第90話 カイトの王都滞在編〜ランクアップ試験!?④
「次の方が最後になります。Sランク冒険者のお二人が闘技場に戻り次第開始しますので、7番の方は準備をしておいて下さい」
拡声のマジックアイテムの放送を聞いた俺は準備の為に控室に向かった。
とは言っても、差し当たって準備するものなんて無いのだがな。
此処に居るのは、レクス、グラン、エル、マックニャン、そしてサトミとマツリだ。
とりあえずお茶を出して飲む。
「そろそろ始まりますよ。準備は良いですか?」
俺達がベンチに座ってくつろいでいると、ギルド職員が呼びに来た。
「来たな7番、聞く所によるとお前はドールマスターでありながら、モンスターテイマーでもあり、更に自身も戦えるそうだな」
熊男がレクス達やサトミとマツリを見ながら、感心したように話しかけて来た。
「この試験はお前の力量を見る為のものだからな、遠慮は要らん、出せるだけの戦力を出しても良いぞ」
「それで、7番のあなたは私達のどちらと戦いたいのかしら?」
虎獣人の問に俺は少し考えたが、どちらが相手でも変わらない。
「俺はどちらでも良いぞ、なんなら二人一緒でも構わない。これは勝敗を決める戦いでは無いからな」
「確かにそうだ。それなら俺達二人がお前がAランクに昇格しても大丈夫か見極めてやろう」
「俺としてはランクにこだわりは無いが、やるからには合格させてもらうぞ」
「良いわね、その負けず嫌いな所は気に入ったわ。それでは始めるわよ」
熊男と虎獣人は一旦後ろに下り距離を取る。
俺もスペースを開けるために、後ろに下がった。
「最初から飛ばして行くぞ」
俺はアイテムボックスからスケルトンとスケルトンバードを全て出した。
カタカタカタカタ――――――――
音を立てて組み上がっていく大量のスケルトンとスケルトンバードを、口をあんぐりと開けて見ている熊男と虎獣人。
「何だ、あれは……?彼奴は魔王にでもなるつもりなのか?」
何処かで聞いたセリフだ……
剣や盾を持って陣形を整えていくスケルトン、そして空で旋回飛行をしているスケルトンバードを見て、更に距離を取るSランク冒険者の二人。
「ダイフク!キナコ!ワラビ!」
そして、俺はポケット草原で遊んでいるダイフクとキナコとワラビを呼んだ。
『来たよカイト』
「ポポー!」
「ヒヒヒーン」
「カイトよ、別に暇なわけでは無いが我も来てやったぞ」
何故か地竜まで出てきたけど、テイムモンスターではないが良いのかな?
余程暇だったのだろう。
「おいおい、地竜だと!?」
「それにホワイトパイソンも居るわ」
まず始めに、スケルトンとスケルトンバードの攻撃だ。
はっきり言って、スケルトンもスケルトンバードも弱いが、なんと言っても数が多い。
Sランク冒険者には一太刀も浴びせられないが、バラバラに砕かれても直ぐにカタカタと再生するから折り紙付きの面倒臭さだ。
スケルトンバードの口から放たれる超音波の衝撃波も威力は弱いが、鬱陶しい。
「あー、面倒くせー」
「まったく、切りが無いわね」
「ポポー!」
ズドドドドドド
「な、何だこの威力の風の刃は?しかも一度に6発だと?ラージピジョンだよな、あれは?」
熊男はバトルアックスでキナコの風の刃を受け止めて驚愕している。
そして、虎獣人のもふもふの耳がピクリと動き、その場を飛び退く。
今まで虎獣人が居た場所に、ブレスが通り過ぎていった。
「えっ!?馬がブレス?」
「ヒヒヒーン」
ワラビは虎獣人に駆け寄り、後ろ足で蹴り飛ばすが、虎獣人はそれをガードして、ワラビの横に移動し拳を放った。
しかし、拳よりも速い速度でワラビは宙を駆けて回避し、炎を纏った礫の雨を降らせる。
「空を駆けている?馬じゃないの?!それに何これ、魔法!?」
炎の雨を躱しながら、虎獣人が叫んでいるが、俺も吃驚だ。
さしずめ、縮小版のメテオと言ったところか……?
