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第85話 カイトの王都滞在編〜下水道の異変!?③

「私が人間だった頃にじゃ、それはもう目の中に入れても痛く無いほど可愛がっていたハツカネズミ達と一緒にの、泥棒家業をやっていたんじゃ」

「ちょっと待て!お前、泥棒だったのか!?」

「ああ、そうじゃ泥棒じゃ。私は依頼を受けての、法外な金利を払わされ続けた人に払い過ぎた金利を取り戻したり、騙されて、美術品や骨董品を奪われた人にそれらを取り返したりして報酬を頂いていたんじゃよ」

「良い泥棒さんですわ!」

「何を言っているんじゃ。良い泥棒なんている訳が無いじゃろう。泥棒は犯罪じゃからの、私も犯罪者なんじゃよ。とは言え、私が盗みに入った所は何処も後ろ暗い、公に出来ないような事をして稼いでいた所ばかりでな、被害届けなんぞ出したりはせんかったから、警察も私の事は本気で探したりはしなかったんじゃよ」

「さっき、ハツカネズミ達と一緒にって言ってたわよね?ハツカネズミは何をしていたの?」

「あの子等は頭の良い子ばかりでね、警報装置の配線を噛み切ったり、内側から窓の鍵を開けたり、人が来ないか見張りをしたりと、良く働いてくれたもんじゃて」


 白ネズミはハツカネズミ達の事を思い出しているのだろう、優しい表情で目にはうっすらと涙が光っている。


「じゃがの、私等にも最後の時が来たんじゃよ。いつも私は依頼に嘘がないか、しっかりと調べて仕事を始めるんじゃが、私の事を邪魔に思った奴等が巧妙に全く繋がりのない依頼者を仕立て上げて、私はとうとう罠にはまってしまったんじゃ」


 俺は使った食器と新月の屋台をアイテムボックスにしまいながら、白ネズミの話を聞いている。


「そしてじゃ、この世界で長く生きてリソースの供給をする事を条件に、私は転生したんじゃよ。その時、大地神様にお願いして、私と一緒に死んだハツカネズミ達を私の一部に、そして私自身もハツカネズミにしてもらったんじゃ。あれからもう、何百年経ったかわからないがの、今では老いぼれのババアじゃて。あっはっはっはっは」



 余程ハツカネズミ達を愛していたんだな……そうじゃ無ければ自分自身ハツカネズミになろうとは思わないだろう。


「こんなに話したのは久しぶりじゃて。何時だったかの、最後に話をしたのは……そうそう、最後に話したのは白い蛇を連れた少年じゃったわ」

「もしかしたらそれはダイフクと、確かシュウジだったか?……って事は200年以上も話していなかったのか?」

「知っているのかい?」

「ああ、ダイフクは今は俺の所にいるからな」

「そうかい、そうかい、あの幼かった白蛇は、今じゃあ小僧くらいにはなっているのじゃろうな」

「ああ人間で言えば12歳か13歳くらいだな。まだまだ子供だ。だが頼りになるぞ」

「あの子は頭の良い子じゃったからの。それにじゃ、これからまだまだ強くなるぞい。しっかりと面倒を見てやるんじゃよ。ほれ、もう行くが良い。この奥を行けば外じゃ。今日は美味いしゃぶしゃぶを食って、おしゃべりをして良い思い出になったぞい」

「白ネズミ、名前を聞いていなかったな」

「名前なんて忘れたぞい。白ネズミで良いぞい」




 俺達は白ネズミと別れて、下水道の奥へと歩いて行った。

 転移で外に出れば早いのだが、別に急ぐ理由もないし、案内役にと小さな普通のネズミが俺達の前を走ってくれているので、その好意を無下にしたくなかった。


「ねえカイト君、この世界には今現在何人の転生者がいるのかな?」

「さあな、少なくともすでに此処にはサトミも入れて六人居るし、さっきの白ネズミとジョニーを入れたら八人になるな」

「しかし、人間以外の転生者が多いのは意外だな」

「以外でも何でも無いと思うよビショップ君。僕の場合は人間が嫌になったからダンジョンコアを希望した訳だし、ヨシュア君は多分、強さを求めてオーガになったんだと思うんだ。前世での経験や憧れなんかは人それぞれだからね」


 ヨシュアは力強く頷いて、ボディビルダーの如くポージングを決めている。


「私の場合は気が付いたらモンスターしか居ない世界にドリアードとして転生していたんだよ」


 サトミが戻ってきて話に加わった。


「あの三人はもう大丈夫だよ、怪我も治したし顔色も良くなったから、もう少ししたら意識を取り戻すと思うよ。あとはララさんとメロディちゃんに任せたけれど良かったよね、カイト?」

