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第92話 カイトの王都滞在編〜マツリの送別会

今回は、前半と後半の視点が変わります。

中盤は主人公の視点です。

「おや?バフォメットの気配が消えましたね……まさか、殺られた訳では無いと思いますが、少々気になりますねぇ」


 此処は、とある世界の次元の狭間。


「ベルゼブブでも送ってみますか……あの世界は、珍しく創造神がいない世界ですからねぇ、是が非でも手に入れたいものです。クックックックック」


 痩身の男が額に人差し指を添えて、ブツブツと独り言を言っている。


「クレマン、そこで何をしているんだい?」

「ベランジュール様、少し気分が優れなかったので、休んでおりました」

「そう?何やらブツブツと言っていたようだけど、大丈夫なのかい?」


 ベランジュールはクレマンを心配しているようだ。


「ええ、もう大丈夫です。ベランジュール様」

「それなら良いのだけど、そろそろデビルモンスターの種が無くなりそうだから出してくれるかい?」

「はい、ベランジュール様。それにしてもこの世界は存外に楽しめましたね」

「そうだね、やっぱり強い人間が居る世界は面白いね」

「強い者が居ないと我々がデビルモンスターを倒さなくてはいけなくなりますからね」

「次は初めて行く世界だけど、楽しみだな」


 そう言って、デビルモンスターの種をクレマンから受け取ったベランジュールは次元の狭間から出ていった。


「私があの世界に行くにはまだ暫くかかりそうですねぇ……ベルゼブブ、バフォメットの様子を見て、必要なら手伝いを頼みますよ。クックックックック」


 額に人差し指を添えていたクレマンは、顔を上げるとベランジュールの後に続き、次元の狭間から出ていった。


 





「確か、この世界だった筈ですが……海ばかりで、全く陸地が見えませんし、バフォメットの気配も感じませんな」


 蝿の頭をポリポリと掻きながら、背中の羽を忙しく動かして大海原を飛んでいる、タキシードを着た太ったおっさんが、バフォメットを探しに来たベルゼブブだ。


「参りましたね、私はどうやら来る世界を間違ったみたいですな。フォッフォッフォッフォッフォ」


 その通り、彼は来る世界を間違ったのだ。

 笑っている場合ではないぞ、ベルゼブブよ。


「はてさて、ただ世界が違うだけなのか、それとも次元からして違うのか……そこから突き止めないといけませんね――――――うおっ!?」


 ベルゼブブが首を傾げながら思案していると、海の中から巨大な魚が、牙の生えた大きな口を開けてベルゼブブに襲いかかって来た。


 素早い動きで、巨大魚の牙を避けたベルゼブブは、持っていた三叉の槍を腹に突き刺した。


「少々驚きましたが、良い食料が手に入りました。フォッフォッフォッ!何処か陸地を見つけて食事にしましょう」


 そう言ってベルゼブブは魚が刺さった槍を持って、陸地を求めて飛んでいった。


 ベルゼブブがバフォメットの居る世界に辿り着くのは、まだ当分先の事になりそうだ……





**********





 俺のAランク昇格祝いの二日後、マツリの送別会を開く事になった。

 もう、すっかりと昏い感情が抜け落ちたマツリは、ジョニーから餞別として、10匹のGを譲り受けホクホク顔になっている。


 テーブルにはララさんの心尽くしの料理が並び、サトミから枯れないという花束を、キョウヤからはダンジョン産の宝石箱を、ビショップとシェリーとヨシュアからは、マツリによく似合う赤い宝石のペンダントを、そして俺からは神界ルートで購入した真珠のブレスレットを贈られ、きょとん顔のマツリ。

 どうやら、この世界とマツリの世界には、送別会や餞別といった風習は無いようだ。

 ララさんに送別会の料理をお願いした時もきょとん顔をしていた。


「こんなに贈り物を頂いたのは初めてですわ。ありがとうございます」

「マツリちゃん、向こうの世界に帰っても元気でね」

「はい、サトミお姉さま」

「何だか寂しくなるね」

「そうだな、付き合いは短いが楽しかったよな」

「マツリちゃんはムードメーカーだったからね」

「ウガー♪」

「キョウヤさん、ビショップさん、シェリーさん、ヨシュアさん……」


 マツリが、しんみりモードになってきた。


「マツリ、悲しい顔はお前らしく無いぞ」

「そうですわね、カイト様……あっ、そうでした」


 マツリは胸の谷間から炎の槍を出して、俺に手渡そうとする。


「この槍をお返ししなくては……」

「マツリ、その炎の槍はお前が持っていろ。それはもうお前の物だからな」

「カイト様……あ、ありがとう……ございま……す」


 マツリは限界が来たようで、炎の槍を抱きしめて大粒の涙を零している。


『ガンバレマツリ』

『シッカリシロ、マツリ』


 炎の槍の石突に付いているモアイ像が、俺の声でマツリを励ましている。


「その変な物も付いているしな……」





 新月の館の大ホールに、ダンジョンで手に入れた、元の世界に帰る事の出来るマジックアイテムを出して、マツリを送り出す準備は整った。


「マツリ、お前がその蓋を開けると、お前が居た元の世界に繋がる筈だ」


 未だ涙で頬を濡らしているマツリが箱の蓋を持ち上げると、中から光が溢れ出した。

 そして徐々に光りが和らいで来ると……

 

