第83話 カイトの王都滞在編〜下水道の異変!?①
「そっちからも来るぞ!逃げろ!!」
「駄目だわ!もう囲まれているわ!」
「ほれ、此方じゃ、此処から行けるぞい」
下水道の竪穴から聞こえてきた声はかなり切迫した様子だ。
そして段々と遠ざかって行った。
「下水道で何かあったようだな。ビショップ、この近くに下水道の入口は?」
「ああ、確か此処から1キロ程先にあった筈だ」
今、目の前にある竪穴には鉄格子が嵌っていて、此処から下水道に入る事が出来ない。
「1キロか……遠いな」
新月の仮面を付けて確認したが、泣き顔マークは出ていなかった。
敵が何かわからないが十分に戦えているのかもしれない。
「カイト、場所はわかったのか?」
「いや、SOSが出ていないから場所の特定は出来ない」
「この下水道は何本か枝分かれしているから、入ってから探すとなると厄介だぞ」
「そうか……だが、多分探せるだろう。取り敢えずこの真下に転移するぞ」
「あの……俺達はどうしたら良いんだ?」
「そうね、あなた達はギルドに帰って、クエスト達成の報告に行くと良いわ」
「俺達は手伝わなくても良いのか?」
「ありがとう、その気持ちだけで十分よ。そうよね、新月仮面」
何で此方に振るんだ?シェリーの奴……
「ああシェリーの言う通りだ。行くぞ、転移だコンセ」
(了解、マスター。3,2,1、転移します)
「わぁ!やっぱり新月仮面だわ!」
「マジか……新月仮面に会ったよ」
「カイト君が伝説の新月えっ!?消え……」
転移の直前に、一緒にドブさらいをした冒険者パーティーの声が聞こえてきた。
噂になっていたのは本当のようだ。
「っていうか、いつの間に俺は伝説になったんだ?」
「ん?なにか言ったかカイト?」
「いや……なんでもない。俺の気のせいだ」
―――――――そう、気のせいだ。
転移も済んで、泣き顔マークも出ていないので、俺達は仮面を外した。
下水道には、マジックアイテムなのだろう、ぼんやりとした明かりが灯っている。
それでも周囲を見渡せられる程には明るくはなく、足元を薄く照らす程度の明かりしかない。
「暗いな……レクス明かりを頼む」
「はいなの、カイトくん!……ライト!!」
「うおーい!レクス、またワシの頭かぁぁぁぁ!?」
レクスの魔法でグランの頭が眩く光り、下水道内の周囲を明るく照らした。
俺達の進行方向の左側に水路があり、水路よりも広い通路がある。
そして、所々にある細い水路からは、時折水が流れ落ちていた。
「グラン様の頭はとても便利ですわ」
「言っておくがなマツリ、これはレクスの魔法で光っているだけだからな!ワシの頭が光っている訳ではないぞ!ったく……ワシの頭を何だと思っているんだ……」
グランの機嫌が著しく悪いな。
ご機嫌取りをしておいた方が良いかもしれない。
「グラン、これは誰にでも出来る事では無いからお前は誇っても良いんだぞ。お前のお陰で皆が助かっているんだからな」
「おお……そうなのか?カイトよ。ワシの頭は……ワシの頭は役に立っているのか?」
「ああ、役に立っているぞ。なあ皆んな」
俺は皆に同意を求める為に振り返ると、皆が口を押えて後ろを向いていた。
「う、うん……役に立っているの!」
「そうだぜっ!グランのお陰で周りが良く見えるぜ!」
「今のグランは鍛冶をしている時のように光輝いているニャン」
レクスとエルとマックニャンがグランを褒める。
「グランさん、カ、カッコイイよ!」
「グラン様、素敵ですわ♪」
「グラン……流石、鍛冶神だな。なあシェリー」
「え、ええ……素晴らしい特技だわ……」
「ウガー……」
そして、笑いを堪えながらもサトミ、マツリ、ビショップ、シェリー、ヨシュアもグランを持ち上げる。
いや、マツリだけは本気で思っているようだ。
「そうか……?フフン、そうかそうか!ワッハッハッハッハ、ワッハッハッハッハ。レクスよ、もっと光を!ワシの頭にもっと光を」
「わ……わかったなの……ラ、ライト……」
グラン……ちょろいぞ、ちょろすぎるぞ………機嫌が直ったのは良いけど、良いのか?神がそれで良いのか?
