第94話 カイトの王都滞在編〜王都で朝市!?
「カイトくん、新月の腕輪に魔力を送ると、ゴーレムに命令出来るの!!」
「そうなのか?それならやってみるぞ」
新月の腕輪を右手首に嵌めた俺と、ビショップとレクスはゴーレムの前まで移動して、命令通りに動くかどうかやってみる事にした。
ローランドさんと竜の咆哮の三人は、俺達の行動を遠目に見ている。
ちょび髭貴族は馬車の中に居るようだ。
「ゴーレム、崩れた崖まで行って土に戻れ」
街道に土の山が出来ても困るので、崩れた崖でゴーレムを土に戻そうと思い、新月の腕輪に魔力を送ってゴーレムに命令するが、ゴーレムは座り込んだままで動かない。
「立て、ゴーレム!」
「動かないな、カイト……」
「立つんだ、ゴーレム!!」
ゴーレムが俺をジロリと睨んだ気がしたが、只それだけでゴーレムは立とうとしない。
「レクス、この新月の腕輪は俺には使えないんじゃないのか?ゴーレムは一向に動かないぞ」
「そんな筈はないの!カイトくんなら使える筈なの!!」
レクスはそう言っているし、新月の腕輪は光っている。
だが、感覚的に命令が伝わっているのはわかるんだが、何故かゴーレムは動かない。
「カイト、魔力が足りないんじゃないか?」
「そうか、それなら……」
新月の腕輪に送る魔力を倍にしてゴーレムに向って命令する。
「立て、ゴーレム!」
――――――――――だが、動かない。
更に倍の魔力を送り命令してみる。
「立ち上がれ、ゴーレム!」
――――――――――これでも動かない。
何で動かないんだ?もう既にかなりの魔力を新月の腕輪に贈ったぞ……
腕輪が放つ光も増しているのに……
「立て、ゴーレム!……立つんだ、ゴーレム。―――――――――あ~もうっ!!立って下さいっ!ゴーレム様っ!!」
ゴーレムの頭が動き、顔を俺に向けて来た。
「動いたぞカイト!」
「……」
「カイトくん、もう一回命令してみるの!」
「……」
何だ、このゴーレム……?命令じゃなくて、お願いしないと動かないのか?
「カイトくん?」
俺が考えていると、レクスが心配そうに新月のコートの裾を引っ張っている。
「ああレクス、何でもない。少し考えていただけだ。もう一度やってみるぞ」
俺は今一度、新月の腕輪に魔力を送り、今度はお願いしてみる。
「ゴーレム様、崩れた崖まで行って土に戻って下さい。お願いします」
すると、重い腰を上げるようにゴーレムが立ち上がり、やれやれといった感じで溜息を吐いて歩き始めた。
レクスとビショップもゴーレムの特性が分かったのだろう、崩れた崖まで歩いているゴーレムの背中を見る目がジト目になっている。
「あれだなカイト、この新月の腕輪は使い勝手が悪そうだな……」
「ああ、この新月の腕輪を渡された転生者には同情するよ」
ゴーレムが土に戻り、俺とビショップと竜の咆哮の三人が街道に散乱している土とゴブリンの死体を片付けて、街道は元の通りに通行出来るようになった。
ちょび髭貴族は我先にと、さっさと馬車を走らせて行った。
俺とビショップはローランドさんの馬車に同乗させてもらい、王都まで帰る事になった。
そして、竜の咆哮の三人は、盗賊を捕まえた褒賞金で買った馬に乗っている。
「またカイト君に助けてもらいましたね」
「これはギルドからの依頼ですから、ローランドさんは気にしなくても良いですよ」
「そうですか……しかし、何かお礼がしたいですね。それにしても、お陰様で明日の朝市に間に合いそうで良かったです」
「朝市があるんですか?」
「ええ、明日の日の出とともに、王城前の広場で月に一度の大きな朝市が開かれるのですよ。各地から商人が集まって来ますからね、珍しいものがあったら仕入れようと思いましてね」
「そうですか、ルトベルクの朝市では掘り出し物を見つけましたからね、俺も行ってみようと思います。そうだ、この情報をお礼に頂きますよ」
「えっ?こんなもので宜しいのですか?」
「ええ、俺にとってはこの上ない情報ですからね」
「カイト君がそう言うのであれば仕方がありませんね。その代わり、今度ザルクに来た時は私のお店に来て下さいよ」
翌朝俺はサトミと一緒に、王城前の広場で開かれている朝市にやって来た。
ルトベルクの時よりも規模の大きな市が立っていて、物凄い活気に溢れている。
「うわー、凄いねカイト」
「何か欲しい物があったら遠慮なく言うんだぞ」
「うん、ありがとう」
呼び込みの声、買い物客と店主のやり取りの声、石畳を歩く馬やロバの蹄の音と荷車のゴトゴトと鳴る音。
そして人々の雑踏やざわめきが、まるで耳鳴りのように聞こえて来る。
野菜、果物、肉等はアイテムボックスに大量に入っているが、この世界に来て初めて見る野菜や果物を売っている店があった。
「いらっしゃい、どれも美味いぞ。まあ見て行ってくれ」
「サトミ、みかんがあるぞ」
「此方には柿もあるよ」
「このみかんは甘くて美味いし、柿も食べ頃だぞ」
見た目は日本の物と比べても然程遜色の無い、みかんと柿が山盛りに積まれている。
「そうだな……みかんと柿を全部買っても構わないか?」
