第9話 カイト、屋台を出す
昨日に引き続き投稿します。
「いらっしゃいませ、カイトさん」
俺は今、商業ギルドに来ている。
「アマンダさん、食材を見せてもらいたいのですが」
「わかりました。それでは、ご案内しますね。こちらです」
商業ギルドの隣の建物に案内されて、中に入ってみるとスーパーマーケットのようになっていた。
「ご自由にご覧下さい。ギルドカードが無いと此処で買うことは出来ませんし、お買い物をされた時は、ギルドカードを提示して下さると貢献度ポイントが付きますのでお忘れなく」
「はい、ありがとうございました」
店内を見て回ると、肉、野菜、乾物、ハーブ、調味料、食器、紙袋などの品が並んでいた。
貨幣価値は俺の感覚で、金貨1枚が1万円、銀貨1枚が千円、銅貨1枚が百円、半銅貨1枚が10円、小銅貨1枚が1円だ。金貨以上も有るようだが、一般には出回っておらず見たことが無い。
それを考えると此処はかなり安くなっているから卸売りなんだろう。
何を作って売るかまだ決まって無いので、適当に幅広く買う事にした。
お目当ての物も有ったので迷わず購入した。
アイテムボックスに入れておけば、新鮮なままだからな。
川のせせらぎ亭に戻り、ジェロさんから、屋台で出す料理の研究をしたいからと、裏庭を使う許可を貰って屋台をアイテムボックスから出す。
「何を作ろうかな、って言ってもレパートリーはそんなに多く無いからな」
「カイトくんの食べたい物を作れば良いよ」
「そう言えば、此方に来てから揚げ物を食べて無いよな……良し、あれを作ろう」
商業ギルドで買ったラードっぽい物をフライパンに出して火に掛けると、
みるみる内に溶けて、液状になった。
「これはオークの脂かな?使えそうだ」
じゃがいもの皮を剥きスティック状にカットして、水に浸してアクを抜き、水から上げておく。
パンを、おろし金ですりおろしてパン粉にする。
オーク肉と玉ねぎを一口大にカットして串に刺して塩で味付けしたら、小麦粉と溶いた卵とパン粉で衣を付ける。
「レクス、グラン、ポテトから揚げて行くぞ」
「カイトくん、私ポテト大好きだよ!」
「酒を持って来るぞワッハッハッ」
俺は今、商業ギルドの裏に有る広場に、アマンダさんと来ている。
かなりの台数の屋台が置いて有るが、レンタル用かな?
「此処に屋台を出します」
アイテムボックスから屋台を出した。
「何ですかこれは、これが屋台ですか?」
目を輝かせて、屋台を見ているアマンダさんに調理を始める事を告げる。
なんでも、売り物になる物がちゃんと出来るか、おかしな物は使われてないか、技術的に問題ないか等のチェックをする為に、ギルド職員の前で最初から調理をするそうだ。
じゃがいもを切って水に浸す事から始める。
アマンダさんが、首を傾げているが気にしない。
「何をしているのですかカイトさん、オークのラードをそんなに入れて!」
「これで良いんですよ。見ていて下さい」
出来上がったフライドポテトと串カツを対面の丸椅子に座ったアマンダさんに渡す。
「何ですかこれは?こんな物は初めて見ます。取り敢えず試食しますね」
「熱いから気を付けて下さい」
何ですかこれは?をリピートしながらも、フライドポテトを食べる勢いが止まらない。
Mサイズのポテトがあっと言う間に無くなった。
アマンダさんは悲しそうな顔をするが、これは試食だ。
フライドポテトの入っていた袋を名残惜しそうに見ながら、串カツをかじる。
サクッと音が聞こえそうだ。
「何ですか、このサクサクは?お肉も柔らかくて、甘いのは玉ねぎですね」
「此方には油で揚げた料理は無いのですか?」
「この辺りでは聞きませんが、もしかしたら王都ならあるかもしれません」
そうか、王都に行くのが楽しみだ。
「そうだ、これは屋台では出しませんがデザートにどうぞ」
プリンをアイテムボックスから出してアマンダさんに手渡す。
