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第82話 カイトの王都滞在編〜街の掃除②

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「ビショップ、今からこの貯水槽を浄化するぞ……ヒールサンクチュアリ」


 ヒールサンクチュアリの浄化の光球が俺の手から離れて、回転しながらゆっくりと貯水槽の中央に降りていく。

 淀んだ水の上に降りた浄化の光球は、次第に回転速度を増してゆっくりと沈み、その姿が見えなくなると淀んでいた水がぐるぐると回り始めた。


 水に溶け込んだ浄化の光球が粒子となり、貯水槽全体に広がって行き、周りの石に生えていた苔や汚れ、水に浮かんでいた藻やゴミを分解し、浄化する。


 水そのものや石が分解されないのは、俺がイメージした魔法だからだ。

イメージに失敗したら、なんの変化も起きないか、水や石まで分解して原子に戻り、無くなってしまうだろう。


 あるいは、無くしてしまった方が良かったのかもしれないが……


「な、な、な、何ですか、今のは!?魔法ですか!?」

「マツリちゃん見て!水がキラキラ光っているよ!」

「キレイな水ですわ。お宝のようですわね」

「マツリさん、そこはお宝では無くて、宝石って言ったほうが良いと思うよ。アハハハハ」

「この水なら飲料水としても使えそうだわ」

「カイト、お前……昔からだけど、自重しないよな……」


 ギルドの受付嬢が、両手を振り回して驚いている中、サトミ、マツリ、キョウヤ、シェリー、ビショップは平常運転で、何事も無かったかのように喋っている。


「ちょっと!皆さん!今のを見ましたか!?今のは何ですか!?何故そんなに平然としていられるのですか!?」

「えっ?だって、カイトの魔法だからね」

「カイト様なら、これくらい普通ですわ」

「そうだね、カイト君だからね、うん」

「これくらい誰にだって出来るぞ。なあ、ビショップ?」

「えっ?俺には無理だぞ」

「出来るとしたらアラディブくらいかしらね。カイトとならいい勝負が出来るんじゃないかしら?」

「ウガー♪」

「アラディブと比べるなんて失礼だぞ、シェリー、ヨシュア」

「ふーん、凄い自信なのねカイト」

「ああ、アラディブには絶対に勝てない自信があるぞ。俺なんかと比べたらアラディブに失礼だろ」


 ザッバ――――――ン


「そっちの自信かいな!!」

「うおっ!?ジョニー!?ビックリしたなぁ……いったいどっから出てくるんだよ!?ったく……」

「さっきな、散歩しとったらな、ヤギ頭のおかしな奴が、わいを見て逃げて行きよってん。それだけ伝えとこう思うてな。ほなな〜」


 いきなり貯水槽からジョニーが飛び出して来て、喋るだけ喋って帰って行った。

 ここに居る全員が放心状態だ。

 いや、冒険者ギルドの受付嬢は気を失っていて、シェリーは流星の弓を構えていた。


「いったい、何をしているんだあいつは……散歩?」

「あは、あはははは、あはははは」

「ジョニー様!!」

「……チッ仕留めそこなったわ」


 サトミは大笑いをして、マツリは目を輝かせている。

 シェリーは苦虫をかみつぶした表情で何か物騒な事を言っているが、おそらく本気では無いのだろう。



 ギルドの受付嬢はすぐに意識を取り戻した。


「はっ!?此処は?そうだわ、何か恐ろしい物が貯水槽から……」

「何を言っているんだ?夢でも見たんじゃないか?きっと疲れているんだと思うぞ」

「今日はもう帰って休んだ方が良いですわ」


 マツリが珍しくナイスなアシストだ。


「はぁ……何だかそうみたいですね。ここのところお休みを頂いていませんでしたから疲れが溜まっているのでしょう。では、私はこれで失礼します。クエスト頑張ってくださいね」





「カイト君は立派な詐欺師になれそうだね。アハハハハ」

「キョウヤ、何か言ったか?」

「いやいや、別にたいした事ではないよ。次はドブさらいだね。指定の場所は何処だい?」

「この通りの先にある一画だ。そこまでゴミを拾いながら行くぞ」




 後ろを振り返ると、綺麗になった通りがある。


「この目に見える達成感があるから掃除って割と好きなのよ」


 シェリーの言うように、結果が見えてわかると、皆の表情も明るい。


「ご苦労さん、ありがとうね」

「こんなに綺麗になっている通りは初めて見たね、おばあちゃん」

「この冒険者さん達がゴミを拾ってくれたからだよ。お前もお礼を言いなさい」

「うん!お兄ちゃん、お姉ちゃん、綺麗にしてくれてありがとう!!」


 俺達がゴミをヨシュアが持つ袋に入れていると、通り掛かったお婆さんと孫なのだろう、小さな女の子が笑顔で俺達にお礼を言ってくれた。


「ほう、隅々まで綺麗になっているな。ここまで綺麗にしてくれるとゴミなんか気軽に捨てられやしねぇな」

「まったくだ。この綺麗な通りに最初にゴミを捨てる奴は勇者だぜ。どわっはっはっは」

「なんだ、なんだ?何か面白い事でもあったのか?」


 何故か人が集まって来て、俺達がその様子を呆然と見ていると、最初にお礼を言ってくれた小さな女の子が、そして一人、また一人とゴミを拾って、ヨシュアが持つ袋に入れていった。