「ワラビ……この世界の馬は凄いな」
「アハハハハハ、カイト、私達も戦うよ」
サトミは腕を棘蔓に変えてスケルトンの間を走り抜けて行き、マツリは胸の谷間から炎の槍を出し、背中から蝙蝠の翼を出して飛んでいった。
『ソノチョウシダ、マツリ』
「フフン♪」
『ガンガンイクゾ……』
サトミはスケルトン達の中で足を止め、腰の木刀を地面に刺し、周りには何時もの大輪の花を咲かせている。
そして、地面に刺した木刀が光り、みるみるうちに巨大なトレントになった。
綺麗な大輪の花に囲まれて、美しいドリアードが巨大なトレントを背に、棘蔓に変えた腕を蠢かす。
更に葉っぱを巻き上げて飛ばし、花の蔓が伸びていく。
そして、周りには大量のスケルトンが、上空にはスケルトンバードがサトミを守るように旋回していた。
「何だか凄い絵面だな、レクス」
「とっても綺麗なの、カイトくん!」
「相手はSランクだ、グランはマツリに、エルはサトミに付いてやってくれ」
「ワッハッハッハッハ、任せろカイトよ」
「了解だぜ」
「マックニャンはワラビと合流だ」
「わかったニャン」
ハンマーを持ったグランがマツリの後ろに付き、エルがトレントの枝に座り、マックニャンがワラビの背に乗ったのを見届けて、俺とレクスはダイフクの頭の上に移動した。
「サンダーバードなの!!」
「キュロロロロー」
レクスがサンダーバードを出して、俺がライトニングショットを撃とうとした時、突然目の前の空間が歪み、中からバフォメットのバフォちゃんが現れた。
サンダーバードがバフォちゃんの頭上を掠め、ライトニングショットが耳元を通り過ぎていく。
「―――うわわっ!あぶなっ!コラッ!いきなり何をする!?」
「いや……いきなり現れたのはバフォちゃんだからな。俺達は今、戦闘中なんだぞ」
「やはり、その魔力は貴様だったようだな、怪しい仮面の男よ」
「その呼び名はやめろ。俺の名はカイトだ」
「そうか、わかった。カイト君だな、覚えたぞ。見た所、どうやら魂をすり減らしていないようだな。フフフ……まあ良い、今此処で貴様の魂を縛り付けてやるとしよう」
「だから、俺達は今戦闘中なんだ。邪魔だからあっちへ行ってろ」
俺は、観戦席を指してバフォちゃんに行くように言ったが、どうやら聞いてくれそうに無いようだ。
バフォちゃんが腕を一振りすると、スケルトンとスケルトンバードが全てバラバラになって、空を飛んでいたマツリとキナコは地面に落とされた。
Sランクの二人も飛ばされたようで、地面に転がっていた。
無事なのは背後をトレントに守られていたサトミとエル、グランとマックニャンとマックニャンが乗っていたワラビ、そして身体の大きな地竜だけだ。
俺とレクスとダイフクは、バフォちゃんの攻撃の範囲外に居たので勿論無傷だ。
「ハハハハハ、これで戦いは終わったぞ。次はカイト君、貴様の魂を縛り付けるだけだ。ついでにここに居る奴ら全員も後から縛り付けてやるとしよう」
「全く、自分勝手過ぎるぞバフォちゃん!!何故お前はこんな事をするんだ?」
「フフフ、ハハハハハ何故かって?それはこれが私の仕事だからだ」
「そんな人を傷つけるような仕事なんて辞めるんだ」
「邪悪な我ら悪魔が人を傷つけて何が悪い?寝言は寝てから言う物だぞカイト君。フフフ……気が変わった、まずは観戦席に座っている奴らの魂を縛り付けるとするか。それを見ながらお前は魂をすり減らすのだフフフ、ハハハハハ」
「レクス、スタン!マックスでだ」
「はいなの……スタン、マックスなの!!」
レクスのスタン(マックス)が、バフォちゃんに直撃する。
幾らバフォちゃんが強くとも、魔法神であるレクスのスタンをレジスト出来る筈も無く、盛大に痺れている。
「あばばばばばばぁぁぁばびぼぶぶ!?」
「あ?何を言っているかわからないぞ……なに何?私を縛って下さいだと?良いだろう、望み通りにぐるぐる巻きにしてやる」
バフォちゃんは、あばあば言いながら首を横に振っているが、俺はお構いなしにアイテムボックスから丈夫なロープを出して、何重にも何重にもぐるぐる巻きにした。
「どうだ、これで満足か?」
「ばべぼぼぼばぼぅぅぅ」
「そうか、それならそこに正座しろ」
バフォちゃんは目に涙を浮かべながら、俺の足元に正座した。
「良いか?お前は魂をすり減らすだの、魂を縛り付けるだのと簡単に言っているがな、そういった事は例え神様でもやってはいけない事だ。お前は、罪もなく幸せに過ごしている人達の自由を奪って奴隷にするとか言っているがな、お前がその立場になったらどう思う?辛いだろう?悲しいだろう?人に限らずお前達悪魔もそうだが、魂や命というものはな、一つとして同じ物の無い尊いものなんだ。わかるか、バフォちゃん?」
「あばばばばばばぁぁぁ……ぶっ!」
バフォちゃんは俺に唾を吐き掛けてきた。
尤も痺れ過ぎて、上手く吐けて無かったが、反省の色が全く無い。
「そうか、お前には何を言っても無駄なようだな……ジョニー!!」
俺がジョニーを呼ぶと、直ぐに4匹の巨大なGを引き連れて飛んで来てくれた。
「ハイな、カイトはん。呼んでもろうて嬉しいなぁ。もっとぎょうさん、わいらを使うてえな」
「あばばびばばびばばぼばびぃぃぃ」
ジョニーの姿を見たバフォちゃんは、目に涙を溜めて首を横に振っている。
「そうか、そうか、そんなに嬉しいのかバフォちゃん?なんなら、ジョニーのお家にお泊りしても良いんだぞ」
「びばばびばばぁぁばぶべべぶべぇぇ」
「ほう……そんなに楽しみなのか?良かったなバフォちゃん、ジョニーが連れて行ってくれるそうだぞ」
バフォちゃんをぐるぐる巻きにしたロープの先を輪っかにして、ジョニーの頭に通した。
「それじゃジョニー、地下の客室にご案内だ」
「は、はいな……ほ、ほな行くさかい……」
首から下げたバフォちゃんを連れて、ジョニーと4匹の巨大なGは空の彼方に消えていった。
読んで頂きありがとうございました!