第81話 カイトの王都滞在編〜街の掃除①
今年最後の投稿です。
冒険者ギルドに入ると、受付にも、併設されている酒場にも沢山の人が居て、クエストボードの前にも人だかりが出来ている。
「何だ、この人の多さは何かあったのか?」
「いやカイト、これが王都では普通なんだ」
「これじゃ、目ぼしいクエストはすぐに無くなりそうだな」
「そうだな、だから皆んな必死なんだ」
ビショップが言うには、王都では宿屋や貸家の料金や食堂や酒場の料金などなど、全てが地方に比べて高いらしい。
それで、冒険者達は割の良いクエストを受ける為に必死なのだとか。
「なら、王都を出れば良いと思うんだが、ギリギリまで粘るんだろうな」
「アハハハハ、何処の世界でも似たようなものだな」
クエストボードの前で暫く並んで待っていると、俺達に順番が回ってきた。
「そう言えば、此処に入って来た時にお約束が無かったな。ビショップ達が一緒に居たからか?」
「いや、恐らく自分達の事でイッパイイッパイなのだと思うぞ」
「そんなんで大丈夫なのか?王都の冒険者ギルドは……」
「高ランク冒険者は至って普通だから大丈夫なんだろう」
「おい!喋って無いで早く選べよ!」
後ろで並んでいる若いパーティーに注意されてしまった。
「ああ、済まない」
クエストボードを見ると、討伐依頼や護衛の依頼は残っていなかった。
残っているのは……
「薬草採取、大通りのゴミ拾い、貯水槽の掃除、ドブさらい、下水道のネズミ退治、子守り、食堂の手伝い、雑貨屋の店番、荷物の運搬……なんだ、結構残っているじゃないか。レクス、どれが良い?」
「お掃除なの!」
「磨く事ならワシに任せろワッハッハッハッハ」
「掃除なら得意だぜ」
「ネズミ退治もニャン」
「あっ……」
「ん?」
後ろの若い冒険者パーティーがもじもじしている。
もしかしたらと思い、聞いてみた。
「ネズミ退治はお前達がするか?」
「良いのか?」
「ああ、俺達は何でも良いんだ。良し、レクス、ごみ拾いと貯水槽とドブさらいをするぞ」
「あ、ありがとう……」
俺は若い冒険者パーティーに手を振って受付カウンターに向った。
「見事に一番人気の無いクエスト三種を選んだなアハハハハ」
「ビショップ達が嫌なら帰っても良いんだぞ」
「私達もやるわよ。こう見えても掃除は結構好きなのよ」
「ウガー♪」
「皆でやれば何でも楽しいさ」
「キョウヤも良いか?」
「言っておくけど僕は、清掃会社でバイトをしていた事もあるんだよ」
「それは頼もしいな」
受付カウンターにクエストボードから剥がした紙を持って行った。
「この三つを受けて頂けるのですか?誰もやりたがらなかったので、凄く助かります」
「最終的に誰も受けなかったらどうなるんだ?」
「私達、ギルド職員が交代で行っているのです」
「そうか、ギルド職員も大変だな……」
「そう思って頂ける方がもっと居てくれると良いのですけどねフフフ……では、ギルドカードを出して下さい」
俺とビショップ、シェリー、キョウヤがギルドカードをカウンターに出した。
「えっ!?Bランクですか?」
俺と同じで、ビショップとシェリーもBランクだったらしい。
キョウヤはCランク冒険者だ。
「掃除にランクは関係無いだろ?」
「あ、はい、そうですね。では受理させて頂きます」
俺達は商店街の大通りをゴミを拾いながら貯水槽に向かって歩く事にした。
拾ったゴミは、ギルドで借りた大きな袋に入れるらしい。
「大きな袋だね〜、誰がこの袋を持つの?」
サトミの疑問も尤もだ。
普通に持つと袋の底が地面に付いて、引きずって歩く事になる。
「この大きな袋を持てるのはヨシュアしかいないだろう」
「ウガー♪」
「ああ、頼んだぞ」
冒険者ギルドから一歩外に出ると、早速ゴミが落ちている。
「これは、串焼き肉の串だな」
「カイト君、建物と建物の間もゴミが落ちている事が多いから要注意だよ」
「そうか、それは気が付かなかったな」
「流石だわキョウヤ君、掃除のプロは見る所が違うわね」
冒険者ギルドと隣の建物の間を見てみると、キョウヤの言うようにゴミ捨て場の如く、狭い隙間に投げ入れられている。
「手前は取れるが、奥まで手が届かないな。ったく誰が奥まで投げ入れるんだよ」
ビショップが隙間に手を入れて拾ったゴミを、ヨシュアが持つ袋に入れながら愚痴をこぼす。
「私達が拾って来るの!!」
「これが私等の天職だぜ!」
「隙間のゴミはワシ等に任せろワッハッハッハッハ!」
「隙間は私の領分ニャン!」