「綺麗な通りは気持ちが良いな。俺達の街だ!俺も手伝うぞ!」

「私も手伝うわ!」


 そうして此処は、まるで日曜日の朝の町内清掃の集まりのようになり、あっと言う間に通りの端から端までゴミ一つ落ちていない綺麗な通りになった。


「私、何故か胸にジーンときましたわ」


 そう言ってマツリは胸を押えて、目を潤ませている。


「レクスちゃん達も凄く嬉しそうだね、カイト」


 この世界の人々が自ら進んでゴミを拾っている姿を見て、レクス達はなんとなく慈愛に満ちた表情をしている。


「レクス、この世界の人達も捨てたもんじゃないな」

「うん!あのバカに代わって、みんなで頑張って維持してきた甲斐があるの!!」



「掃除も皆でやると、思ったより楽しいもんだな。お前等のお陰で見違えるようになったぜ。ありがとな」


 職人風の強面おじさんが俺達に礼を言ってきた。


「それじゃあ俺達は向こうのドブさらいに行きますから。手伝ってくれてありがとうござました」

「おう、クエストだろ?頑張れよ」



 


 指定されたドブ川に着くと、三人の若い冒険者パーティーが、スコップを使ってドブさらいをしていた。


「遅かったな。先に始めているぞ」

「どういう事だ?」

「なんだ、知らないのか?此処のドブ川は下水道までの距離が長いからな、複数のパーティーが合同で作業をするんだよ」

「そうか、遅くなって済まなかったな」


 俺とキョウヤ、ビショップ、ヨシュアは、先に来ていた冒険者パーティーと一緒に溝に溜まった泥や枯葉をスコップですくい出す。

 それをサトミ、マツリ、シェリーが袋に入れていった。


 スコップと袋はギルドが用意したものを使っている。


 レクス達は何処から出したのか、箒と塵取りを使って、袋詰が終わったあとの石畳に残った細かい砂を掃除していた。



「ご苦労さん。休憩にしてお茶でもどうだい?」


 その声に振り向いてみると、この辺の家のおかみさん達なのだろう、三人の女性がお茶とラスクのようなお菓子を、広げたシートに並べていた。


「うわー、ありがたい。ちょうど疲れていたところなんだ」

「おばちゃんありがとう!」


 見ると、皆んな泥で汚れている。

 このままの手でお菓子を食べると病気になるかもしれない。


「レクス、皆んなを綺麗にしてやってくれないか?」

「うん!わかったの、カイトくん!!」


 レクスの魔法の光が皆んなを包み、みるみる綺麗になっていった。


「えっ!?今のは魔法なの?」

「へー、このような魔法もあったのですね。ありがとうございます」

「殺菌もしておいたの!!」

「さっきんが何かわからないがありがとな」


 俺達は、おかみさん達が持って来てくれたお茶とお菓子で暫しの休憩をとった。


「おやおや、こんなに可愛らしい人形も手伝っているのかい?」

「箒でさささーと掃いているの!!」

「私も箒だぜ!」

「ワシは塵取りだな。ワッハッハッハッハ」

「私も塵取りの担当ニャン」

「あらあら、おしゃべりもするんだねぇ」


 若い冒険者達は疲れが取れたようで、準備を始めている。


「レクス、俺たちも始めるぞ」

「うん、カイトくん!!」

「美味しいお茶とお菓子をありがとうございました。お陰で疲れも取れて、まだまだ頑張れそうです」

「そうかい、それは何よりだよ。溝を掃除してくれているんだ、私らの方こそお礼を言わないとね。レクスちゃん達も頑張りなよ」

「うん、ありがとうなの!おばちゃん!!」

「ウフフ、可愛らしい子達だねぇ」



 泥をすくい上げて、袋に入れて、石畳の掃除をする。

 これだけの作業でも結構な重労働だ。


 俺達転生者の身体は、これくらいでは疲れる事は無いが、先に来ていた冒険者パーティーは疲労が溜まっているようで口数が少なくなっているが、それでも自分達を鼓舞するように声を掛け合って頑張っている。


「あともう少しで下水道だぞ」

「頑張ろう、もう少しだよ」

「カイト君達も、もうひと踏ん張りですよ。頑張りましょう」


 下水道に続く竪穴まで、もう目と鼻の先だ。


「ビショップ、ヨシュア、ラストスパートだ。一気に行くぞ」

「オッケー、リーダー」

「ウガー♪」


 俺達は先頭に立ち、次々に泥をすくい上げて行く。

 これで、先に来ていた冒険者パーティーの負担も軽くなるだろう。


 そうして俺達は下水道の竪穴までたどり着いた。


「終わったな、お疲れ様」

「ああ、お疲れ様ってか、お前等全然疲れたように見えないぞ!」

「後は泥の袋をギルドに持って行くだけですね」

「あれ!?袋が無いよ?」


 今までドブさらいをした溝とその周辺は、まるで新品のように輝いていて、泥が入った袋どころか砂の一粒も落ちていない。


 きっと、レクスの魔法なのだろう。


「なんだ、このあり得ない綺麗な溝は……」

「みんなで頑張った成果だよ。泥の袋は私とマツリちゃんとシェリーさんが持っているよ」


 冒険者パーティーの疑問に、サトミがマジックポーチをポンポンっと叩きながら答えた。


「かなりあった筈ですけど、凄い容量ですね」


 サトミとマツリは得意げに、ニコニコ顔だ。


 その時……


「そっちからも来るぞ!逃げろ!!」

「駄目だわ!もう囲まれているわ!」


 ドブさらいも終わり一息付いていると、下水道に続く竪穴から切迫した声が響いてきた。




読んで頂きありがとうございました。


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