「ああ、それで良い。ご苦労さん、サトミ」





 いくつか分岐している下水道を右に左に進んで行くと、何処からかクーン、クーンと犬のような鳴き声が聞こえて来た。


「カイト様、あっちから聞こえてきますわ」


 確かに、マツリが指をさす方から聞こえて来るようだ。


「犬が迷い込んでいるのかもしれないぞ、カイト」

「そんな事があるのか?ビショップ」

「ああ、何処から入り込むのかわからないが、稀に犬や猫がこの中で迷子になるみたいだぞ」

「私達が転生する前には、小さな子供が行方不明になって、街の人や冒険者が総動員で探し回っても見つからずに諦めかけていたところ、下水道に続く竪穴から“此方じゃ”と呼ぶ声が聞こえて来て、その声を聞いた冒険者が下水道に入って探してみると、泣き疲れて眠っている子供を見つけたそうよ。この話を聞いた時は不思議に思ったけど、今思えば、竪穴から聞こえて来た声は白ネズミの声だったのね」


 俺達が鳴き声のする方へ歩いて行くと、そこにはグランの頭の光に照らされた一匹のコボルトが壁を背にして体育座りで項垂れたまま眠っていて、時折クーン、クーンと寝言のように鳴いていた。


「見てカイト、テイムモンスターの証があるよ」

「何処だ?」

「ほら、足の付け根だよ」

「私達とお揃いですわ♪」

「マツリ、テイムモンスターは皆んな同じものを貼っているんだ」

「そうなのですね。でも仲間ですわ」

「テイムモンスター仲間か?そう言えないわけもないがな……おいっ!起きろコボルト!」


 俺の声で飛び起きたコボルトは、一直線に俺の方へ走ってきた。

 そして、ぐるぐると俺の周りを回って暫くして落ち着いたのか、ちょこんと座って俺達を見上げている。


「かわいいですわ♪かわいいですわ♪」

「そうだねマツリちゃん」


 まあ、かわいいと言えばかわいいが、コボルトだしな……


「コボルト、お前は此処で迷子になっていたのか?」


 コボルトは、何度も首を縦に振り頷いている。


「俺達と一緒に来るか?ギルドに連れて行ってやるぞ」


 コボルトは、何度も首を縦に振り頷いている。




 俺達は迷子のコボルトを連れて、案内をしてくれたネズミに礼を言って下水道を出た。

 ギルドに行く途中、屋台の串焼き肉や芋煮を買って皆で食べて、ゴミはアイテムボックスに入れておく。



「私のポロが行方不明なんです!街中探しても見つからなくて……」

「それでしたらギルドに捜索依頼を出されてはいかがでしょうか?」

「はい!お願いします。一刻も早く見つけて下さい!」


 冒険者ギルドに着いて、扉を開けると、若い女性冒険者とギルドの受付嬢の声が聞こえてきた。


「おいコボルト、お前の名前はポロなのか?」


 コボルトは、何度も首を縦に振り頷いている。


「そうか、じゃあ、あの冒険者はお前のマスターなんだな?」


 コボルトは、いや、ポロは何度も首を縦に振り頷いている。


「それなら早くお前のマスターの所へ行ってやれ」

「ワンッ!!」


 ポロは一声吠えて女性冒険者の元へ走っていった。


「えっ!?ポロ?」

「ワン!」


 走って来るポロに気が付いた女性冒険者は、目に涙を浮かべてポロを抱きしめた。


「ポロ、ポロ!何処に行っていたの?凄く心配したんだから」

「下水道で迷子になっていたみたいだぞ」

「あの……あなた達は?」

「私達も冒険者。たまたま下水道でその子を見つけて此処まで連れて来たのよ」

「そうだったんですか……下水道で……どうやって入ったの?ポロ……あっ、すみませんっ!あの、ポロを見つけて来てくれてありがとうございました。何かお礼をしたいのですけど……」

「あー、礼は要らないぞ。俺達はたまたま通り掛かって連れて来ただけだからな」

「そんな……でも……」


 女性冒険者は下を向いてもじもじしている。


「それじゃあ私達に此処の食堂でお茶をご馳走してくれないかしら?ずっと歩いて来たから喉がカラカラだわ」

「はいっ!行きましょう!」


 シェリーの言葉を聞いた女性冒険者は顔を上げ、凄く良い笑顔で嬉しそうにシェリーの手を引っ張って食堂に向かっていった。


「皆さんも早く来て下さい!」


 俺達は苦笑いを浮かべて、シェリーのあとに続いて食堂に向かった。


「どうしてもお礼がしたかったんだろうな」

「そのようだなビショップ、俺だけだったらそのまま帰っていたと思うぞ」

「流石だねシェリーさんは。相手の気持ちを察したんだね」

「キョウヤだったらどうする?」

「僕もきっとカイト君と同じだと思うよ」

「俺もそうだな。あはははは」



読んで頂きありがとうございました。


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