「ああ、頼むぞ。しかし、テンションが高いのはどうしてだ?」
「レクスちゃん達はきっと楽しいんだと思うよ」
サトミが言うように、レクス達は本当に楽しそうにゴミを拾っては袋に入れて行く。
一つの隙間が終わったら、人々の足の間を駆け抜けて大通りを横切り、反対側の建物の隙間に、そしてまた大通りを横切り、こちら側の建物の隙間にと、忙しく駆け回りゴミを集めていく。
俺たちも大通りの真ん中や端に落ちているゴミを拾っては袋に入れて、レクス達に合わせて歩いていた。
「ゴミを捨てたらダメなの!!」
レクスの声に振り向いて見ると、大柄な冒険者が串焼き肉の串を捨てたようで、レクスが串を拾って振り回しながら抗議しているところだった。
「あ、ああ、わかった。済まなかったな」
冒険者は周りから冷ややかな注目を浴びて、頭を掻きながらレクスに謝り串を受け取る。
見ると、数人の人が手に持った串をいそいそと、ポケットやバッグに入れていた。
見た目が可愛らしい小さな人形達がゴミ拾いをしているところを見て、ゴミを捨てられる訳が無い。
それでもゴミを捨てる奴がいたら、余程良識の無いどうしようもない奴だろう。
先程の冒険者はキョロキョロと周りを見ながら串を持って歩いて行った。
「そうか、この通りにはゴミ箱が無いんだな」
「そうね、そう言えば見た事が無いわ」
「何処に行っても、通りにゴミ箱が置いてある街なんか無いと思うぞ、カイト」
「公園や屋台がある広場なら見た事がありますわ」
「そうだね、マツリちゃん。私も公園でなら見たよ」
「まあ、ゴミは持ち帰るのが基本だからな」
俺たちが通った後の大通りはゴミ一つ落ちていない、綺麗な通りになった。
そしてこの角を曲がれば貯水槽だ。
「汚いな、水が腐っているんじゃないか?」
貯水槽とは名ばかりで、穴を掘って石で周りを囲んでいるだけの池のような物で、淀んだ水が貯まっている。
石には苔が隙間なく生えていて、水には緑色の藻が一面に浮かんでいる。
そして更に、ゴミや虫の死骸まで浮かんでいる。
「なあ、ビショップ。この貯水槽はなんの為にあるんだ?」
「さあな、俺にもわからん。全く酷い状況だな」
匂いも酷く、マツリは鼻を摘んでいる。
「お疲れ様です。そろそろ貯水槽に着く頃だと思って来たのですが、この貯水槽は職員の私達でもどうして良いかわからず、ずっと手付かずの状態になっているのです。それで、なんの為の貯水槽かということですよね?」
俺とビショップが話していると、受付に居たギルド職員が小走りでやって来た。
俺達の話が聞こえたのだろう、貯水槽の用途を教えてくれるみたいだ。
「この貯水槽は建国当初からあったそうで、何でも、防火用水として作られたそうですよ」
「防火用水なら、ここから水を汲んで持っていくよりも、魔法で水を出して直接火を消す方が早いだろ」
「そうなんですよ。今までも火が出た時は魔法で消していました」
「いらないんじゃないか?この防火用水……それに、このままでは衛生面で良くないしな。放っておくと病人が出るぞ」
「その衛生面と言う言葉はわかりませんが、病人が出ると言うのはこの水を見ればなんとなくわかります。いったいどうすれば良いのでしょう……」
「貯水槽を無くせばいい。そうすれば、この土地も有効に使えるしな」
「そうですね、ギルドマスターに話してみます。ですが、結論が出るまで長く掛かるもしれません」
確かにな、国が絡んで来ると時間も掛かるだろう。
「取り敢えずクエストだし、このままには出来ないから、此処は俺達が掃除をしておこう」
「でも、どうやって……私達でもお手上げの状態なのに、綺麗に出来るのですか?」
出来るのか?石はブラシで擦れば良いとして、汚れた水はどうする……?
汚水は浄化槽を通して……浄化?
俺はダンジョンでアンデットを浄化したのを思い出した。
(セルジュ、ヒールサンクチュアリでこの貯水槽を綺麗に出来ないか?)
(うん……できる。でも、イメージが大事。とても、とても大事)
(そうか、やってみよう)
俺は貯水槽全体を浄化するイメージを思い浮かべる。
(どうだ、セルジュ)
(おおー、びっくり!マスタ……イメージだけは天才的……)
(その、だけってのはなんだ?だけってのは!?)
(ことばのあや。早く浄化する。頑張れマスタ)
(ったく……)
俺はイメージを膨らませて両手に魔力を集中させた。
「カイト……?」
「ビショップ、今からこの貯水槽を浄化するぞ……ヒールサンクチュアリ」
来年も宜しくお願いします。
読んで頂きありがとうございました。