があっても良いように覚悟だけはしておいた方が良いのかもしれない。






 新月の館に帰って来ると、テーブルの上に大量の切り餅が出来上がっていた。


 その横では、七輪で餅を焼いて食べている面々が居る。


「お帰りなさいませカイト様」

「ただいま、ララさん」

「このお餅は、焼くとまた違った味わいでとても美味しいですね。カイト様もどうぞ」


 そう言って焼いた餅を手渡してくれたララさんだが、いったいどれだけ食べているんだ?

 アマンダさんやミウラさんもまだ食べているし、この世界の人の胃袋はどうなっているんだ?



「カイトくん、クーポン券が残っていたからこれも買っておいたの!!」


 レクスが差し出して来たものは、そのまま使える手間のかからないらっきょう酢だ。


「どうしたんだ?最近は良く気が利くなレクス」

「私は何時も気が利くの!気遣いの出来る女とは私の事なの!エッヘン!!」


 変な事で威張っているレクスを尻目に、俺はらっきょうを洗い、熱湯に浸けて水気を切り、殺菌の魔法を付与した瓶にらっきょうと、らっきょう酢を入れて赤唐辛子を放り込んだ。


 来週あたり、カレーを作ってみるかな……


 らっきょうを漬け終わった俺が辺りを見ると、お腹を押さえて唸っている者が居る中、フェルナンさんとララさんだけがテキパキと片付けをしていた。


「フェルナンさん、ララさん、片付けは少し休んでからでも良いですよ」

「いえ、休むとかえって動けなくなりそうですから、先に片付けてから休ませてもらいます。美味しいお餅を有り難う御座いました。カイト様」







『カイト、起きてカイト!!』


 翌日の早朝……まだ日も昇っていない薄暗い時間に、俺はサトミに起こされた。


「う〜ん何だ……サトミ……」

『起きて、カイト!』


 念話……か?


『何だ、どうしたんだサトミ?』

『あっ!起きた?お花が呼んでいるみたいだから、カイトも一緒に来て欲しいんだけど良いかな?』


 お花???なんの事だ……?夢でも見ていたんじゃないのか?


『言っておくけど寝ぼけてなんか無いからね!』

『わかった、わかった。直ぐに行くから待ってろ』


 取り敢えず新月のコートを羽織り、ドアを開けて部屋から出ると、サトミが廊下で待っていた。

 俺が起きて出て来た事を確認したサトミは、足早に階段を降りて玄関を出る。


 俺は何も言わずにサトミの後に続き玄関を出ると、サトミは門の外へと駆け出して行った。

 門の外は道を挟んで左側が川で、右には森がある。


 サトミは門を出て直ぐに森の中に入り、暫く行くと立ち止まり言った。


「カイト見て、光っているよ……」


 日が昇っていない森の中は暗いが、サトミが見下ろしている場所だけは、ほんわりと優しい光がまるで呼吸をするように明滅しながら足元を照らしている。

 サトミの横に立ち見下ろすと、地面に大きな葉が広がり、その中心にある大きな蕾が淡い光で明滅を繰り返している。


「サトミ、これはいったい何だ?」

「これはねカイト、金色(こんじき)ガチャ髑髏がドロップした種だよ。カイトが私にくれたから此処に埋めたんだよ」

「あ?ああ〜、あの時の種か……」

「忘れてたの……?カイトだもんね、あはははは」


 どうやらサトミは、あの時から毎日世話をしていたようだ。

 しかし、笑う事はないだろ?俺は覚えておく必要の無いものは、覚えておかないだけだ。


「どんな花が咲くんだろうね?」

「形状は茎が無く睡蓮っぽいけど、葉っぱの形が違うし、そもそも此処は土の上だからな」

「ふ〜ん、睡蓮って凄く綺麗なお花だよね。どんなお花が咲くか楽しみだね」



 ようやく日が昇ってきて森の中にも朝日が差して来た。

 そして、俺とサトミが見ている前で蕾がゆっくりと開き、睡蓮によく似た淡いピンク色の美しい花が開いた。


「しかし、あれだな……此処は異世界だし、意味ありげに光っていたし、サトミは呼ばれたんだろ?俺としては花が開くと花の妖精が出て来るのかと期待していたんだが……」

「うん、虫だね……イモムシ?」

「このイモムシがサトミを呼んだのかは疑問だが、花の中に居たわけだから一応育ててみるかサトミ?蝶々か、悪くても蛾にはなるだ――――――ッうわっ何だっ!?」


 イモムシが俺の顔に、いきなり糸を飛ばしてきた――――――――


「何だ、この糸!?ネバネバして取れないぞ!何で俺に糸を飛ばすんだよ……」

「あはははは!カイトが“蛾”って言ったからじゃないかな?」

「まさか言葉がわかるのか?」


 俺は顔に付いた糸を手で剥ぎ取り、手の平で丸めて投げ捨てようとしたが手にひっついて離れない。

 何度もブンブンと手を振っても離れないから、仕方なくアイテムボックスに入れた。


「まったく……何なんだ、このイモムシは……キナコの餌にしてやろうか?」

「キャッ!!」


 俺が餌にしてやろうかって言うと、いきなりイモムシがサトミの頭にジャンプして、髪の毛の中に隠れた。

 そして、頭だけを出して此方を覗っている。


「やっぱり言葉がわかるようだな。それに、何だかサトミに懐いているみたいだぞ」

「え〜?もぞもぞ動いて頭がくすぐったいよ」

「ヨシッ!そのイモムシはサトミに任せた!しっかりと面倒を見るんだぞ」



 イモムシを頭に乗せたサトミの手を引いて、俺は新月の館に帰って来た。


「もう少し寝れるかな……」




読んで頂きありがとうございました。

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