「それは良いが、早く食べないと腐っちまうぞ」
「ああ大丈夫だ。それと、西瓜とメロンも全部だ」
季節がバラバラなのは異世界だからなのか、このおじさんが凄いのか分からないが、みかんが手に入ったのは正直言って嬉しい。
「大好きなみかんが沢山買えて良かったねカイト」
「サトミが好きなメロンも沢山あるからな」
隣の野菜を売っている店では、牛蒡と蓮根と水菜を、あるだけ購入すると、ずた袋にいっぱいのらっきょうをサービスしてくれた。
「これはもう売れる見込みが無いからね、嫌いじゃ無かったら食べておくれ」
「ねえカイト、これは何?」
「これはらっきょうだ。土が付いているから分からなかったか?」
「そっか、私は甘酢漬けになっているらっきょうしか見た事が無いから分からなかったよ」
「帰ったらララさん達と一緒にらっきょう漬けを作ろうな」
店主のおばさんは、俺とサトミの話をニコニコして聞いていた。
「こいつの食べ方を知っているようで何よりだよ。沢山買ってくれてありがとね」
おばさんにお礼を言って、サトミと二人でキョロキョロしながら人混みの中を歩く。
食料品ばかりでは無く、衣服や調理器具、武器、防具、装飾品等の様々な露店が所狭しと立ち並び、中々に目を楽しませてくれる。
「凄い活気なの!」
「ワッハッハッハッハ!迷子になるなよ」
「迷子になんかなる訳が無いぜ」
「レクスさん、ちゃんと前を見て歩くニャン」
いつの間にか俺とサトミの後ろをレクス、グラン、エル、マックニャンが付いて来ていた。
「他の人の邪魔にならないようにしろよ」
「うん、カイトくん!わかった!!」
子供達の声が聞こえて来て、そちらの方を見てみると、飴細工の露店に沢山の子供達が集まっていた。
「カイト、懐かしい飴があるよ」
ぐるぐると渦を巻いたカラフルな色の飴が大量に売られている。
所謂ペロペロキャンディーだ。
そのペロペロキャンディーは台の上に大量にあるのだが、店主は同じものをひたすら作り続けている。
「いらっしゃい、一つどうだい?」
俺を見た店主が声を掛けて来たが、まさか子供に見えた訳ではないだろうな……
「そうだな、一つでは足りないな。この子達に一つずつと、残りを全部良いか?」
「この子達にまで良いのかい?」
「ああ、子供は宝だからな」
「わしから見たらお前さんも子供のようなもんだがな、ワッハッハッハッハ」
子供達にペロペロキャンディーが行き渡ると、俺とサトミとレクス達に一つずつ配り、残りはアイテムボックスに入れておく。
レクス達はペロペロキャンディーを、大きく開けた口の中に入れていた。
神界に居る本体が食べるのだろう。
「さあ出すである!我輩は見ていたであるぞ!」
ペロペロキャンディーを舐めながら歩いていると、何処かで聞いたことのある声が聞こえて来た。
「何をだよ!離せよ!俺は何もやってねぇぞ!!」
「はっ!?わ、私の財布が!!」
「そこで待っているである。今この男を締め上げるであるからにして」
はぁ……また巻き込まれているよ……
「ローランドさん……と微笑み4番のおっさん?」
「カイト君!?わ、私の財布が!!」
「カイト殿、その微笑み4番とは何であるか?」
「そんな事よりも、その男はスリなのか?」
「そ、そんな事!?あっ、いや……そうである。確かにこの目で見たであるぞ」
「そんな細い目で何が見えるんだよ!俺は知らねぇって言ってるだろが!ヘラヘラ笑ってねぇで離しやがれ!!」
「我輩は笑ってなどいないのである」
(コンセ、調べてみてくれ)
(左胸の内ポケットにローランド商会のマークが付いている財布があります。他のポケットにも種類の違う財布が入っていますよ)
「微笑み4番のおっさん、その男を衛兵の詰所に連れて行って、左胸の内ポケットを調べてもらったらどうだ?それともお前、此処でローランド商会のマークが付いている財布を返したら、俺は見逃してやっても良いぞ」
「ちっ、返せば良いんだろ、返せば!」
スリの男は左胸の内ポケットから、ローランド商会のマークが付いている財布を出して、ローランドさんに投げ渡した。
「これで良いんだろ!?見逃してくれるんだろな?」
「ああ、俺は見逃してやるぞ。微笑み4番のおっさんはどうする?他にも盗んだ財布を持っているようだが?」
「何と!?他にもであるか?ならば我輩は見逃す訳にはいかないであるぞ」
「そうか、残念だったな」
俺はスリの男に残念そうな顔をして言ってやった。
「えっ!?あっ!お前、卑怯だぞ!」
「俺は見逃すと言ったからな、見逃してやるよ。じゃあな、微笑み4番のおっさん。ローランドさんもまた会いましょう」
「カイト君、ありがとうございました。ええ、また会いましょう」
「何であるか?微笑み4番……?我輩の名は……」
微笑み4番のおっさんが、何かブツブツと言っているようだが、俺はサトミとレクス達を連れて、さっきから気になっていた匂いのする露店に向って歩き始めた。
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