「何ですかこれは?」
「プリンと言うお菓子ですよ」
プリンを一口食べたアマンダさんの顔が……見なかった事にしよう。
「個人的にはフライドポテトをおすすめします。あれは、食べ始めると止まりません」
「価格はどうすれば良いですか?」
「じゃがいもは安いですけどラードは高いですから……私が食べた量で銅貨2枚、1・5倍で銅貨3枚が良いと思います」
「わかりました。それで行こうと思います」
「カイトさん、プリンを屋台で出す事は難しいですか?」
「あれは、手に入りにくい材料を使ってますから。どうしてもって言うなら劣化版ならできますけど……」
「何時でも構いませんから、その劣化版を作ってみて貰えませんか?」
卵と砂糖とミルクなら商業ギルドに売っているから出来なくも無いか。
アイテムボックスから串カツを出して食べながら、冒険者ギルドに入って、クエストボードを見る。
面白そうな依頼が無いな。
「カイトよ、あそこを見てみろ、護衛依頼が有るぞ」
馬車5台による商隊の護衛で、商業の街ルトベルクまでの往復。
募集人員8名まで、報酬が1人金貨5枚、食料、テントなどは各自持参。出発は3日後早朝か。
「カイトさん、依頼の受注ですか?」
「はい、3日後の護衛依頼は受けられますか?」
「はい、大丈夫です。今回は何故か集まりが悪くて少し困っていました。現在、3人組のパーティーが1組だけ受けております。カイトさんがこの依頼を受けて下されば、もう心配要りませんね」
「じゃあ、この依頼をお願いします」
「はい、カイトさんで受注しておきます。3日後の早朝、正門前に集合ですから遅れないようにお願いします」
川のせせらぎ亭に戻り、メグさんに護衛依頼で、3日後の早朝に出る事を告げて、出発までの追加の宿泊費を渡す。
「テントを買わないとな」
中央公園のベンチに座って屋台で買った芋煮を食べながら言う。
「そう言えばダイフクは、食べなくても大丈夫なのか?」
(僕は元々数日は食べなくても平気だし、人形の中だとカイトの魔力で何時もお腹いっぱいだよ)
「そうか、それなら良かった」
「カイトよ、テントならば今夜にでもワシが作っておくぞ。ワッハッハー」
「ああ、そうだな。それじゃあグラン、頼む。レクス、グランに地球の酒を差し入れてやってくれ」
「わかったよ、カイトくん!」
「おお、そりゃ頑張らんとなワッハッハッ」
「レクスも手伝うのなら、好きなものを食べても良いぞ」
「本当?ありがとう、カイトくん!」
屋台に食器を返して川のせせらぎ亭に戻り、裏庭でプリンを作ってみる。
冷蔵庫を開けて、1個取り出して食べてみる。
「まあ、それなりに美味いな」
「レクス、メアリーを呼んできてくれないか」
「良いよ、カイトくん!」
メアリーが小走りでやって来た。
「カイトさん、プリンですか?」
「ああ、この前のプリンを簡単にした劣化版だ」
「カイトさん、それでも凄くおいしいよ。劣化版とか言わなければ分からないし、初めて食べる人は吃驚すると思うよ。やっぱりプリンは美味しいよぉ、毎日食べたいよぉ」
「太るぞ!」
「!!!我慢する」
翌朝、裏庭での剣術の練習を終えて顔を洗い朝食を食べる。
「レクス、今日は屋台をやるぞ。グランは何処だ?」
「グランはね、テントが完成したから、アイテムボックスの中で寝てるよ!」
「えっ、自由に出入り出来るのか?」
「えっ?知らなかったんだ、カイトくん!当然出来るよ、私達は神だからね、エッヘン!」
胸を張って言われてしまった。
商業ギルドで、屋台を出す事を告げると、アマンダさんがプリンの事を聞いて来たので、1個渡して試食して貰った。
「カイトさん、とっても美味しいです、劣化版なんてとんでもないですよ。材料費を聞くと1個で、銅貨4枚が妥当でしょう。器が込みなら銅貨5枚ですね」
「今日は、30個作ってますから、今日から販売しても良いですか?」
