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第97話 カイトの王都滞在編〜餅つきだ!!

 昨夜見た夢は何だったのだろうかと考えていたが、夢は夢だと頭から切り離す事にした。


 考えても仕方が無い事、それよりも餅つきだ。





 新月の館の玄関前では、割引クーポン券を使って新界ルートで購入した、羽釜と蒸し器でもち米が蒸されている。


 そして、グラン特製のミスリルの臼に湯を張り、臼の横にはボールにぬるま湯を用意した。


 アマンダさん、ミウラさん、メロディーちゃんは、フェルナンさんとキョウヤとマークが運び出したテーブルの上に大量の取皿、餅とり粉、切り餅用のバット、のし棒、小豆あん、きな粉を並べている。


 その横では、俺がアイテムボックスから出したテーブルで、サトミとララさんが一生懸命に大根をおろしている。


「カイト、連れて来たぜ」

「やあカイト、俺達も交ざって良いのか?」

「当然だろビショップ。その代わり餅をつくのを手伝ってくれよ」


 エルに、ビショップとシェリーとヨシュアを連れて来てもらい、これで面子は揃った。


「サトミちゃん、私も手伝うわ」

「ありがとう、シェリーさん」



 そろそろ最初のもち米が蒸し上がっている頃だ。


「ヨシュア、手伝ってくれ」

「ウガ♪」

「ビショップは臼の中の湯をバケツに移してくれ」

「了解!リーダー」


 今はもうリーダーじゃ無いんだからやめてほしい……


 ヨシュアが蒸し上がったもち米を臼の中に入れる。

 そして俺は杵でもち米を素早く潰していった。

 本来ならこの作業は重労働なのだが、転生した身体だと微塵も疲れを感じない。


「良し、つくぞ!サトミは合いの手を頼む」

「うん、わかった!」


 最初はゆっくりと普通のペースでついていく。


「ハッ!」

「ハイ!」


 掛け声と共にペッタン、クルン、ペッタン、クルンと繰り返し、だんだんとスピードを上げていく。


「す、凄い……サトミちゃんの手が早すぎてみえません」

「カイトさんの杵も見えているのは残像ですよ、アマンダさん……」


 此処に居る全員が俺とサトミの餅つきを、目を見開いて見ている。

 凄いのはサトミだ。手水を付けて餅をひっくり返す作業を一瞬の内にこなしている。


「一つ間違えると、手を杵で潰されそうですね、あなた」

「そうだなララ。餅つきがこの様な危険な物とは思っても見なかったな」

「白いお餅が赤く染まりそうだね、お母さん」


 フェルナンさん一家が何か恐ろしい事を言っているぞ。

 普通のスピードに戻した方が良いかもしれないな……


「サトミ、皆んなの参考になるように普通につくぞ」

「うん、でももう良いみたいだよカイト」


 サトミが言うように、もう既に滑らかにつき上がっていた。


「ちょっと調子に乗り過ぎたな」

「あはははは、本当だね。こんなに早く出来上がったのは初めてだよ」


 日本で何度か餅つきをしたが、サトミの言うように、これ程早くつき上がる事は無かった。

 動体視力や反射神経等の身体能力が、常人の数倍優れている転生者ならではの事だろう。


「次はビショップ達がやってみるか?」

「ああ、是非やらせてくれ。楽しそうだ」


 ビショップとヨシュアが杵を持ち、交互に餅をつく。

 その合間にシェリーが餅を折り畳み、ひっくり返している。


 三人の息はバッチリ合っている。



 その後はキョウヤとミウラさんが杵を持ち、アマンダさんが合いの手を、フェルナンさんが杵を持ち、ララさんが合いの手、そしてメロディーちゃんが杵を持ち、マークが合いの手という組み合わせで餅をついた。