「あ、あの草原は……」


 箱の中を覗き込んだマツリが、震える声で言った。


「どうしたんだマツリ?」

「あの草原は、私がお昼寝をしていた草原ですわ。あの町も……あの青い屋根が私の家……カイト……様、サトミお姉……さま」


 再び大粒の涙を流し始めたマツリ。


「良かったねマツリちゃん。これで帰れるね」

「サトミお姉さまぁぁぁ」


 サトミに抱き付き号泣するマツリ。

 箱に入り、元の世界に帰ると、二度と会うことが出来ないのがわかっているから、別れが辛くなるのだろう。

 サトミも目に涙を溜めて、マツリを抱きしめている。


「マツリちゃん笑って……皆んなマツリちゃんに笑顔で帰ってもらいたいと思っている筈だよ」


 サトミの言葉でマツリは、先ず俺を見た。

 俺も自分で目が潤んでいるのがわかっていたが、笑顔を作って頷いた。


「元気でな……マツリ」

「はい……カイト様……」


 次にマツリは、俺の隣に居たアマンダさんとミウラさんを見る。


「私達の事……忘れないでね」

「私達もマツリちゃんの事、忘れないよ」

「絶対に忘れない……ですわ」


 二人とも既に涙で頬を濡らしていたが、笑顔で言葉を贈る。


 フェルナンさん、ララさん、メロディちゃん、マークを引きつった笑顔で見るマツリ。


「マツリ様、どうかお身体に気を付けて」


 ララさんが代表で言葉を贈り、四人は深くお辞儀をした。


「フェルナンさん、ララさん、メロディちゃん、マークさんも……お元気で……」


 そして、ビショップ、シェリー、ヨシュアを見るマツリ。

 何時もの笑顔が戻っている。


「うん、その笑顔だ」

「幸せを願っているわ」

「ウガー♪」

「はい、ありがとうございますですわ」


 マツリは帰還の箱(今、名付けた)に向き直り中を覗き込む。


「さようならですわ」


 そして再び俺達を笑顔で見て、箱の中に飛び込んだ。


「さようなら、マツリ……」




 俺達は暫くの間、蓋が閉じた帰還の箱を見ていた。




**********




 マツリは元居た草原に降り立ち、辺りを見渡す。


「うふふ、帰ってきましたわ。皆んな変わらず元気でしょうか?……私の事を忘れていたらどうしましょう……」


 元居た場所の、元居た時間に帰る事の出来る“帰還の箱”で帰って来たマツリが要らぬ心配をしているが、此処には誰もつっこむ者は居ない。


 ジョニーから譲り受けたGの入った虫籠を片手に、草原を、そして街の中を自分の家に向って走るマツリ。


 マツリの家は、街を抜けた高台にある、青い屋根の大きな屋敷である。

 父親が領地を管理する伯爵だけあって立派な屋敷に住んでいる。


「ただいま帰りましたわ。お母様」

「あらチマツリ、お帰りなさい。今日は早かったわね」


 マツリの母親は、マツリに良く似ていて、美人で若々しい。


 母親の言葉を聞いたマツリは、カイトから聞いていた元居た場所と時間の事を思い出したのか、納得顔をしている。


「お姉さま、お帰りなさい」

「お帰り、チマツリ」

「ただいまですわ!お祖母様、チミドロ」


 マツリと母親がリビングに入ると、祖母と妹がソファーに座ってボードゲームをしていた。

 マツリの祖母も若々しくて美しいのは、バンパイア故である。

 妹のチミドロは、まだ発育途上だが、祖母、母親、そして、姉であるマツリを見ると、将来はきっと美人になるであろう。


「お姉さま、その虫籠の中のかわいい虫は何ですか?」

「見た事の無い虫だね。ツヤツヤとして綺麗だね」

「それに生命力に溢れ、機能的な身体をしていますわ」

「チミドロ、お祖母様、お母様、この虫は“G”と呼ばれていましたわ。私がこの世界に帰る前に、こーんなに大きな“G”のジョニー様に譲って頂きましたの」


 マツリは両手を大きく広げて説明をしたが、祖母も母親も妹も、訳が分からずキョトン顔である。


 マツリよ、順を追って話さないと、誰にも理解出来ないぞ。



「私が草原でお昼寝をしていると……」


 マツリは母親と妹、そして祖母に、異世界に転移した事、ダンジョンの中で目覚めた事、カイトとサトミに出会って一緒にダンジョンを冒険した事、楽しかった馬車の旅に美味しい食事、ルクレールでのデビルモンスターとの戦いと、王都でのバフォメットとの戦い、楽しかった掃除の依頼に、王都で出会った白ネズミのおばあちゃん、カイトの昇格試験の様子、そして、テイムモンスターの証を優しく撫でながら、カイトのテイムモンスターになった事を話し、最後に帰還の箱で帰って来た所まで話して聞かせた。

 母親と祖母は吃驚したり、目を細めて楽しそうにしたりで、うんうんと頷きながらマツリの話を聞き、妹のチミドロは目を輝かせ、身を乗り出してワクワクしながら聞いていた。


 とても良い家族である。


「凄いですお姉さま!私も行きたいです!」

「無理ですわチミドロ。もうあの世界に行く事は……カイト様やサトミお姉さまとは、二度と会えないのですわ」


 マツリは瞳を潤ませながら、テイムモンスターの証を撫でている。




読んで頂きありがとうございました。

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[一言] 妹さんの名前がチミドロ・・・(´・ω・`)
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