「是非お願いします。でしたら今日は、フライドポテトとプリンの販売ですね。頑張って下さい。あと、これが今日の営業許可証です。終わったらギルドに返しに来て下さい」
商業ギルドを出て場所を探す。
既にちらほら屋台が出ている。
場所は、早いもの勝ちらしい。
「すみません、この隣は空いてますか?」
「何だい坊や、屋台を出すのかい?この辺は早いもの勝ちだからね、遠慮せずに出しな。って、屋台はどうしたんだい?」
「屋台は収納に入ってますから。今出しますよ」
屋台を出すと、おばさんが驚いていたが、気にせずに準備を始める。
隣のおばさんも準備中らしく、自分の仕事に戻った。
「さて、どうやって売ろうか……」
「カイトくん、ポテトは試食を出してみたらどうかな!?」
「うん、そうしよう。プリンは1個出してサンプル的に見てもらおう」
フライドポテトを少量揚げて小皿に盛り付けてカウンターに置く。
大袋と小袋にフライドポテトを入れて、値札を書いて袋に付ける。
プリンを1個カウンターに置いて、こちらにも値札を付ける。
これで準備完了だ。
人通りが増えてきたが、まだお客さんは来ない。
両隣の屋台もまだ来ていない。
「坊や、もう少ししたら始まるからね。準備しときなよ」
流石、長年やってるだけあるな。
「分かりました、有り難うございます」
「おやおや、礼儀正しい良い子だね。頑張りなよ」
おばさんの言う通り、お客さんが来始めた。
「おい坊主、これは何だ?」
「フライドポテトですよ、お客さん。ひとつ如何ですか?こちらは甘いお菓子のプリンです。フライドポテトはそちらのお皿で試食が出来ますよ」
「おう、美味いなこれは、それじゃあ大きい方をひとつくれ」
「有り難うございます、どうぞ」
やった!売れたぞ。
「カイトさん、ミウラちゃんを連れて来ましたよ」
アマンダさんがミウラさんの手を引っ張って来てくれた。
「アマンダさん、来てくれたんですか?ミウラさんも、いらっしゃいませ」
「カイトさん、屋台を始めたんですか?聞いて無いんですけど」
うん、言って無かった。
「ほらほら、ミウラちゃん、フライドポテトが、すっごく美味しいんだから。カイトさん、フライドポテトの大を2つとプリンを2つ下さい」
「はい、有り難うございます。こちらでお召し上がりですか?」
「此処で食べるよね、ミウラちゃん」
「あっ、はい」
丸椅子を屋台の横に持ってきて、座ってもらう。
木製のトレイに、フライドポテト大とプリンとスプーンを乗せて、アマンダさんとミウラさんに渡す。
「プリンも有るんですねカイトさん」
ミウラさんが嬉しそうだ。
「美味しい!何これ?じゃがいも?何でじゃがいもが、こんなに美味しいの?何これ、美味しい」
「ミウラちゃん、落ち着いて食べなさい」
いや、アマンダさんも最初は似たようなものでしたから。
「やっぱり、プリンは美味しいよ……アマンダさん、朝もプリン食べたんですよね、ずるくないですか?」
「ミウラちゃん、それは商業ギルドの仕事だからですよ」
「私、商業ギルドに転職する!」
「馬鹿な事を言ってないで、帰ったらアイーダちゃんにも教えてあげなきゃね」
帰っていく2人に手を振って次のお客さんのフライドポテトを袋に入れる。
揚げては袋に入れるを繰り返していると、今度はアイーダさんが来てくれた。
「カイトさん、聞きましたよ。私にもフライドポテトの大とプリンを下さい」
「はい、アイーダさん、有り難うございます。そちらの丸椅子に座ってお召し上がり下さい」
アイーダさんにもトレイに乗せて渡してあげる。
「わっ、本当だ!美味しい。えっ!味付けって塩だけなの?何これ、美味しい」
何これ?が流行りそうだな。
「初めてだわ、こんなお菓子。柔らかくて、冷たくて、甘くて……はぁ……幸せ……」
やっぱり小説って難しいですね。
読んで頂いた方、有り難うございました。