「カイト君、前からネズミが来るニャン」
「この鳴き声だとかなりの数がいそうだわ」
マックニャンがネズミが来ると言ってすぐに、遠くでチュウチュウとネズミの鳴き声が聞こえ始めた。
その声は次第に大きくなり、下水道の中で反響して、まるで四方を囲まれたように錯覚してしまいそうだ。
「あれはネズミ……いや、ハムスター?いや違うな、モルモットか?ビショップ」
「多分な……俺も見るのは初めてだがモルモットに似ているな」
「モルモットって下水道に居るものなのかしら?私達、王都に来てから下水道に入るのは始めてなのよ」
「うわー、大きいね。ねえカイト、あれはモルモットのモンスターなのかな?」
「さあな……あんなモルモットは始めて見るぞ。いったい何匹居るんだ?」
「ウフフ、愛らしくて、かわいいですわ」
マツリの言うように、まるまると太っているそのモルモットは、後ろ足で立ち、丸い耳をピクピクと動かしながら、円な瞳を此方に向けて首を傾げる仕草がとても愛らしい。
体長は1メートル前後で、ふさふさの毛は白、茶、黒、そして、斑と様々だ。
見た目はモルモットに似ているが、額から角が生えていて、背中には体格に似合わないくらい小さな皮膜の翼がある。
「あの翼では飛べないんじゃ無いか?」
「カイト君、翼は飛ぶ為の補助でしかないんだよ。彼等は魔力で浮力を作り出し、翼を使って進むんだよ」
「そう言えば、そんな話を前に聞いた事があるな」
俺達が悠長に話していると、モルモットモンスターの群れから一匹が、小走りで此方に走って来た。
「かわいいですわ!かわいいですわ!」
マツリが前に出て両手を広げ、ウエルカムの体勢になる。
マツリが抱きしめようとした瞬間―――――――グサッ!!
モルモットモンスターの角がマツリを貫いた!!
「マツリちゃん!?」
マツリの背中からモルモットモンスターの角が生えて来た。
「キャッ!」
マツリは短い悲鳴を上げた後、数匹の蝙蝠になって俺の隣に集まり、元の姿に戻った。
「大丈夫か?マツリ」
「びっくりしましたわ……」
「えっ!?それだけ?角が刺さっただろう?」
「マツリちゃん、怪我は無いの!?」
「私に物理攻撃は効きませんわ。サトミお姉さま、あのモンスターの見た目に騙されてはいけませんわ!性悪ネズミですわ!角が刺さる瞬間にニヤリと口元を歪めて嘲笑ってましたわ」
マツリは豊かな胸元から炎の槍を出して、モルモットモンスターに向けて構えた。
俺は新月の刀、サトミは棘蔓、グランは小槌を両手に、マックニャンはレイピア、ビショップは流星のグローブでナイフを具現化して、シェリーは流星の弓、ヨシュアは流星のガントレットをそれぞれ構えた。
「ビショップ、ナイフは普通なんだな」
「ああ、嬉しいことに、この世界に現存する物は普通に具現化出来るんだ」
モルモットモンスターは、ジリジリと此方に近づいて来ている。
――――――戦闘の始まりだ。
モルモットモンスターはそれほど強くは無いが、倒しても倒しても次から次に襲いかかって来る。
「いったいどれだけ居るんだよ!?」
「そうだなビショップ。何だかもう面倒くさくなって来たぞ」
「可愛らしい顔で襲いかかって来るんだもの……夢に出て来そうだわ」
数が多いとは言え、可愛らしいモルモットを一方的に蹂躙しているのだから、夢見が悪いのは確かだ。
「ほれ、此方じゃ!此方から抜けられるぞい!!」
俺達が、モルモットモンスターの数の多さにうんざりし始めた時、枝分かれしている少しだけ狭い下水道の奥から声が聞こえてきた。
「誰だ?ビショップやキョウヤの声では無いな」
「カイト君、先に入っていた冒険者かもしれないよ」
「そう言えば、あの時聞こえて来た声に似ていたな」
その下水道は俺たちの左側を流れている水路の向こう側にある。
そこへ行くには、俺たちの横を流れている水路を飛び越える必要がある。
「ビショップ、シェリー、ヨシュア、向こうの下水道に飛び移るぞ」
「「オッケー、リーダー」」
「ウガー!」
「行くぞサトミ、マツリ、キョウヤ。レクス達は先行してくれ」
「うん、わかった」
「はいですわ」
「了解なの、カイトくん!!」
俺達は、分岐した下水道にグラン、レクス、エル、マックニャン、ビショップ、シェリー、キョウヤ、サトミ、マツリ、俺、最後にヨシュアが飛び移り、奥に進んでいく。
モルモットモンスターは、円な瞳をキラキラさせて首を傾げながら、水路を飛び越えた俺達を見送っていた。
「声の主が居ないな……先に抜けて行ったのか?」
「カイト、取り敢えずこのまま進んでみましょう」
「そうだなシェリー」
足元には普通のネズミが行ったり来たりしているが、俺達はそれには構わずに下水道を進んで行った。
「何だか、この普通のネズミを見ると安心感が湧いてくるわ。勿論ネズミなんて嫌いだけど、今はとても可愛く見えるわね」
「あの、訳のわからない変なモルモットモンスターと戦った後だからな、シェリーの言う事も尤もだ」
「私も、あの性悪ネズミなんて嫌いですわ!」
足元を走り回っている普通のネズミは、俺達が歩を進めて行くにしたがい少しずつ増えていってはいるが、俺達の歩みの邪魔にならないような位置を、行ったり来たりしているだけだ。
これもある意味、意味不明な行動だとも言えるが、今のところ害は無いので下水道を先に進んで行く。
途中の分岐は無視して、まっすぐに進んでいると、ドーム状になっている広い空間にたどり着いた。
そこには数えきれない程の普通のネズミと十数匹の大型犬並の大きさのネズミ、そしてその後ろには、体長が2メートルはありそうな大きな白い一匹のネズミが居て、その全てが一斉に俺達を見ている。
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