 マークよりもメロディーちゃんの方がパワーがあるらしい。


 皆んなワーワー、キャーキャーと楽しそうだ。



 代るがわる餅をつき、つきたての餅に小豆あん、きな粉、大根おろし、砂糖醤油を付けて食べる。


「美味しいです、美味しいです〜。はっ!?カイトさんそれは!?私もそれを食べてみたいです!!」


 俺が小豆あんを餅で包んで、きな粉をまぶして食べていると、アマンダさんがそれを見て、物凄い勢いで詰め寄ってきた。


「わかった、わかった。今からやって見せるからアマンダさんも自分で作ってみろ」


 餅を平たく伸ばして、その上に小豆あんを乗せて包み込む。

 そして湯に潜らせて皿に置き、きな粉をまぶして完成だ。


「出来ました!!はむ……もきゅもきゅ……ふわぁぁぁぁ美味しいです、これが一番美味しいです。何て贅沢な味でしょう……もう一個」

「食べ過ぎると太るぞ」

「はうぅぅぅ……走ります!後で草原を走ります!!ねっ!ミウラちゃん」

「はぐっ!?ゴホッゴホッわ、私も!?」

「そうミウラちゃんも。だから今日は沢山食べても良いんです!!」


 アマンダさんが開き直ったよ……

 メタボになっても知らないぞ……



 たった今、餅をつき終わったビショップ達が此方にやって来た。


「餅ってこんなに美味かったんだな」

「そうね、あの時カイトが作った餅とは天と地ほどの差があるわ」

「それは当たり前だシェリー」

「思い出すわ……あれは確か、ブルガリアでの作戦だったわね」

「そうそう、あの時はカイトが一斗缶とハンマーで餅をついたんだったな。その時はそれでも美味いと思ったが、これが本当の餅だった訳だ」

「ウガー♪ウガガー♪」

「あはははは!カイトってそんな事をしてたんだね」

「あの時はある物だけで作ったからな。そうか、美味いか?ヨシュア。まだまだ沢山あるから、いっぱい食べてくれ」


 あの後、俺達は胃もたれで動けなかったが、それも今では良い思い出だ。


「ララ、この大根おろしは上手いな、さっぱりしていていくらでも食べられそうだよ」

「あら?本当だわ……」

「お母さんが大根をおろしたのに、まだ食べて無かったの!?私なんか三個目だよ」

「メロディー、あなたは小豆あんときな粉も食べていましたよね?食べ過ぎてお腹を壊しても知りませんよ」


 フェルナンさん一家は大根おろしが気に入ったようだ。

 斯くいう俺も、大根おろしとポン酢で食べる餅は美味いと思う。

 甘い物を食べた後にはこと更だ。



「キョウヤの声が聞こえないが……」

「キョウヤ君ならあそこに居るよ、カイト」


 サトミが指差す方を見ると、きな粉と小豆あんの餅が山盛りに盛られた皿を抱えて芝生に座り、涙を流しながら食べている。

 イケメンが台無しだが、余程懐かしかったのだろう。

 思う存分食べてくれ、キョウヤ。


 そして、レクス達はと言うと、人目も憚らずに口の中に餅を放り込んでいる。

 その光景を、アマンダさんや、フェルナンさん達も目にしているが、特に何も思っていないようだ。


「レクスちゃん、これも美味しいですよ」

「アマンダさん、ありがとうなの!!」


 アマンダさんは、俺が教えた小豆あんを中に入れて、きな粉をまぶした餅を、何の疑問も持たずにレクスの口の中に入れている。

 ミウラさんや、ララさん、メロディーちゃんもそうだ。

 グラン、エル、マックニャンの口の中に、聖母のような微笑みを浮かべながら餅を入れている。


「もう、今更なんだろうな……」

「あはははは!レクス達は何でもありだからな、別に食べてもおかしくは無いって普通に思っているんじゃ無いか?」


 それならレクス達も、皆んなと一緒に食事が出来そうだな。



「ねぇカイト、マツリちゃん……もう少し居れば良かったのにね。食べさせてあげたかったな」

「あの時は、もち米が手に入るとは思わなかったからな。残念だが仕方が無いな」


 夢で見たマツリは元気そうで、家族仲も良いように見えた。

 所詮、夢は夢だが、それでも気持ち的には少し安心した。


「カイトくん、マツリちゃんなら新月の首飾りで召喚と送還が出来るけど知らなかったの!?」

「レクス!?何だそれは?俺は初めて知ったぞ」

「ワッハッハッハッハ!因みに念話も可能だぞ、カイト」



 そうか、だからマツリの送別会の時のレクス達は片手を上げるだけで、贈る言葉も無くあっさりとしたものだったのか……


「そういう事はマツリが帰る前に言えよな!」

「カイト、マツリちゃんを呼べるのなら呼ぼうよ!」


 俺はサトミに頷いて見せて、新月の首飾りに魔力を送り込んだ。


『マツリ、来い!召喚だ』

『えっ!カイト様!?』

『お前を此方の世界に召喚出来る事がわかったんだ。渡したい物があるし、取り敢えず一度来てくれるか?』

『はい、カイト様!喜んで行きますわ!!』


 目の前の空間が渦を巻くように歪んで、その中心が徐々に開いていく。

 そして、その中から数十匹の蝙蝠が現れて、マツリの姿へと変わった。



「カイト様!サトミお姉さま!お久しぶりですわ」

「いや、そんなに経ってないだろ。それよりも何だ、その格好は?」


 頭の上に、明らかに手作りっぽいカラフルなとんがり帽子を乗せた、ぽってりとしている白いネズミの着ぐるみを着ているマツリ。


「今日は、モンスターパレードのカーニバルで、街中を歩いて建国を祝うのですわ」

「そうだったのか、そんな日に呼び出して済まなかったな。だが、さっきも言ったように、お前をこの世界に召喚出来るし、念話も今まで通り出来る事がわかってな、今日は餅をついたからお前にも食べさせてやりたかったんだ。な、サトミ」

「そうだよ、凄く美味しいんだからマツリちゃんも食べて帰ると良いよ」


 サトミがマツリに小豆あんの餅と、きな粉の餅が乗った皿を手渡した。


「!!!美味しいですわ、美味しいですわ♪♪」


 マツリは大根おろしの餅にも手を伸ばし、美味しそうに食べている。


「マツリちゃんとまた会えるなんて嬉しいですね、カイトさん。テイムモンスターの証を貼っていると、テイマーとモンスターは切れない絆で繋がっているのですけど、まさか異世界に行っても絆が切れていなかったなんて驚きです」

「なるほど、そうだったのか」


 実際は新月の首飾りで召喚したんだが、もしかしたら、あの夢はテイムモンスターの証が見せたものかもしれない。


 マツリの妹が“チミドロ”という、ふざけた名前だとしたらだがな。




読んで頂きありがとうございました。

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